第32話 side堀北
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「崩拳での対戦するってのはいいが、俺は以前も兼平に一方的にやられてる。
ハンデをくれとまでは言わないが、せめて兼平側はメインキャラ使うの禁止で先にキャラ選択とかでもいいか?俺のキャラ見て相性でぶつけられたらたまらないからな」
「俺はそれで構わない。崩拳で勝負と決まった以上、最初からそのつもりだ」
「なら異存なしだ。一時間目始業まであんま時間もねーし、3ラウンド先取の1本勝負といこうぜ」
「ああ、了解だ」
兼平も俺の条件に了解し、崩拳での勝負で決まった。
崩拳で勝負とか、望むところだ。俺がコイツにコテンパンにやられて以来密かに練習し続けていたことはこいつらは知るまい。
兼平の奴についても調べたが、奴は色々なゲームに手を出しているせいで、同じ部活の大塚に全く勝てないらしい。
大塚がどれほどなのか知らんが、同じ学校の奴に連敗する程度なら兼平を倒すのは決して難しいことじゃないってことだ。
しかも、1学期のときの対戦は、結果だけみると、俺のストレート負けだったが、崩拳ってのは実力差がなくてもちょっとの流れでストレート負けが続くことはよくある。俺はあのとき、最初の勝負で兼平が結構強いのが分かってついカッカしてしまって、起き上り攻撃とか即受け身とか激甘な対応しちまったところをうまく奴に捌かれただけ。段位もそんなに違わないし、対戦内容としても普段俺が対戦していた奴とそんなに変わらず、奴との実力差はそこまで感じなかった。
あの時からさらに練習しまくって強くなった俺が奴のキャラに相性良いキャラをぶつければ勝ちは確定だ。…ホントに笑いが止まらねーな、こりゃぁ。
ま、相性が良いキャラをぶつけたとしても、崩拳で同じ相手との連続勝負をした場合は対応速度の影響が出てくる。崩拳での戦い方は同じキャラでも十人十色。
対戦を重ねていくとお互いどんどん癖を見抜き対策がとられていく。俺が中学時代、地元のゲーセンで負けなしだった理由もそれだが、俺が前回こいつとの対戦で5連勝されたのもそれが理由でもあった。
兼平のヤツは4、5本目になると俺の癖を完全に読んできてやがった。悔しいが奴の対応速度は俺よりも上手だった。
だが、1本勝負ならそういったこざかしい学習とか抜きに純粋な今現時点での強さだけで勝負できる。そこにキャラ差も合わされば俺の負けはないってことだ。
「お前のところの部室で出来んだろ?」」
「じゃ、部室にいくか。
そうだ、水無瀬は先に教室いっててくれ。俺ら遅れるかもしれないし、そうなったら先生に適当に話しておいてくれれば助かる。状況は小坂に報告してもらうから」
「えっ、う、うん…。そっか、わかったよ。
がんばってね」
そう言って水無瀬は一足先に教室に向かった。親衛隊の奴に囲まれていたせいで今まで気付かなかったが水無瀬もいたのか。
水無瀬の奴は去年から同じクラスだった兼平と仲が良い。
兼平が俺のクラスで疎まれていた理由の大半はアイツがうちのクラスのというか、2年の二大美女である水無瀬と仲良いからでもあった。
ま、水無瀬は結局、涼介と付き合うようになって、兼平は水無瀬と仲は良かったもののお友達止まりってやつで1学期末に盛大にフラれたってわけだ。俺のクラスの他の男子も多くが奴と同じく水無瀬の前に爆死することになったが、それでもクラスの連中は大分溜飲が下がったのは間違いない。
水無瀬も涼介の女じゃなけりゃ俺も狙えたんだけどな。
さすがの俺でも涼介を相手にすんのはしんどい。
俺には神崎で十分だ。
兼平と神崎が仮の関係であることは兼平と同じクラスだった俺がよくわかっている。兼平は結局、水無瀬なんだよな。2学期始まってからの教室での態度とかを見ていれば良く分かる。アイツは水無瀬に未練タラタラだ。
そんなだというのに神崎と付き合いだしたとなれば、奴は涼介から水無瀬をかっさらうためにこの制度にエントリーしたのがバレバレだ。なんだかんだ兼平だって俺と同じ穴の狢ってわけだ。
神崎の方は俺がきちんと引き取ってやるからお前は遠慮なく水無瀬に集中してくれや。
俺は兼平と神崎の案内に付き従って文科系クラブの部室棟に移動した。
これが兼平の部活の部室か。部室には専用のカードキーを持ってないと入れないせいで、流石の俺でも中を見るのは初めてだ。だが、兼平は部室の鍵を開けるなり出て行こうとする。
「俺はちょっとトイレ行ってくる。小梢すまんが準備を頼む」
「いいですよー」
「親衛隊のみんなもさすがに全員入らないから小坂に任せてみんなの部屋か教室で待っててくれ」
「わかった。しっかりな」
「ふふ、兼平どうした?もう怖気づいたか?」
「ちげーよ。ほんの1分だ。待ってろ」
そう言って兼平はトイレへと向かって行った。余計な親衛隊の連中も小坂とかいう奴以外は消えていった。大分すっきりしたな。
部室は同好会という割にはそこそこ広い部屋だ。パーテーションで3つに区切られているが、入ってすぐのスペースにはテレビが2台にテーブルにソファー。応接室セットをゲーセンさながらの状況を再現するように使っているというキチガイっぷり。テレビはそれぞれのパーテーションごとにあって、ゲーム機やらPCやらHDやら色々なものに接続されている。
