表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋人交換制度!?学校のアイドルたちが俺に彼女交換を申し込んでくる件  作者: ponshiro
第2章 ねぇ、私のこと・・・【初回交換編】
35/39

第35話 決着②

「聞いてない?知ろうとしなかったの間違いだろ。

 確かに俺は自分のことを周りに触れまわったりはしてないが、先生が言ったようにユートピアには俺の名前が何度も載ってる。


 さらにいえば、この崩拳の攻略本、各キャラの技の発生フレームや硬直等が記載されたムック本の執筆者の一人として俺の名前も挙がってるんだ。

 調べればすぐに出てくるってか、ちゃんとこのゲームやってる奴なら大抵知ってることだぞ。崇なんかはそれで俺に声を掛けてきてこの部活を一緒に作ることにしたくらいだしな。

 結局、お前は俺に対しても中身を知ろうとせず、表面的にしか知ろうとしなかった。

 そういうところがゲームの勝敗に影響しているんだよ」



「チッ!何が中身だよ!

 兼平、お前はいいよな!

 お前は本彼女も交換彼女もこの学校じゃ最高クラスだ!


 俺はあんなブスをあてがわれたんだぞ!?

 あんな芋娘、連れて歩いてたらこっちが笑われちまって恥ずかしいわ!

 お前だって俺と同じくせに!神崎は仮の関係で、たまたま法条を当てただけだろ!どっちもお前は本気じゃない。

 お前だってお前の望んでない奴を当てたら俺のようになってたさ!

 いや、男って奴はみんなそうなんだよ!綺麗ごと言ったって、純情っぽいこと言ったってどこまでいこうともっといい女が欲しいって思うもんなんだ!俺はそれを堂々と宣言してるだけだ。何が悪いっていうんだ!」



 堀北はとうとう崩拳では何を言っても敵わないとわかったのか、今度は彼女の方に問題をすり替えてきた。

 はっきり言って自己中心的な論理で相手にする必要性すらなさそうな話だったが、こいつの指摘に対してはきちんと今現時点での俺の答えでもって応えるべきと感じた。



「確かにお前が言う通り、男って奴はバカだからいい女を求めてしまうところがあるのは否定しない。

 けどな、堀北、全然違うよ。お前と俺は。


 女の子の可愛さは見た目も大事だがそれよりも本当に大事なのは中身だろ。


 いい女かどうかは見た目じゃ絶対決められない。

 そもそも見た目なんて化粧でいくらでも変えられるんだ。そんなものに囚われてどうするんだよ。


 お前は小梢が好きなのかもしれないけどな、アイツのすっぴんを見た上でも同じことが言えるか?

 それにお前が散々貶した後輩ちゃんだって十分可愛いぞ。俺にはあの2人にそれほど大きな差があるとは思えない。


 だいたい、結婚したらいずれはお互いしわくちゃになるんだぞ?ずっと一緒に添い遂げたいなら見た目よりもその人がずっと過ごしていたい相手なのかどうなのかの方が大事なんじゃないのか?」



「クッ…」



「俺はな、確かにお前が言うように小梢とは仮からスタートした関係だった。

 けど、こんな俺だけど、今の制度のおかげで少しずつ変わったんだ。


 小梢のことは今はもう仮の関係なんかじゃない。

 俺は本気で小梢が好きだ。アイツの中身が好きだ。

 一緒にゲームしてアニメ見て楽しめて、それでいて俺のダメなところでもズバズバ指摘してくる遠慮も欠片もないアイツが大好きなんだ。

 そしてアイツも俺のことを好きでいてくれてる。だからお前には絶対に渡さない」



「チッ、だ、だが交換制度があるんだぞ!

 渡さないと言っても絶対渡っちまうんだ。現に神崎だって今は神崎は他の男のところにいってるじゃないか。

 それだけじゃない。お前だって今は法条、神崎じゃない奴のところに行かされている。

 結局仮の関係じゃないとこの制度ではうまくいかねーんだよ!」



「そうかな?俺はそうは思わない。

 交換されていても俺と小梢はきちんと繋がっているよ。


 それに、俺はたとえ誰が交換恋人になったとしてもその相手を好きになれるよう、好きになってもらえるよう全力で努力をしたいと思ってるし、きちんと本気で交際したいと思ってる。


 小梢が好きなのにそんなめちゃくちゃなことをいうなと、そう思うかもしれない。

 けれど、俺の彼女が俺にそうすることを望んでるんだ。だから俺もそうする。彼女が望んでることは叶えてあげたいからな。


 小梢は、人間って奴は誰か一人に夢中になったとしても絶対に飽きが来るし、いずれ恋心を忘れるっていうんだ。

 だからむしろ色んな人間を好きになることが当たり前だとな。

 そんな小梢は自分は好きな人が好きになったものを全部好きになりたい、そうすればずっと恋していけるってそう言っている。

 

