第31話 過去の因縁
2年になって俺とクラスが一緒になってから堀北は格ゲーとかはそこそこやる奴だと知った。
放課後になって俺と小梢が廊下で集合して部室へ行こうとするのをちょうど遊びに行こうとしていた堀北たちは呼び止めてきたんだ。
なんでもみんなでゲーセンへと遊びに出掛けるから一緒にどうだというお誘いだった。
俺達は、ゲーセンであれば何の異存なしということで、堀北達リア充メンバー+水無瀬と一緒にゲーセンに遊びにいったんだが、そのとき、堀北は小梢や俺と崩拳で対戦しないかと誘ってきた。
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「なぁ神崎、神崎はどんなゲームが好きなんだ?
兼平のゲーム研究部とかいうのに入ってるってことは結構ゲーム好きなんだろ?」
「えっ、私ですか?色々好きですけど、ゲームセンターにある奴だったらやっぱり好きなのはスカッとする崩拳ですかね。
そんなに強くはないんですけど、ストレス発散にピッタリなんですよ♪」
「ええっー!?マジで!?
俺も崩拳やってたぜ!
地元じゃ結構強かったんだぞ!そうだ!対戦しないか?」
「へー、堀北先輩もやってたんですね。すごーい!」
「だろ?な、どう?」
俺はゲーセンには頻繁に来ているというのに景品とか中の様子が変化してないかつい見てしまうせいで集団の最後尾を一人歩いていて、その前に小梢と堀北が楽しそうに話しながら歩いていた。
堀北は小梢の「すごーい!」とかいうわざとらしい…じゃなくてあざとい態度にすっかりデレデレになっている。ったく、お前には可愛い彼女いるだろ…。
「でもごめんなさい。私、アーケードでこの前、怖い人と当たったことがあってまだちょっとその時の怖さが残っているっていうか、まだ怖くって、今は基本的に部室で家庭用しかやらないことにしてるんです」
一方の小梢はそんなことを言ってうまいこと堀北の誘いを躱していた。お前は俺とはしょっちゅうアーケードでもやってんだろが。
まぁ、そんな感じで小梢の方はまるで堀北に興味ないって感じだ。だが、小梢は断った後もきっちりフォローをいれる。
「あっ、でも、私、崩拳は見てるのも好きなんですよ!
音ゲーとかってあんまり他人の見てても面白くないですけど、崩拳とか格ゲーって人がやってるのみるのも結構面白いじゃないですか!
特に崩拳は3Dで他の格ゲーよりグラフィックが凄く綺麗ですし、女の子のシャオリンちゃんとか明日菜ちゃんとかかわいーですしね!
だから私、崩拳強い人、結構好きなんですよ♪ね、せんぱい!
付き合うなら崩拳強い人がいいなーとかって思ってるくらいです♪ね、せんぱい!ちらっ」
小梢は俺に賛同を求めつつこちらにチラチラと後ろを振り返って視線を送ってくる。
ったく、ちらっ、じゃないだろ。いい加減堀北と付き合うのがめんどくさくなったからって強引に俺を巻き込もうとするなよな。
俺は崩拳はそこそこ強いけれども、俺の部活には俺以上に強い崇という化け物がいる。
崇は大会優勝経験が何度もあるほど全国区の強さだ。
一方の俺はというと、崩拳もやるけれど、QMAやら音ゲーやらカンダムやら色々なゲームに手を広げてるのもあって、崩拳だけに特化してプレーしてる崇にはどうしても勝てない。
俺と同じく色々手を出してる小梢には年季の差でどのゲームでも勝てるけれども、俺らは二人とも器用貧乏的な地位だ。
だいたい、小梢が崩拳好きな奴が好きだなんて話しは大嘘も良いところだ。
