愛情
大きな扉を前に立った時、隣に立つ君が私の腕にそっと手を添えました。
将来、パパのお嫁さんになる!
君がそう言っていたのはずいぶん昔の話。
あの頃はそれはもう可愛くて、君のことを溺愛していました。
いつからだろう。
家に帰ってきても、君と話をしなくなったのは。
いつからだろう。
君と食事をしなくなったのは。
やがて君は大人になり、私たちの手から飛び立って行きましたね。
嬉しいような、悲しいような気持ちでいっぱいでした。
君がいなくなった家はなんだか元気がない。
それでも、君の話はよく出ていました。
あの子は元気でやっているのだろうか。
風邪などひいていないだろうか。
周りの人と上手くやっているのだろうか。
君への心配は尽きません。
ある日、お母さんがなんだかソワソワしていました。
その理由を訪ねる前に家のチャイムがなり、君が現れました。
1人の男性を連れて。
あぁついに。
娘を持つ者として、通るだろう道なのは分かっていました。
君は、本当に私たちの腕の中から巣立っていってしまったのですね。
少し寂しい思いでした。
お父さん。
もうパパとは呼んでくれない君は、照れ臭そうに笑いながら言いました。
他の人のお嫁さんになってごめんね、と。
君はもう小さかったあの頃の女の子ではなく、いろんなことを経験した女性なのだと思いました。
扉が開いた先の長いような短いような道を歩けば、この添えられている手は離れてしまう。
君を1番愛しているのは私だと思っているが、この道を歩き終えた時にはこの座を開け渡そう。
道が終わる先で待っている、君よりも緊張している君が1番愛した男に。