 アイツは本当に変わった奴だが、お前の言うとおりいい女だよ。

 だからどんなに俺が交換恋人と真剣に交際しようとアイツとの関係が変わることにはならない」



「だ、だが、そんなのお前のとこだけだろ。

 普通は真剣に交換恋人と付き合うってことは本恋人は切り捨てるってことだろ?」



 堀北はそう反論する。

 これについては俺は昨日の小梢とのやり取りからずっと考えていた。そして、今日、交換制度で爆死していくリア充を見て何が正しいのかずっと考えていた。現時点での俺の答えは小梢が出した答えと同じだった。



「いや、俺は、一般的にも交換恋人と真剣に交際することが本恋人を裏切ることになるとは思わない。

 交換恋人期間中でも本恋人との恋人関係は継続しているんだからな。


 交換恋人ときちんと付き合ってポイントを得ることが本恋人を守ったりすることにもなるし、より強い絆にするための次のステップに繋がることもある」



「そんなバカな!」



「この制度はな、自分を客観視したり、他の異性から見える自分の評価をきちんと見つめ直したり、もっと多くの人と深い関係を築けるようにするための制度、俺はそう思ってる。


 俺の友人の滝川や寺本なんかはお互いがお互いを大好き過ぎて欠点も自分からは指摘できないような関係だけれど、交換恋人なら自分の代わりに相手の欠点を指摘してくれるかもしれない、他を知ることで自分を見つめ直してくれるかもしれない、考えがもっと柔軟に変わるかもしれない、そういう期待をしながら真剣に制度に参加しているよ。


 そして今も小梢がこっちにくることで滝川は遠慮なく寺本の所に行けて話ができてるはずだ。

 持ちつ持たれつだが、お互いのカップルのメリットにしていくための交換恋人、タコ壺化しないようにするための制度だと、俺は思ってる」



「客観視…。

 タコ壺化…」



「そう。だから、今日見た誰かさんのように自分には他にもっと良い恋人がいるからお前とは付き合えませんみたいな態度の奴とか、もっと良い交換恋人が欲しかったのにお前じゃ納得できませんって態度の奴とかは、はっきり言って何様のつもりだと俺は思う。


 そういう中途半端なやり方は自分の本恋人のために制度にがんばって交換恋人とも交際しようとしている相手には失礼にあたるだろ。


 それに交換恋人っていうのは鏡写しなんだよ。


 本恋人Aからの視点で本恋人Bと交換恋人Cの交際を見たら、そうしなきゃいけないっていう制度の影響もあって自分の本恋人Bが他の誰かと付き合っているという風には見ないしそうは見えない。


 交換恋人Cは本恋人Aにとっては自分の代行者というか、別の形で本恋人Bと付き合ったとしたらこの人はどういう交際をするのか、そういう客観的視点で見るんだ。


 俺は昨日、小梢と滝川がデートしているのを見て、小梢が浮気してるとは見えなかった。

 むしろ、小梢がもう一人の俺とデートしているというか、小梢と遊んでるときの俺ってこんな感じなんだなって視点で見れて新鮮だった。おかげで色々な気づきがあった。


 小梢は滝川を振り回しまくっていたけど、なんだかんだ楽しそうにしていた。

 だから滝川も振り回されていたけど、苦痛って感じじゃなかったし、それを楽しんでいた。

 そのおかげで小梢の良さが客観的に見えたんだ。

 自分一人だけじゃ見えなかった視点、もう一人の自分として交換恋人を見れるからこその気づきだ」



「相手の交換恋人がもう1人の自分だと?」



「そうだ。

 逆に、そういう風に見えているのに、交換恋人に対して不躾な態度を取ればどうなるか、お前はもう身をもって知ってるだろ。

 結果として本恋人を傷つけることになったり、呆れられたりもするんだよ。


 だからお前は浅野にもフラれた。お前が後輩ちゃんを蔑ろにする態度を見て、お前は結局見た目だけで判断して簡単に切り捨てるし乗り換えるヤツだとわかったから逆にその前に見切りをつけられて切り捨てられたんだ。


 だが、俺は違う。

 交換恋人とは本気で交際するけれど、それも本恋人との交際のつもりで、見られていると意識して誠心誠意接するようにするし、同時に現実の本恋人ともきちんと交際する。


 本恋人のために全力で全方向に真剣に制度に取り組む。これが俺の現時点のこの制度での答え(やりかた)だ」



「クッ…。それはそうかもしれないが、交換恋人期間中にも現実の本恋人ともきちんと交際するなんて無理だろ!