それは小梢が自分よりも崩拳が強い俺や崇を部活でどう扱っているか見ていただければ一目瞭然。小梢は俺らが勝てば、動きキモいだの大人げないだと罵倒してくるし、たまに連勝できると、ザコザコ言って煽ってくるクソ後輩っぷり。
小梢は堀北には「そんなに強くない」とか言っているが、実際はめちゃくちゃ強い。
ゲームにおいてガチ勢とエンジョイ勢という分け方があるけれども、小梢や俺は断然ガチ勢だ。
ただ、ガチ勢の中でも崇のようにある一つのゲームに絞ってひたすら練習し続けているというヘビープレーヤーと、エンジョイ勢には負けないくらいには強いライトプレーヤーっていうのがいて、俺はヘビーとライトの中間層で、小梢がライトプレーヤー寄りってだけだ。
小梢の発言は、そこそこ勉強できる奴がテスト前に、「私、全然自信ないよー」とか言ってるのと同じで、ホントはかなり自信があるヤツのセリフだ。だが、堀北の方はそんな小梢の言葉を本気で受け取ったらしい。
「そっか。そりゃ残念だな。確かに女の子がアーケードで格ゲーってのはちょっと物騒かもな。
見てるのが好きっていうなら、じゃあ俺のやってるとこ見てなよ」
そういってプレーを始める堀北の下には奴の恋人の浅野由里やその他のメンバーも集まっていった。
堀北の段位をみると14段の【魔拳】だった。
ほぉ…拳段所属とは、強いと豪語するだけあって獣段の壁は超えていたか。
ちなみに崩拳の段位は入門生からはじまって9級~1級→初段~三段→師範→皆伝→達人→名人→飢狼→大蛇→猛虎→飛龍→剛拳→強拳→魔拳→烈拳→修羅→羅刹→羅将・・・と続いていく。近い段位の人間と戦うと昇格ポイント降格ポイントが貯まっていって、だいたい同段位に3勝くらいすると昇格して、3敗くらいすると降格する仕組みだ。
獣段だの拳段の壁というのは、崩拳では7段【名人】を超えると、段位の名称がガラッと変わって、8~11段までの【飢狼】とか【飛龍】とか獣の名称がつく段位を獣段、12~15段の【剛拳】だの【滅拳】だの拳が付く段位を拳段、16~19段の【修羅】だの【羅刹】だのを赤段と呼んでいて、このブロックごとの節目は昇格ポイントが少し厳し目に設定されている上、対戦相手の組み合わせが1個上の階級に変わるおかげで相手も強くて中々上がれないということで壁がある。
その上、赤段以上は同段位以上との対戦でしかポイントが入らないという厳しい環境。だから初心者から中級者のエンジョイ勢は獣段~拳段が限界で、ガチ勢(上級者)は赤段以上といった寸法だ。
「へぇ健一、アンタそんな趣味あったんだ。
意外…でもないか。なんかレバーとか持ってるの結構サマになってるじゃん」
「だろ?
けど、本気で遊んでたのは中学までだぜ。
高校に入って由里と付き合うようになってからはこういうのはあんまやってない。
ま、やるのはたまに由里とのデートがないときくらいだ」
「へー。でもゲームっていえば兼平も部活作ったくらいだし強そうだよね?
健一とどっちが強いんだろ?」
「ま、俺だろうな。
同中の連中相手には負けなしだったし」
「いえいえ、せんぱいはかなり強いですよー!
ま、私の方が勝ち越してますけどね」
そう言ってさらっと嘘をつく後輩。おいおい、俺とお前の戦績はメインキャラ同士で380勝80敗くらいだろ。俺が300勝以上、勝ち越してるわ。ま、それを言うとまたコイツの言い訳が始まってめんどくさそうだから言わないでおこう。
だが、なぜか先ほどまでクレーンゲームの景品に夢中になってた水無瀬も駆け寄ってきて小梢の発言に目をキラキラさせて反応していた。
「へー!秋人くん、こういうのもできるんだねー!
すごーい!」
「い、いや、俺も全然大したことないって!
