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恋人交換制度!?学校のアイドルたちが俺に彼女交換を申し込んでくる件  作者: ponshiro
第1章 私と恋人になりませんか?【導入】
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第4話 水無瀬と俺

「じゃっ!せんぱい、また昼休みに部室で!」


「おう」


 教室が1階にある小梢とは下駄箱で別れて俺は2階の2年A組の教室に入るとクラスの中がざわめいていた。



 俺は誰に挨拶するでもなく教室入ってすぐ2列目の一番前である定位置の自分の席に着く。

 んでもっていつも通りスマホでゲームをして過ごそうとすると、普段は誰からも来ないLIMEのポップアップ通知が表示されていた。



 誰だよ、と思ったら小梢だった。そういえば俺達恋人同士になったからいつでも連絡とれるんだな。

 今までは部室に行けば会えるということでこのクソ制度がはじまる前からアイツとは特に連絡先も交換していなかったというのになんだかアイツとこうやってLIMEができるということが新鮮に感じる。


 見てみると小梢からは『せんぱいへんたいですー』とかいう意味不明な内容のメッセージと慌てた顔をしたキャラのスタンプが送られてきていた。


 誰がヘンタイだよ。何やってんだアイツと思いながらもアイツからのメッセを貰えたことがなんとなく嬉しくなって急いで『どうした?』と返信を打つ。

 送信しようとしたものの、なんだか人の気配がする。顔を上げるとクラスメイトが俺の周りに集まってきていた。


「か、兼平。お前、1年の神崎と何かあったのか?」

「い、今、一緒に登校してきてたよな?」



 声を掛けてきたのは俺の元友人で今はただのクラスメイトの菊地と堀北だ。どちらもこのクラスのトップカースト代表格。リア充グループに所属していつも騒がしい連中だ。



「何かって、別に。

 アイツは部活の後輩なんだから一緒に登校しててもおかしくないだろ。前から部活帰りに一緒に下校してたし」


「いや、それはそうだけど、それはただの部活の流れでみたいな感じだっただろ。

 それに朝からってのは今までになかっただろ。ずいぶん仲良さそうだったって噂になってんだよ。

 昨日兼平の部屋の辺りで寮監と何かトラブったって話も出てるしよ」


「そうそう!あの1年女子人気ランキング1位の神崎がまさかアニゲーヲタの兼平ととかありえないだろと思って今までは放っておいたんだけど俺達もさすがにこれはって感じになったんだよ」

「どうなんだ、そこんとこ!付き合ってんのか?」



 おいおい、なんなんだこいつらは。久しぶりに声かけてきたと思ったら随分と他人のプライバシーを聞いてくるな。つーか小梢って1年女子人気ランキング1位だったのか。まぁ見た目だけは良いからな。てかその神崎小梢もド級のアニゲーヲタクなんだが。やっぱり男と女では同じ性質でも受け取られ方が全然違うということか。現実はしょっぱいな。



 どうやら小梢が今まではノーマークだった俺と仲良さそうにしていて皆気になってるってことらしい。

 マジかよ。全部小梢が言ったとおりじゃねーか。アイツ彼氏持ちになった途端にマジで注目されてんな。

 隠すようなことでもないということで俺はアイツと付き合い出したことを話すことにした。

 俺がそれを話すのと教室のドアが開いて誰かが入ってくるのはほぼ同時だった。



「みんなおっはよー!兼平くんもおは…」


「ああ、実は昨日から神崎と付き合うことになった。」


「ええーーーー!マジかよ!やっぱりかよ!」


「おい!皆大変だ!あの神崎小梢がエントリーしたぞ!」


「マジか!本命は誰だ!?」



 俺が小梢と付き合っていることを告げるとクラスメイトたちは可愛い彼女持ちとなった俺に尊敬のまなざしを向けたり羨ましがるどころか、「神崎が彼氏持ちになった」という事実の方に狂喜乱舞していた。


 

 予想外の方向でざわつく教室に俺は一瞬何が起こったのかと理解不能で混乱しそうになったが、小梢が言っていたことを思いだした。


『てかせんぱい全然クラスの様子とか見てないんですね。あの制度がはじまってからどんどんカップルできてるのに。とりあえず妥協できるところで付き合って見て、交換使ってもっといい相手ゲットしたいーとか、偽でもいいから本命のためにとりあえずカップルになろうと協定結んだりとか最近そんなんばっかりですよ。知らなかったんですか?』