 連絡も取れないのにそんなことできるはずが…」



「できる。

 連絡を取れないことは大した問題じゃない。お互いがお互いを気にかけていれば自然とどこかで会える。

 今だって、ここにいるふうちゃんときちんと付き合いながら、小梢との交際も大事にしてるし、小梢ともきちんと話をする時間がとれている。やろうと思えばいくらでも両立はできるんだ。

 真剣に取り組みさえすればな。


 俺はな、これまで色々なゲームに真剣に取り組んできた。崩拳だってお前の何十倍も真剣にプレーしている。だからお前にも負けない。

 同じようにQMAだってそうだし、各種のリズムゲームなんかもそうだ。どのゲームでもちょっとした遊び程度でやってる奴らには絶対に負けない自信がある。


 いや、ゲームだけじゃない。勉強だってお前らの数倍は真剣にやってる。色々手を広げてるせいで時間がないことが分かってるからこそダラダラやるのではなく密度濃く一度見たものを絶対に忘れることがないよう全神経を集中させて真剣に覚え込んで、頭もフル回転させながら叩き込んでいる。授業もきちんと予習した上で聞いてるから全部漏らさず理解できるようにしている。だからこそ俺は一つ一つに当てられる時間は短くてもその中できちんと結果が出すことができてると思ってる。


 堀北、お前は真剣に何かに取り組んだことないだろ?真剣に生きてない奴ほど、真剣な奴を笑うからな。

 真剣になったことがない奴には真剣に取り組む人間のことは理解できないと思うし、理解されようとも思わないからこの話はここまでにしておくが、今回、俺が勝った以上は、お前にも少しは真剣になってもらうからな。

 約束通りきちんと後輩ちゃんと付き合えよ!いいな!」



「チッ。くそ…」



 俺がそこまで言うと真剣さが足りていない点は堀北本人も自覚があるらしく、不貞腐れた目を俺のほうに向けて吐き捨てた。


 そんなタイミングで部室の入口ドアが開いて2人が入ってくる。一人は良く知った奴だ。



「ふふ。さすがせんぱいですね♪それでこそ私のせんぱいです!

 それに無事勝ったみたいでなによりです。ま、わかってましたけどね」



「小梢、ようやく戻ったか。あれ?」



 俺が2人目の様子に驚いていると、小梢は絶賛炎上中の堀北にぴょこんと近づいて話しかけていた。



「さて、堀北先輩、約束を果たしてもらいますよ♪」



「チッ、神崎、嫌なタイミングで戻ってきやがったな。

 ん!?だ、誰だお前!!」



「誰だとは失礼な。神崎小梢ですけど?」



「んなバカな!」



 どうやら堀北はいきなりすっぴん+さきほどまで後輩ちゃんが掛けていたふちの厚いメガネ姿で現れた小梢に面食らっている。



「バカなもクソも、私なんてお化粧落とせばこんなもんですよ。

 まぁ普段はもうちょっとすっぴんでも可愛いんですけどね。

 誰かさんがこの土日ずっと徹夜でのゲーム三昧デートに連れまわしてくれたり、昨日の夜も私に新作アニメのBDを貸してくれたせいで、この3日間、全然寝れてないんです。そのせいで、目の下は真っ黒黒になっちゃってますし、唇も大分不健康な色になっちゃってますけどねー。

 だからお化粧でごまかさないとこんなもんです」



 すっぴんの小梢は普段とは大きな差がある。俺はこの前のネカフェとか部活の合宿とかで小梢のすっぴんには慣れているからあれでも今さらという感じではあるし、むしろアレはアレで可愛いとすら思っているけどな。


 アイツは元々の素材は良いんだ。だから小梢本来の顔は今より遥かに可愛い。というか化粧なんかいらないくらいに可愛い。


 けれど、今の小梢は圧倒的寝不足のせいで、目の下には真っ黒黒なクマはあるし、普段は上に向かって綺麗にカールしたまつ毛のおかげでぱっちり可愛く見えるおめめが、今はまつ毛が元気がなくへにゃんと下がっていて、ビューラーでそれを一切補正してないから今にも眠りそうな、ねむたんな暗い印象を作っている。

 その上、顔全体の血色の悪さとか肌つやのなさとかが大幅にマイナス要素となっている。

 そこに輪郭までちょっと曲がって見えちゃうドの強いふちの厚いメガネが小梢の可愛い部分をかなり隠してしまっているため全体的に残念感がハンパないすっぴん姿だ。ここまでに不健康状態になると、休みの日とかに一日フルで寝かしてやらないと回復は難しいだろう。



「私はしょせんこんなもんなので、1年には私よりも可愛い友だちもたくさんいますよ。

 ホラ、この子とかさっき廊下で見かけたんで連れてきたんです。かわいいでしょ?」



 そういう小梢の後ろにはおしとやかで儚げな美少女がいた。



「な、なんだよ、誰だよこの子…学校じゃ見かけたことなかったけどすっげー可愛い…。

 なんだこの子、まさか俺のファンとかで紹介してくれたりするのか?