俺なんかまだまだ激弱だよ」
だが水無瀬に褒められると全く悪い気がしない。
って、いかん。俺もさっきの小梢と同じ奴使ってんじゃねーか。
小梢はなぜか「むむぅ」とか言いながらさっきより俺のことを睨み付けている。私が持ち上げてやったのにって顔だ。
お前だってさっき堀北に「すごーい!」とか言って堀北を喜ばせてたくせになぜ俺が同じ反応をして奴ににらまれなきゃなんのだか。俺だってたまには褒められていい気分になっても良いだろ。
それに、水無瀬の方はますます俺を乗せにかかっていた。
「えーっ!でも秋人くん、絶対強いよね?
ねぇ、やってるとこ見てみたいなぁ、ダメ?」
「お、おう…」
水無瀬は小首かしげながらおねだりしてくる。こんなの断れるはずがない。
だが、皆の注目の対象が堀北から俺に一気に移ったことで堀北は気分を悪くしたらしい。堀北は俺に挑戦状を叩きつけてきた。
「おい、兼平。
それならどっちが強いか勝負しようぜ?」
「べ、べつにいいけど、いいのか?
俺、結構強いぞ?」
それは事実だった。堀北と同じくらいの段位のキャラも持っているが、だいたいのキャラが堀北の段位より上だった。さすがに友だちとの対戦で相当段位差があるメインキャラを使う気はなかったが、それでも地のプレイヤースキルの差が随分あるだろうと考えての遠慮だった。
だが、堀北はそれでも構わないと首を振った。
その上、奴は俺の耳元で小声で話しかけてきた。
「おい、兼平、そんなに自信あるっていうんなら、もし俺が勝ったら神崎をちょっとばかし借りるぜ。
彼女はウマい奴のプレーが見たいらしいからな。
そんなに自信あるってんだからいいよな?神崎を俺に貸せよ」
俺は堀北の発言にギョッとさせられた。小梢に聞かれたらヤバいと思い、俺も小声で返す。
「は?なんで俺にそれを言う?
小梢本人に言えよ。貸すとか借りるとかそういうもんじゃないだろ。
つか、お前、小梢借りるって浅野はどうする気だよ」
「それはそれ、これはこれだよ。
ま、念のための保険だ。お前がOKしたって事実がいざってときに大事になるのさ。
けど、そう言うことなら問題ないってことだよな。
さ、じゃやろーぜ。ホラ、あっちに座れよ」
俺は堀北の返答に全く腑に落ちなかったが、堀北は勝手に俺の返事を了承と捉えた上でとっととやろうとせかしてきたので、俺も席に着いてゲームを開始した。
そして、みんなが注目する中、俺と堀北の対戦が開催された。
・・・・・・・・・
『You WiN!』
結果から言うと、堀北は自信満々で挑んできたが、俺はそんな堀北に3ラウンドストレート先取で勝利した。
堀北はそんなに強くなくて、俺の方はもうちょっとギリギリっぽい戦いにする魅せプレーをする余裕もあったが、俺はさっきの堀北のセリフが妙に引っかかり、負けたらマズいことになるのではという直感から手を抜くことができなかった。
浅野はストレートで負けた堀北を励ます。
「健一、ドンマイ!なんかスルスル向こうの技決まって何もできなかっただけじゃん!
たままただよ」
「ま、たまたまだよな。俺も久々だからなウォーミングアップみたいなもんだ!
今のはノーカウントでもう1戦だ!」
それに乗せられて調子の良いことを言ってリベンジしてくる堀北。
・・・・・・・・・・・
『You WiN!』
だが、またも俺が勝利した。そしてすぐにコンティニューする堀北。
堀北の取り巻きも最初は「たまたま!」とか「まだ慣れてないからだよね」とか言っていたけれど、俺がそのまま蓮コインする堀北に全て3ラウンドストレートで5連勝(15ラウンド連勝)するともう何も言わなくなった。
そして、その時点で堀北からの再挑戦はなく、俺の勝ちが確定した。
小梢は「さすがです♪」とか喜んでいて、水無瀬も「すごーい!」と興奮している様子だ。俺の方は、皆が見ているということで若干緊張はしていたけれど、それなりに良い試合を見せられたことや、本人が知らない中、陰で小梢を貸す貸さないみたいなことが賭けられている中、ちゃんと問題なく勝てたことで安心した。
その上、水無瀬や小梢が喜ぶもんだからつい調子に乗って手を抜かずにストレートで5連勝してしまったが、ちょっとやり過ぎてしまっただろうか?