 そうだった。

 小梢の話によると恋人交換制度がはじまってからこの学校では恋人を作るということは別に珍しくもなくなったし、付き合っているからといって本当に好きで付き合っているとも限らないと認識されるようになったんだ。


 逆にこの学校で今この時期にあえて恋人を作るということは交換されるリスクを受け入れるということ。要するに恋人交換制度へのエントリーを意味しているわけだ。それはつまり、あの1年生アイドルの神崎の好きな相手はすでに恋人持ちのエントリー者の中にいるということでもある。



 恋人持ちのリア充男子の連中はそれは自分のことではないかと狂喜乱舞しているというわけだ。マジでクソリア充共だな。つーか堀北も菊地もこのクラス内に彼女がいるというのにそんなんで大丈夫なのか?


 確かに小梢レベルに可愛い女子となるとこのクラスじゃ水無瀬くらいしかいないのも事実だからその気持ちはわからんでもないが今の恋人をもっと大事にしろよ。シャッフルチャンスに喜ぶ男子勢に女子連中はちょっと引き気味だぞ…。

 

 要するにこいつらは俺が本当に小梢と恋人になったとは微塵も信じちゃいなかった。まぁただのゲーマーヲタクでこれまで何もなかった先輩後輩の俺たちが突然恋人になればそりゃそう受け取られるわな。

 しかもそれは事実なだけに俺には何の反論の材料もなかった。


 

 はぁ…来週にはこんな連中と恋人交換される可能性があるのか…。まあ小梢の方は俺に対してはもちろんのこと、崇のような金持ちイケメンに対してもキモいとか平気で言う先輩に対して取り繕う要素0なタイプでお目当ての相手以外には辛対応だろうから何の心配もしてないけどな。てかあんなドSと毎日8時まで一緒とかシャッフルされちゃった男の方に同情するわ。


 

 俺がふぅとため息をつきながら連中を無視して小梢に返信を書くことにした。

 要するに小梢の方も教室入って早々に同じ目にあって大変な目にあって、打ち間違えをしながらも俺に泣きついてきていたというわけだ。遅ればせながらようやく小梢の状況が分かってきたぞ。


 俺はさっき打ち込んだ内容を削除して『俺も大変なんだが』と打ち直した。けれど、それを送信したところでまたもや人の気配がして顔を上げるとさっきから一人だけ俺の席の前で固まっている奴がいた。

 



「水無瀬?おはよ。

 水無瀬もそこに突っ立ってないで席に行ったら?」



「あっ、うん」


 水無瀬は俺が声を掛けると慌てたように自分の席に向かった。なんなんだアイツ?




・・・・・・・・・・・・・




 昼休みになった。


 俺はいつもどおり購買で適当なパンを買って部室で食べようと教室を出ると何故か水無瀬が俺の後を追いかけて声を掛けてきた。



「兼平君ちょっと待ってー」



「水無瀬?どうかした?大村とランチじゃないのか?」



 いつもなら水無瀬は昼休みに購買とは真逆の方向にある隣の大村のクラスにいく。



「あっ、うん。そうなんだけどちょっとその前に行くところがあって…」



「そっか。じゃーな」



 自分でも不思議な気分だった。以前までだったらこんなふうに水無瀬がわざわざ俺のことを追いかけて声を掛けてくるなどという思わせぶりな態度を取ってきたら舞い上がってしまっていただろうし、目立つ上に周囲から嫉妬されるのも覚悟の上で水無瀬と話し込んでいたかもしれない。


 だが、偽とはいえ、俺を待ってる可愛い彼女がいるというだけでそっちを強く意識させられて水無瀬との会話もとっとと切り上げようとするにまで俺は変わっていた。偽の彼女になに一途になってんだよ俺は。

 けれど俺が切り上げようとしたのに水無瀬の方はどうやらまだ俺に用があるらしかった。

 


「ま、待って!ね、ねぇ兼平君、一年の神崎さんと付き合い始めたのって本当?」



「本当だけど。けどそれならクラスの連中が騒いでたとおりだよ」



 特に嘘をつく理由もなかったから水無瀬にはきちんと俺達がただの偽物の関係であることを告げた。俺がそう告げたというのに水無瀬はまだ何か引っかかっているらしくさらに俺に追及してきた。