 キミみたいな子なら俺は大歓迎だぜ?なんなら来週から俺、フリーになるから付き合っても良い!」


 堀北は突然の美少女の登場にすっかり調子を取り戻してる。

 堀北は小梢のすっぴんでゾンビを見たような目になった分、その子が余計に可愛く見えてるらしく、大興奮といった様子だ。けれど、俺にはその子に激しく見覚えがあった。泣きぼくろの位置とかまんまだしな。 




「堀北、お前何言ってんだよ。その子は、今お前が交際中の後輩ちゃんだろ」



「ハッ…?

 なにいいいいいいいいいいいいいい!?」



「そうだろ?」



「はい、そうです…。

 小梢ちゃんにちょっと整えてもらったんですけど、恥ずかしいですぅ」




「どうですか?堀北先輩がさっきブスだって言ってた千影ちゃんだってちゃんと整えてメガネ外せばこんなもんですよ。

 言っときますけど、私がメイクしたとは言え、素材が良い千影ちゃんには最低限のことしかしてませんよ。

 やったことといえば目にかかるほど長くて顔を見え難くしてた前髪を左右に分けたことできちんとお顔が見えるようにしたり、今まではメガネのせいであんまり気にしてなかった太めの眉をちょっと切って並行眉に整えて綺麗にかいてあげたり、ビューラーでまつ毛上げたり、グロスで唇をつやつやにしたりってしただけです。5分程度でできるナチュラルメイクしかしてませんが、それでもこうなるんです」



「なん…だと…?」



「堀北。俺は今朝初めてこの子を見かけてからずっと可愛いって思ってたよ。

 この子と一緒に歩いて恥ずかしいのはお前の方だよ。この子がブスにしか見えないなんて、どんだけ節穴な目をしてるのかって話だ。


 本当に残念な奴だ。この子が今日一日この状態で過ごしてみろ。

 朝っぱらから大声でこの子をブスと言いふらしたお前に対して、学校中が軽蔑の視線とお前のアホさをあざ笑うことになるぞ。


 だいたいなんだよ今の掌返しは。自分から要らないと言っておいて、少し見た目が変わっただけで「キミみたいな子は大歓迎」とか虫が良すぎるだろ。失礼にも程があるぞ」


「まったくだ」


「最低ね」


 小坂とふうちゃんも堀北の態度には呆れてものも言えない様子だ。


「な、な、な…」




「さて、堀北先輩、このままじゃ皆さんの笑い者ですよー?

 そうならないためにもするべきことがありますよね?」



「クッ…」



「さ、約束通り千影ちゃんとせんぱいに今までしたことを謝ってください」



「えっ、神崎さんどういうこと?

 あっくんにも謝るってこの2人何かあったの?」



「はい、堀北先輩はせんぱいと対戦するのは二回目なんです。

 堀北先輩は以前、浅野先輩に内緒で、裏切って、私との交際を賭けてせんぱいと対戦したっていうのに、負けた途端に負かしたせんぱいをこんな遊びで本気になるとかキモいだとか理不尽な非難してきた上、浅野先輩を気遣って何も言えなかったせんぱいに対して、その浅野先輩本人やその友達を誘導してみんなで寄ってたかって非難したんです。

 しかもその後はせんぱいのことを不良だなんてありもしないことまで言いふらしてせんぱいの評価を落として、勝負そのものを隠した卑劣な人です。

 だから今度こそそのことをきちんと謝ってもらわないと困ります!」


「そ、そんな…酷い…」「兼平氏の噂は耳にしたことがありましたが、あんまりですな」


「ったく、いいんだよ。そんなことは。大したことないし。てか、小梢、お前いつの間に堀北とそんな約束をしてたんだよ…。

 まさか俺が峯岸先生に立会頼んでたときか?まったく…やっぱりお前はそれをずっと気にしてたんだな」



「はい!これをなんとかしないとせんぱいの地に落ちた評判を上げようがないですからね!