色々な機器はあるが、10人くらいならゆったり遊べるだけの空間だ。兼平のヤツ、こんな快適そうな空間をつくってこれまで好き勝手やってたってわけか。
チッ、俺が勝ったらここのカードキーも寄越すよう増やすべきか?いや、俺が神崎と付き合うようになれば必然的に俺がここを使えるようになるし、邪魔な兼平は追い出せるか。
ハハハ、兼平を叩き出してここを俺の城にするのもいいな。実に楽しみだぜ。
そんなことを考えていると早速未来の俺の恋人である神崎が俺に近寄ってきた。
「堀北先輩、実はお願いがあるんです」
「ん?なんだ?俺が勝った時のデートプランか?どこでも好きなとこ連れて行ってやるよ」
「いえ、そうじゃありません。
もしウチのせんぱいが勝ったら、堀北先輩にせんぱいと千影ちゃんに謝ってもらいたいんです」
「なんだその話か。そこの後輩娘に対しては元々そういう条件だったし負けたらいくらでも謝ってやるよ。
つーか俺が勝ったとしてもこれまでの非礼を詫びてきちんと誠実に付き合ってやるさ。そうじゃなきゃ点もらえねーしな。
それより兼平に謝るってのはなんだよ?俺は別にアイツに謝ることなんてないけど?」
「とぼけないでください。前回の対戦のことです。
堀北先輩、自分から挑んでおいて負けたのに、それも勝手に私のことを賭けて戦ってたのにそういうこと一切言わずにせんぱいを責め立てたこと、アレをきちんと謝ってもらいたいんです」
「な、なんでお前がそれを知ってる?兼平のヤツ、お前にチクりやがったのか!
ヤロウ…」
「いいえ、せんぱいは何も言ってませよ。せんぱいはそういう言い訳とか告げ口みたいな真似しませんからね。
ただ私にはわかるんです。
あの人の考えてることとか、悩んでることとか。…ずっと見てきましたからね。
あのとき、対戦前に堀北先輩がうちのせんぱいに耳打ちしたとき、せんぱいが一瞬だけ私の方を見て困った顔をしたんです。
その後も堀北先輩と対戦してるときも友だちとの遊び対戦って感じじゃなくて凄く真剣な表情してました。以前私を助けてくれたときと同じような、そして、千影ちゃんのために戦おうとしている今とも同じような真剣な表情でした…。だからあのときだって今と同じだったんだと私にはわかります。
それに確証はたった今とれましたしね」
「チッ、カマかけてきたのか。神崎、お前、兼平に似て中々生意気な後輩だな」
「そうですよ?
くすくす。今頃気が付いたんですか?
で?どーです?お願い聞いてもらえますか?」
「さて、どうしようかな?
お前が俺の本恋人入りするってんなら考えてやらんでもないけどな…」
「じゃ、それでいいですよ♪もし堀北先輩がウチのせんぱいに勝って、私と交換恋人になったらお気に入り登録してあげます!代わりに負けたらさっきの条件でいいですね?」
「クッ、苦しい条件だがそこまで言うならいいだろう」
「じゃ、決まりですね♪」
神崎は俺の返事に対して嬉しそうな顔をする。
クックック。兼平の奴にしても神崎にしてもマジでバカだな。
一瞬俺に意趣返しをしてくるかと思いきや、ただのお人よし。結局俺の優位に事が運んでいる。
俺の主張はただのイチャモンのようなものだというのに、こいつらはそれに見事に食いついてきてどんどん良い条件を付け足してくれるとは。ゴネ得ゴネ得!
確かに俺は神崎のいうとおり、以前の兼平との戦いでは兼平のヤツが俺との勝負で神崎を賭けてたことを周りには言えないように、言ったとしても無様な奴の言い訳に過ぎないと誰からも信じてもらえないようにしてハメた。そうでもしないと俺の立場が危うくなるからな。
神崎の主張は俺が負けたらその過去をきちんと謝罪しろということらしい。
なら負けたならそうしてやろう……とでも俺が言うと思ったか?
もし俺が負けてもそんな口約束なんざ守る気あるわけねーだろ。
芋女の件は仮に俺が負けてもこの芋女と二人になったときにでもまたきっちり脅してやればなんの問題もない。改めてお互い1点以上を付け合うWinーWinな約束を結び合えばいい。ペナルティにさえならなきゃさっきの録音だのは意味なくなるんだからな。
神崎の件は兼平もいない場でこいつが勝手に言ってただけと言うことにすれば良い。俺は「考えてやらんでもない」ということを了承したに過ぎないしな!
逆に勝ったらきっちりと書面でも書いて貰って約束は守ってもらう。
クックック。俺はリスク0で神崎が手に入るというわけだ。楽勝すぎる。
こんな隙だらけな神崎が本恋人になればこっちのもんだ。
脅しでも既成事実でもなんでも駆使して他の男と交換になってもお気に入り登録で逃げることはできないように徹底的に仕上げてやる。
俺が可愛さで優る法条よりも神崎を選んだのもそれが理由だ。
法条はいつも大勢の男女に囲まれてやがってガードが硬い。法条に比べたら学年も下な神崎の方はガードもゆるゆるで簡単に堕とせるからな。クックックック…。
俺が何を考えて悩んでいたかも知らずに呑気な顔して俺と勝負だの言い出すとはホントにバカな連中だぜ。俺は先の先まで考えているというのにな。クックック…
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