「ねぇ…兼平くんは、彼女さんのこと好きなの?」


「えっ…。

 さ、さぁ。本気で好きで付き合い始めたわけじゃないしまだ付き合って1日しか経ってないからわからん。どっちにしても俺がどうしようと水無瀬に何か関係あるのか?」


「えっ、あ、いや、関係あるかって言われると…。

 あ!そう、もし私たちが今度恋人交換で万が一交換されちゃうなんてことになったら私どう接すれば良いのかなーって思っただけで」


「ああ、なるほど。そっか。確かにそういう意味では無関係でもないな。

 まあそうなってもいつも通りで良いと思うけど。さっきも言ったけど俺と小梢はお前らみたいにホントにラブラブの恋人って感じでもないし、もしそうなっても俺はお前に合わせるし、迷惑かけるようなことをするつもりはないよ」


「そっか…。

 ねぇ、逆に兼平くんはもし私が彼女として交換されたら迷惑?」



「ん?いや、全然迷惑じゃないけど。誰とシャッフルされるかわからないけど、水無瀬みたいなよく知ってる相手だとこっちも気が楽だし楽しめるだろうなとは思う。

 おっと、そろそろ行かないと。水無瀬も早くしないと大村待ってるぞ」


「そっか、そうだよね!急に引き止めてごめんね!

 私も交換されるなら兼平くんとがいいなって思うよ!どっかで一緒になれたらいいね!それじゃまた」


「ああ。じゃまた」

 


 水無瀬はくるっと振り返って小走りで去っていった。

 なんとなくだが俺達はちょっとすれ違い気味な感じで廊下で別れた。


「一緒になれたらいいねってなんだよ…。

 恋人持ちがそんなんで良いわけないだろ。何考えてるんだよあいつは。ホントに相変わらずだな」

 

 水無瀬から俺はかなりきわどいことを言われたけどなんとか無難なことを言って切り抜けたという感じだ。

 不思議とダメージはない。以前の俺なら今のやり取りでも相当ダメージを受けていたかもしれない。

 なにせ水無瀬のやつはラブラブな彼氏持ちのくせに俺と恋人交換されたらいいねとか思わせぶりな態度を取ってくる。以前ならそれだけで俺は舞い上がって、その後ただの社交辞令なだけという現実を知って沈むだけだった。みんな水無瀬の悪気ない人懐っこい態度に勘違いして自爆していくというわけだ。



 1学期最終日の告白フェスタじゃ俺は見に行かずに部室で作業してたが聞いたところによれば水無瀬に告白した奴は20人を超えていたらしい。水無瀬は俺からだけじゃなくそんな大人数から俺ならイけるかも、と思わせるような愛想を振りまいていたということだ。



 1学期末に学校が用意した企画である告白フェスタではやむを得ない事情がない限り告白してきた相手のうち誰かと必ず付き合わなきゃいけないというこれまたとんでもないものだった。もちろん、ずっと恋人であることを強制されるというわけじゃなく、最低3ヶ月という期限付き。けれど従わない者は夏休み中含めて3か月間ずっと補習を受けたりと地獄行きだった。



 1年生はまだ入学して早々ということで免除されていたから小梢には関係なかったけれど、俺達2年以上は1学期末にかけてパニックだった。


 誰も告白しなさそうな穴場な相手となら告白すれば必ず付き合えるし、水無瀬のような学園アイドルであっても倍率は高いものの必ず誰かが付き合えるということで挑戦する奴が多数出た。


 結果として水無瀬は大村と付き合うことになったし、この学校には他にもかなりの数のカップルができた。そうやって半ば無理やりできたカップルもいただけに今回の企画はそのガス抜きにはなるのかもしれない。無理やりだけど付き合った相手は意外と相性がいいとか他の奴と付き合ってみたら見えてくるものもあるのかもしれない。


 そんな感じで俺達は学校の取り組みに良いように踊らされてるわけだ。

 

 ちなみにその頃の俺は自意識過剰にも水無瀬に好かれているという自信があったからエントリー受付終了直前まで水無瀬にエントリーしようとしていた。

 けれど、その直前に全部俺の勘違いだとわかってエントリーを取りやめた。

 結局俺は誰にも告白しなかったし、誰からも告白されないという悲しい結果に終わったわけだ。当然だが。



 水無瀬は1学期、告白フェスタの開催が公表されてから「怖いよー」と怯えながら1年のときからクラスメイトだった俺に泣きついてきていた。


 俺はそれをきっかけに水無瀬の相談に親身になって乗るようになると水無瀬と俺はどんどん仲良くなった。水無瀬は次第に俺にだけ特別甘えているようにみえて俺のこと好きなんじゃないかという勘違いが増長したというわけだ。