 抜本的解決って奴です!」



「ふむ。なるほどな。ようやくわかったよ。兼平が何故にここまで評判悪いのか。

 堀北、キミのせいで兼平は本来はもうちょっとクラスに馴染めていただろうに、それができなくなっていたというわけか」



 せ、先生、フォローしてくれてるのに、もうちょっとだけとか若干酷くないか?ま、俺がキモヲタなのは事実だから反論の余地なしだが。けれど、俺が不満そうな顔をしているのが分かった先生は俺の頭をポンポンと撫でた。


「兼平は教師の私らにそうしたことを泣きついてきたりしないタイプだからな。今まで気にはなっていたものの、理由がわからず対処のしようもなかったが、そういうことだったか。

 堀北、キミは今回ばかりではなく、以前から生活態度に問題がありそうだな。キミの過去は徹底的に調査させてもらうことにするよ。

 そしてきちんと今回の約束についても履行するまで私が見届けさせてもらうとしようか。

 約束を守らないようであればその分、キミの情状は悪くなる、そう覚悟しておけ」



 先生は強く堀北を威圧した。堀北は一瞬それに怯んで、覚悟を決めた。



「クソッ!

 仕方ねぇ!

 謝ってやるよ!

 兼平、スマンかった。黒川も悪かった…」



 堀北はとうとう頭を下げた。嫌々ながらといった感じではあったが、誰かに頭を下げるようなタイプじゃないコイツからしたら大進歩だろう。小梢も一応は納得したようだ。納得したというよりは欲しかった結果が得られてそれで良しとするといった感じかもしれない。



「うーん。なんだかいまいち心のこもってない適当な謝罪でしたけど、クラスの皆が見てる前できちんと非を認めたことが重要ですしね!

 私はこれで良しとすることにします!」



「は…?クラスの前で?お、おい、神崎!一体どういうことだよ!」



「どういうことってまだ気づいてないんですか?

 さっきから、この部室の様子は全て堀北先輩のクラスに中継されてますよ?

 ですよね?小坂先輩!」



「あ、ああ。そうだ」



「は、はあああああああああああ!?

 な、なにいいいいいいいいいいい!!!」



「スマンな、堀北。

 万が一、先生が忙しくてここにこれないとか協力が得られなかったときのために俺はもう一つ保険を用意してたんだ。

 今の今までのこの部室でのやり取り、全部、小坂がテレビ電話で水無瀬に送っていて、水無瀬がスマホを教室のテレビに接続して絶賛放映中だぞ。

 水無瀬、さんきゅーな」



 俺がそう小坂のスマホに向かって感謝を伝えると小坂は気を利かせて小坂のスマホもテレビと接続する。

 テレビには俺たちの教室の様子と水無瀬のアップが映る。



『ううん!私にもできることがあって嬉しかったよ!まだ始業まで時間あるから半分くらいしか人来てないけど、2人が何をしてるのかとか、これまで何があったのかとかは皆にちゃんと伝わったし、後から来てる人にも順次伝わってるから安心してね!』



「だそうだ、堀北。残念だったな。

 お前がこれまで人を使ってハメてきたように俺も同じことをさせてもらったというわけだ。もちろん、俺はお前と違って嘘は使わずにありのままの事実をこっそり伝えるっていう方法だけどな」



「クソッ!!!」


 イラつく堀北に畳みかけるように水無瀬からの通話が入る。



『あっ、堀北君、由里ちゃんから通話だよ』



『健一、アンタ正真正銘のクズだったんだね。よーく見させてもらったよ。

 1学期の執拗な兼平叩きの意味が分かって、正直ゾッとした。二度とウチの近くに来ないでね。

 こんなのが私の彼氏だったなんて、ホントに私も見る目ないよ。アンタのことを慕ってたクラスの女子もみんな幻滅したって。アンタ、もうクラスでも居場所ないからね。覚悟しときな。

 ま、そういうことを兼平にしたんだから自業自得だけど』



「ゆ、ゆりいいいいいいいいいいい!!」



『あと、兼平、ウチのこと庇っててくれてたのに今まで酷いこと言ってホントにゴメン。ウチ、酷いことしたね。

 許してくれなんて言わないけど、今度何かお礼をしたいな…』



 画面の浅野はごめんのポーズを取りながら謝ってきた。仕草はギャルっぽい適当なものだけれど、顔は真剣でその気持ちは良く伝わってくる。



「お、おいおい。浅野に殊勝な態度を取られると雪でも降るんじゃないかとサブイボが出るからやめてくれ。

 これは俺と堀北の問題であって、お前には関係ないことだ。お前もクラスの他のみんなも俺は別に恨んじゃいない。みんなあくまで堀北にそうさせられただけだからな。体育のときとかはハブらずちゃんと誰かは付き合ってくれてたし、俺はみんなに感謝もしてるんだ。だから気にしないでくれ。許すもなにもない。浅野にそう言ってもらえただけでも俺は十分満足だよ」



『兼平…アンタ良い奴なんだね』



「なんだ、今頃気づいたのか?