けれど、戦ったことでお互い認め合うとか友情が深まるとかっていうのも定番だしな!
俺がそんな期待をしながら「堀北、対戦サンキューな。楽しかったよ」と握手しに行くと、堀北は俺の手を振り払って、筐体を思いっきりガンッと蹴とばす。
そして、席を立ち、「なにこれキモ。引くわー」っと吐き捨てた。
メンバーの中心だった堀北が不機嫌さをあらわにすることでさっきまで楽しい雰囲気だったのが急に空気が一気に悪くなっていった。
しかも堀北の取り巻きたちは堀北の不機嫌さに怯えてすぐさま感化されはじめる。
そして、堀北はそんなメンバーの様子を見て、さらに俺を攻め立ててきた。
「兼平、お前キメーんだよッ!
お前が対戦したいっていうからやってやったのに、よりによって弱い者いじめの自慢プレーかよ。
俺もそこそこやってる方だと思ってたけど、ここまでガチでやってる奴初めてみたわ。キモっ!
つか、友達との遊び対戦で壁ハメし続けるとか普通するか?
なあ由里、お前もそう思うだろ?」
「た、確かにそこまでしなくてもいいじゃないって感じだった…。
兼平、アンタやりすぎだよ。
何ゲームなんかでマジになっちゃってんの?キモっ!
しかも友だちとの遊びでマジになることないじゃん。ダッサー」
「だよな!ホントダサキモいわ」
堀北に連れられて浅野由里も俺を非難し始める。
二人はそんな感じで俺を激しく非難し、他の連中もそれに同調し始めた。
対戦をしようと提案してきたのは堀北の方だというのに、そこからして挿げ替えられていた。
浅野は堀北がさっきの対戦で何が賭けられていたのかを知らない。それを知らない奴からしたらただの遊び対戦で俺のやり過ぎ、そう思われても仕方がない。
俺は黙るしかなかった。むしろここで俺が下手なことを言えば余計に拗らせることになりそうという予感もしていたからだ。
そうして堀北、浅野というこのグループの二大トップが俺が酷いプレーをしたという判断を下したことで、周りも「たしかにそうだったねー」「やりすぎだったよな、あれ」「兼平くん、最低だよ」みたいな雰囲気で綺麗に統一されていった。
堀北は俺が壁ハメをしたというけれど、崩拳というゲームは元々そういうゲーム。空中コンボで壁まで運んで壁に貼り付けて更に空中コンボを重ねていくゲームだし、そこからの起き上りでさらに追い打ちをかけたりするゲーム。ハメでもなんでもない。
それに起き上りの攻防もハメじゃなくて2択だった。ただ、苛立っていた堀北は、ボタン連打で受け身起き上りしかしないせいで、その起き上りにちょうど被せた下段のコンボ始動技がヒットしてさらにコンボが続いただけのこと。奴がすぐに起き上らずに俺のコンボ技がスカったところで冷静に起き上ったり、下段ガード起き上りをして俺の技をガードしてから俺のキャラの硬直中に反撃していれば俺もやられていた。
その上、堀北にはカッコつけようという思いが前面に出すぎていて、開幕大技ぶっぱしてくる癖があった。俺が守りを固めて様子をみていたら、向こうが勝手に硬直する大技ぶっ放してきただけだ。アイツが堅実に肉弾戦をしかけてきたならばもっと違う展開になっていたに違いない。
けれども、部外者である小梢を除いたここにいる堀北グループは全員が崩拳の素人で、さっきの対戦の意味は誰も理解していない。
少数派である俺がどんなに反論をしようが多数派の連中からしたら、俺の見苦しい言い訳にしか映らないだろう。それが分かった俺はひたすら黙っているしかなかった。
俺が堀北グループのメンバーに一方的に責められる展開になって小梢や水無瀬が慌てて何かを反論しようとしたが、俺は2人の前に立って首を振った。
「事情が事情にせよ俺がやり過ぎたのは事実だし、これ以上雰囲気悪くするのもアレだから何もしないでくれ。俺が謝れば丸く収まるんだから」
「せんぱい…」「秋人くん…」
「ハハハ…。ごめんな、堀北。
俺、普段あんまりこうやってみんなでゲーセンにとかって遊びに行くことがなかったからつい調子に乗っちまったらしい。すまん」
「ったく、兼平、お前ようやくわかったのかよ。今さら反省したっておせーんだよ。
つーか兼平お前、ここまで空気読めないキモゲーマーとかまさかお前、高校デビューしちゃった系か?