 いや、普通の童貞彼女ナシ高校生ならそう思うだろ。好きな女子が告白フェスタに対して怖いよーとか言ってスキンシップしながら俺に甘えてくるんだぞ。10人中10人、自分に惚れてると勘違いするだろコレは。

 

 

 まぁ幸いにも俺は自爆する前にその勘違いに気づくことができた。その勘違いに気づいたのはエントリー締め切りの直前、俺は水無瀬の告白フェスタのエントリー()()を入れて、それを水無瀬に伝えにいこうとしたときだった。



・・・・・・・・・・・・・・



「もも、最近兼平と仲いいよね」


「秋人くん?そうだよ。色々相談にのってもらってるし優しいんだー」


「ええー!?もも、もしかしてアイツがいいの?」


「えーっ?もう、ちょっと由依、こんなところでやめてよぉ」


 俺はその会話が聞こえてきて聞いてはいけないと思ったけれど思わず廊下のロッカーの影に隠れてしまった。会話の内容で端々に聞こえる俺の名前から察するに明らかに俺のことを友達と話していた。



「そうそう!もも、最新のエントリー状況みた?ホントにももは大人気だよねー。

 ほら、これ!どうするの?向こうはその気だよー?」



 俺はその発言にドキリとさせられた。水無瀬が俺のエントリーに気づいたというわけだ。

 本当は気づかれる前になんで俺がエントリーしたのかこちらからきちんと説明するつもりだった。不安になっていた水無瀬を安心させるために一番仲が良い俺がエントリーしたことを。俺は水無瀬のことが真剣に好きで交際したいと思っているけれど、水無瀬がそこまでだというなら、もしエントリー者に好きな相手がいないならとりあえず暫定的に俺を選んでおけば水無瀬に迷惑はかからないようにすることを。


 だというのに自分から報告する前にバレるとか、恥ずかしすぎて穴があったら入りたい気分だった。

 けれど、それに対する水無瀬の反応も気になっていたせいで俺はその場を動くことができなかった。

 そしてそんな俺に対して今までの水無瀬との仲良さ気なやり取りが全てこちらの勘違い、幻想だったと気付かせるような言葉が水無瀬から発せられたんだ。



「えっ、ヤダ…困るよ。私、他に好きな人いるのに…。

 どうしよう…」



 俺はその言葉に頭が真っ白になった。俺はすぐにエントリー予約を取り消してその場を立ち去った。


 そして、そのとき水無瀬にエントリーしていない奴で水無瀬が仲良さそうな相手は誰かと冷静に分析した結果、それは大村以外に考えられなかったから俺は大村に声をかけて水無瀬にエントリーさせた。リア充の頂点だけあって大村はマジで良い奴だがら俺の頼みに2つ返事で了解してくれた。

 アイツ自身もたくさんの女子から告白エントリーされていてその中に本命はいなくて困っていたから良かったとのことらしい。んでもって俺はひたすら部室にこもってフェスタ本番は完全スルーした。結果は知ってのとおりというわけだ。



 情けない話だけれど俺はただのピエロであり、2人のキューピット役でもあった。



 大村と水無瀬を見ていると他のリア充連中と一緒に遊びに行ったりしていて理想のリア充カップルといった感じでいつも楽しそうだった。大村の様子をみても水無瀬を大事にしていることが窺えた。

 

 それを見て俺は良いことをしたなと、身を引いて正解だったなと思うことにした。だけど俺達の方はなんとなく気まずくなってしまい、水無瀬の俺に対する呼び方も秋人くんから兼平くんに戻ってしまったというわけだ。



 恥ずかしくも少し甘酸っぱい俺の初恋経験だが、今は割と割り切れている。


 夏休みの間はずっと悶々とさせられていたし、新学期はじまってからもなんとなく水無瀬の様子が気になっていたんだけれど、今は大分気持ちに余裕が出てきた。

 そんな余裕の源泉でもある小梢からは『はよきて』とLIMEがきた。



 まぁ余裕ができたというよりはアイツで手いっぱいすぎて水無瀬に方に割く余裕がなくなったというべきかもしれないな。

 

 

 小梢から怒りのスタンプがガンガン送られてくる。ブルブルうるせーな。ゲームでもするかアニメでも見て待ってろよ。


 ま、待たせた分のお詫びとして購買で特製手作り杏仁豆腐でも買って行ってやるか!

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