 なんてな。ま、大した人間じゃないさ。

 堀北のことはもう少しでカタがつくから待っててくれ」



『うん。お礼は必ずするから覚悟しててね』




 浅野はそれだけ言って引っ込んだ。覚悟ってなんだよ…。



「さて、というわけで約束は約束だ。俺の勝利で終わったことだし、お前にはこの子の評価に一切文句を言うなよ。たとえ0点でも甘んじて受け入れろ。そもそもそれがこの制度じゃ当たり前のことなんだけどな。

 これから1週間きちんとこの子と交際しろよ。いいな!

 お前が約束を履行するかどうかは先生も見張ってくれるし、このテレビ電話を見る限りクラスのみんなも協力してくれるようだ。

 こうなった以上、もう下手な小細工ができると思うなよ?」



「くそぉおおおおおおおお!

 けど…まあ、わかったよ。

 確かにこんなに可愛い子だったってんなら俺としては全然ウェルカムだ。

 このままじゃ0点食らうのかもしれないが、まだ1週間あるんだ。この子と少しは真剣に過ごしてこの子の信頼を取り戻してやる。いっそお気に入り登録させるくらいのつもりで出血大サービスしてやるよ。

 それにあのクラスはもうつかえねー。俺の活動拠点を1年のクラスに移すってのもアリかもしれないしな」



 堀北は圧倒的な敗北を前にして半ばやけっぱちみたいにそう宣言をする。

 自業自得とはいえ、本恋人に裏切られ、クラスに裏切られ、居場所がなくなったというのに自暴自棄一歩手前で踏みとどまれたのは後輩ちゃんが奴にとって想像以上に可愛かったということが大きく影響しているのだろう。しかも今度は1年のクラスが俺の居場所だとか調子の良いことを言い出した。ホントにふざけた奴だ。

 だが、後輩ちゃんは堀北の前に進むと頭を下げた。



「そのことなんですが、堀北先輩。

 すみませんが、お断りします。

 私はアナタとは付き合えません」



「ハッ?」


 堀北を含めて俺たちは後輩ちゃんの突発的宣言に驚愕して固まった。



「お、おい、それってまさか…」



「はい。ギブアップです。峯岸先生良いですよね?

 私、黒川千影は、たった今、先生にギブアップ申請を致します」



 後輩ちゃんこと黒川は最後の手段であるギブアップ申請をした。一応、放課後に同行義務が発生したところで同行違反をすれば同じことになるのだが、黒川は今日の放課後まですら待てない、その行為はそういう意味であった。峯岸先生は許可を出す上で真意の確認を行う。



「い、いいのか?それはつまりお互いペナルティということだぞ。

 キミのギブアップ理由は聞いた限りだと、堀北がキミをブス呼ばわりするといった容姿だけを理由にする不誠実行動によるものである上、今までのこの部室でのやり取りに加えて先ほど勝利した兼平から受け取ったレコーダーには堀北からの脅迫文言も録音されているとのことだから、キミの責任割合は間違いなく0になるだろうし、堀北の方は100%宗谷校への転校措置となるだろう。だから後のことは気にしなくて良くなる。

 だがそれでも、黒川、キミは今付き合っている本恋人とは別れることになるし、2学期の間は恋人は作れない。

 本当にギブアップで構わないんだな?」



「ちょっ、待て!何を勝手なことを!!」



 堀北は慌てて止めに入ろうとするが、俺はその堀北を止めた。



「黙れ、堀北。お前は俺に負けて、自分の進退はこの子の判断に委ねる、そう約束したよな。だから宗谷行きになろうがきちんと受け入れろ」



「ぐぅ…」



「先生、それで問題ありません。

 私は元々は楽しそうに恋してる小梢ちゃんに憧れて、ラノベを書くためにも恋がしてみたくて今の彼と付き合いましたが、本当に好きで付き合ったわけでもありませんでした。

 それに彼とは本物の恋じゃなかったって今日、はっきりわかりました。わずかにあった彼への気持ちもさっき、私を見て見ぬふりで見捨てて校舎に入ってく彼を見て冷めてしまったんです。

 私には恋愛とかまだ早いってことが良く分かりました。

 今はしばらく恋人とか作りたくないなって感じです」



「そうか。決意は固いなら申請を受領した。

 ま、キミはまだ1年生だしな。2学期終わるまでなんてあっという間だし、恋愛をするチャンスはこれからいくらでもあるだろう。

 では、今日間もなく始まる判定会議に参加してもらうため、黒川と堀北はいますぐ体育館前に向かってもらう。いいな」



「はい、わかりました」

「そ、そんな…この俺が宗谷行きだなんて…バカな…。

 だが、もうこの学校はクラスもクソだしいっそそれしかないのか…?」



「ブツブツ言わず、もう決まったんだ!