お前、あれだろ?高校まで他に遊ぶ奴いなかった系だろ?」
「あ、ああ。そうだけど…」
「プッ…お前やっぱ高校デビューかよ。
なんかヲタクくせーなと思ってけどやっぱそうだったのかよッ!
プッ、アハハハハ!おい、由里聞いたか?
兼平今まで隠してたけど高校デビュー勢らしいぜ!ダッセーな!
そんでもって得意のゲームでクラスメイト叩きのめして楽しいってよ!こりゃとんでもねえクズがいたもんだな!ハッハッハッハ!」
「マ、マジーー!?超ウケるんだけど!
なに!?兼平ってば今まで背伸びしながらうちらに付き合ってたわけ?
どうりで挙動がおかしいと思ったわー!」
浅野がドン引きし、他のグループメンバーもうわーといった顔で俺を見下ろす。
高校デビューもくそも俺はただ普通にしてただけでお前らから誘われるようになっただけだったんだけどな。別にヲタクもゲーマーも隠しちゃいないし。まぁこいつらにそれを言っても無駄と分かっていたし、こいつらの方から俺を切り捨ててきた。
「兼平、お前、もう俺のグループに入ってくんなよ。お前みたいなの入れてたんじゃ俺のグループのレベルが下がっちまうからな!ハッハッハッハ!」
「そ、そっか。スマンかった。そうするよ」
正直堀北の提案は俺にとっても有り難かった。こいつらとは付き合っても苦痛でしかない、それがよくわかった。
だが、俺がそのまま帰ろうとすると、水無瀬が俺の腕を掴んで止めた。
「えっ、秋人くん帰っちゃうの?
ちょ、ちょっと待って!なんでこうなるの!」
「なんでって、聞いてのとおりだよ。
俺は高校デビューなんだ。高校に入るまではこうしてみんなとワイワイ遊ぶみたいなこともしたことなかった。そのせいで、今日はみんなの空気乱しちまったらしい。
隠してて悪かった。俺には堀北のグループへの入会資格はないらしいし、今日はもう帰るよ」
「そ、そんな!
堀北くん、ごめん。私も帰るよ。それを言ったら私だって中学は愛知の田舎の学校だったし、友だちなんてほとんどいなかった。
私も高校デビューみたいなものだし、みんなのレベル下げちゃうから抜けるね。
今まで迷惑かけてごめんね…それじゃあ!」
「えっ、水無瀬は別にかまわないけど?そんなんで抜けるなんていうなよなー。
去年のクラスメイトだからって無理にソイツに合わせることないって!これからは俺らと遊ぼうぜ!
って、か、神崎?どこ行くんだよ?兼平も帰るし、お前も俺らと遊ぼうぜ?」
「どこって、せんぱいが帰るので私も帰るだけですよ?