 いくぞ」



 うなだれながらこれからのことを考える堀北と、先ほどよりも自信もついたのか人が変わったように明るい雰囲気になった黒川が峯岸先生の後について部室を出ていった。



 それを見た小梢はドナドナと悲し気に歌いだす。

 おい、小梢。今その歌はホントにシャレにならんからやめておけって。どんだけ堀北が嫌いなんだよ。



 そう思いながら俺達が2人を見送っていると、黒川は先生に一言告げてからくるりと振り返ってくる。



「あっ、先生、1分だけ待ってくれますか」



「ん?構わんよ」



 先生に許可をとって黒川は俺の方へとトコトコと駆け寄ってきた。



「せんぱい、私を助けてくれてありがとうございました!」



「いや、結局こうなっちゃってすまなかった。

 もうちょっと良い落としどころを見つけるために仕組んだものだったんだけどな…」



「いえ、私、これ以上あの人と一緒にいるのは本当に耐えられなかったので、こうして貰えて良かったです。

 それに、私、せんぱいに可愛いって言ってもらえてうれしかったです!時間にしたらほんの一瞬だったかもしれませんけど、せんぱいが助けに来てくれた瞬間は私がせんぱいのお姫様になったような気持ちになれてとても楽しい恋人交換できましたよ♪」



「そっか。少しでも良い思い出ができたなら良かったよ」



「ホントはちょっぴり思い出が足りないんですけどね…。

 そうだ!せんぱい!ほら、あっちみてみてください!」



「ん?」



 俺が黒川が指し示す方を向くと、何か柔らかいものがほっぺに触れた。


 ちゅっ



「お、おい?」


「えへへ。感謝の気持ちです。

 せんぱいのほっぺについてるグロス、小梢ちゃんから借りたものなんで、小梢ちゃんのキスの代行だと思ってくださいね!

 で、では!」




 黒川はそういってまた峯岸先生の方へと駆けていった。

 恋人でも何でもない先輩に対していきなりほっぺにキスとか大胆なことをしでかしたというのに、廊下を駆けながら「はわわ、やっちゃったよぉ…。けどネタゲットー!」とか言っていた。

 小梢の友だちなだけあって、なんか色々キャラの濃い奴だったな。



 そんな小梢は小梢で部室の中でコンパクトや化粧道具を広げて絶賛変身中だ。

 別にお前のすっぴんまで見せることなかっただろうに、コイツも堀北に復讐するためとはいえ結構きついことするな。けれど、堀北はこれで女の子の現実ってものが大分わかっただろう。

 案外、今なら宗谷に行ってからも比較的早く向こうの生活を受け入れられるようになるかもな。



「これにて一件落着ね。途中から神崎さんが出てきてどうなっちゃうかと思ったけど、なんとか解決して良かったわ」



「ああ、そだね。けど、俺がここまでできたのもふうちゃんが協力してくれたおかげだよ。ふうちゃん、ありがとね。改めて存在の大きさを実感したよ」



「そ、そう?それはよかったわ。

 け、けど、さっきのはどういうことかしら…?」



「さ、さっきのとは…?」


 俺がそういうとふうちゃんは頬を膨らませて、法条さんモードから駄々っ子ふうちゃんモードに切り替わって俺に抱き着いてくる。


「むぅ、わかってるくせに!

 もう、あっくんってばなんでそんなに隙だらけなの!

 そんなに簡単にキスを許しちゃうなんて!ダメなの!」



「うぐぅ…」



「うぐぅじゃないよ!そう言いたいのはこっちの方だよ!

 あっくんの今の彼女は私なんだからねっ!」


「ご、ごめんって!わかってるって!」



「全然わかってない!

 そう思うなら私にも優しくキスしてくれてもいいのに…。

 あっ、ねぇ!グラウンドの方見てみて!」



「えっ?グラウンド?」



 ちゅっ…



「ホラ、隙だらけ。しっかりしてよね!」



 俺に不意打ちでほっぺキスをかましてきたふうちゃんは顔を真っ赤にしている。

 クッ…なんだこの天使は。

 さっきの後輩ちゃんのキスには全然知らない子というのもあってそこまでドキドキしなかったけれども、ふうちゃんのは破壊力が全然違う。

 なんだよ、この可愛い生き物は!!