私、今日は部活の一環としてせんぱいについてきただけですし、部活の時間はまだ残ってますからね。
これでも私、部活動には熱心なんですから♪
せんぱい、どーします?部室戻りますかー?」
「ま、夜まで時間もあるし、部室戻るかー。崇いるだろうし」
「りょーかいです☆
じゃ、大塚先輩にもメールしときますねー!」
「というわけで、俺らは部活に戻るわ。水無瀬も変に付き合わせて悪かったな。
俺らを放っておいて残って遊んで行ってくれて大丈夫だ。
じゃ、また明日」
「う、うん…また明日…」
そう言って俺と小梢はまた学校へと戻っていった。水無瀬は結局堀北たちとはそこで別れて、帰ったらしい。その上、次の日からは水無瀬は隣のクラスの寺本や大村といった別のリア充メンバーとかとつるむようになった。
だが、これでちゃんちゃんと終わったわけではなかった。
その後、堀北達は、SNSとかを駆使して俺の同中の同級生とかを辿って俺の過去を調べたらしく、それが一気に公開されることになったんだ。
「おい!みんな聞いてくれよ!兼平のヤツ、高校デビューで無理して俺らに付き合ってただけじゃなく、今じゃ優等生ぶってるが、中学じゃ何度も警察のお世話になったとんでもない不良だったらしいぞ!
不良チームとケンカ闘争とか散々派手にやってたってよ!見ろよこの写真!不良5人を一人でフルボッコだぜ。ヤバすぎだろ!
お前ら、アイツと付き合うときには気を付けろよ!
高校になって更生したフリしてるらしいが、犯罪者ってのはいつ再犯するかわかんねーからな!」
「きゃーー!怖ッ!
健一、私のこと守ってね!アイツ、私のことチラチラ見てて怖いのぉ…」
「ああ、当たり前だろ、由里」
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懐かしいな…。
こうして俺はこのクラスのカースト最底辺に叩き落されたんだ。
SNSを使った拡散とかは途中で教師の介入が入ったおかげですぐに止まったから、俺のヤバい噂を知っているのはクラスメイトや同学年の一部だけで済んだが、クラス内部では致命的なほどの溝が発生した。
そして、今、俺のこうした過去が俺が小梢と付き合う上での小梢に対する風評被害にもつながっているのだろう。小梢は先週末のネカフェで俺と正式に付き合うことになったとき、そのことに対して相当な不満を漏らしていた。
俺は口では気にしないと言いながらも、全く気にしていないわけじゃなかった。なぜならこのことは俺がこれまで恋愛対してに消極的だった理由にもなっていたからだ。
俺がこんなになってもずっと友達でいてくれた水無瀬に対しては、この後、思いを寄せそうになったこともあったが、1学期末に俺がエントリーしたことを知って寺本に「困るよ」とこぼしたとき声は今までの俺に対する態度の正体が好意とかではなく、俺がクラスでハブられていることに対してアイツがただただ放っておけなかっただけの善意でしかないと分からせるのに十分なものだった。あのときの水無瀬は、いつかゲーセンで堀北達のグループから抜けるといったときの困った声に良く似ていたからだ。
それはともかく、小梢が今回の恋人交換制度を俺の地位向上に使おうと目論んでた背景にはこういう事情があった。
だからこそ今小梢は、堀北があのとき俺に対してした仲間を使った卑劣な手を自分の友だちに対しても使おうとしていることに怒っているし、俺についてもこれで堀北との間での本当の決着を付けさせようとしているんだろう。今度こそ負けたら堀北は言い逃れできなくなる。おそらくは後輩ちゃんから0点を貰ってペナルティ落ちになってこの学校からいなくなる。
そういう戦いだと分かっているからこそ、小梢はあえて対戦種目として「崩拳」を選択してきていた。
しかも堀北は小梢の提案に対して望むところだと答えていた。
俺はそんな堀北を見てわかった。
堀北はあのとき俺にボロボロに負けて相当悔しかったに違いない。おそらくはその後、俺に負けないよう相当練習を積んでいたに違いない。
俺はこの後の戦いが色々な意味でも一つの決着になる戦いになるという予感がしていた。