「ふ、ふうちゃん…」



 俺がふうちゃんを抱きしめたい衝動に駆られながらも必死に耐えていると、化粧を終えた後輩が文句を言いながら俺に向かって特攻してきた。



「むぅぅうう!せんぱい!ダメです!ダメです!ズルいですよッ!」



「こ、小梢!復活したか!」



「はい、元通りの可愛い小梢ちゃんです♪ふふ、可愛いでしょ?

 それよりせんぱい、ふうちゃんセンパイのキス貰っちゃうなんてズルいです!私もふうちゃんセンパイからキスされたいー!」



「ダメってそっちかよッ!」



 小梢が俺に特攻してきた理由はまさかの斜め上の方向のものだった。



「あっ、いっそのこと私からしちゃおっかなー!

 ふうちゃんセンパイ!今日はせんぱいのカッコいいところをたくさん引き出してくれてありがとうございました!おかげでせんぱいの評判を上げるっていう私の目的も大きく前進です!

 というわけでお礼にキスします!」


「えっ、やだ。そんなのいらない。やめてよ」


「がーん。

 でもやっちゃいます!覚悟してくださいね!美少女のほっぺジュルリ…。

 いっただきまーす!」



「きゃーーー!あっくん助けてーー!

 女のヘンタイがいるわーーー!!」



 ふうちゃんが俺にしがみついてきて、それにかぶさるように小梢が抱き着いてくる。



 あー、もう、せっかくいい感じにまとまりそうだったのにめちゃくちゃだよ。


 ま、けど交換恋人と本恋人が仲良い(?)ことは良いことだよな。





 ・・・・・・・・・・・



 その後、ふうちゃんたちと別れた俺は、魔王を倒した勇者か何かのような待遇で教室で迎えられた。



 特にクラスの女子からの視線が一気に変わった気がする。

 今まで俺を空気扱いしていた隣の席の佐藤さんが早速話しかけてくるほどだ。



「か、兼平くん、将来大企業の社長になるってホントなの?

 ね、ねぇ、愛人とか第2夫人とか募集してたりするのかな…?さっき、誰でも平等に愛するとか言ってたよね?」



 佐藤、お前は何を言っているんだ…。そんなこと一言も言ってないぞ。しかもよりによって金目当てなのかよ!

 だが、俺がツッコミ入れる前に反対側の俺の隣の席にいる浅野がすぐにツッコミを入れてきた。



「ちょ、ちょっと早苗、あなた何を勝手なこと言ってるのよ!

 兼平はそういうのじゃないんだからね!さっきも皆見てる前で彼女のこと大好きとか告白しちゃってたじゃないの!ちょっとは自重しなさいよね。

 けど、兼平ー。私、実は本恋人が送りになっちゃったせいで恋人ナシのフリーになっちゃったんだよね…。木村くんも途中終了になっちゃったから佐智代に返しちゃった。

 ねぇ、どうしようね?」



 浅野は小首をかしげながら俺の方に椅子を寄せてきて俺を見つめてくる。

 どうしようね?じゃねーよ。知るかっ!


 けれども、俺がそんなツッコミをする前に浅野は何か別のヤバい気配を感じたのか、元の位置に戻っていく。



「由里、兼平くん朝から色々あって疲れてるんだからこれ以上困らせるような相談はダメだよ。兼平くんもお疲れさま」



「おっ、さんきゅー」


 水無瀬は自販機に行っていて今戻ったらしく俺に一声かけて俺の好物のカルピスソーダの缶を置いてまた自分の席に戻っていった。やっぱ持つべきものは理解ある旧友だな。たくさんしゃべって喉がカラカラだったから非常に助かる。


 ふぅ、やれやれだ。てか、途中で本恋人がリタイヤすると交換恋人も解除になるんだな。浅野の交換恋人だった木村は鈴木佐智代のところに戻ったのか…。大丈夫なんだろうか?

 そう思って佐藤のすぐ後ろにいる鈴木の方を見ると、さっきまで木村に裏切られそうになって絶望していたのに今はすっきりした顔をしていて、むしろクラストップカーストの浅野がリア充から脱退したのに自分には彼氏がいるままとなってカーストが逆転したことを喜んでいるようだ。あんなことになった浅野とギスってるのかと思いきや、そうでもない様子だ。

 マジで女子ってこえーな。どういうパワーバランスしてんだよ。



 俺は複雑奇っ怪で大きく変わったクラスのパワーバランスを眺めながら、<しばらく大人しくしてよう!>と心に決めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