表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋人交換制度!?学校のアイドルたちが俺に彼女交換を申し込んでくる件  作者: ponshiro
第2章 ねぇ、私のこと・・・【初回交換編】
28/39

第28話 ペナルティと妄想好きな後輩ちゃん

 ――恋人交換制度――



 交換が始まる前はもっとカッコ良い彼氏や可愛い彼女がゲットできちゃうかもと色めき立っていたというのに、初日が終了して皆がその恐ろしさと厳しい現実を思い知ることになった。



 考えてみればかなり当たり前というか、俺の場合、昨日小坂と水無瀬のやり取りを見て既に知っていたことでもあったんだけれども、交換恋人にはその相手に評価ポイント0=ペナルティ落ちにさせる権利がある。しかも昨日の小坂が水無瀬にしようとしたような行動強制違反をすれば一週間待つことなく評価ポイント0が確定してペナルティ落ちになる。



 生殺与奪権をお互い握り合っている状態なんだ。当然、ぞんざいに扱ったりケンカ別れになったりすれば、その権利は行使される。



 学校の中途半端なリア充たちは制度の罠にハマり込んでまさに阿鼻叫喚といった様子。



 平穏だった学園は、休みが明けるとそこら中で修羅場が発生する修羅の国、カップル間の本当の絆が試されるバトルフィールドと化していた。



 そして、リア充が爆発する様子を見て歓喜する非リア充勢。制度の罠にハマったのは主にウェーイ系のリア充勢。連中は俺を含めたカースト底辺の非リア充勢を散々バカにしてきた連中だっただけに非リア充勢は大歓喜だ。「そんな罠もわからなかったのかバカめ」「ざまあ。リア充なんてくそ喰らえ」といったご満悦顔をしている。



 何だこれ。世紀末かよ。ホントにめちゃくちゃだよ。



 あまりの修羅場ラッシュ、そこら中で開幕される昼ドラ展開にふうちゃんはビビりまくりでさっきから俺の腕にぎゅっとしがみついて震えている。



 ふうちゃん、昔は気にならなかったけど、お互い高校生になってからそれをやられると柔らかいもの当たったりとか良い香りがしたりとかして、つい先週まで彼女いたことなかった非リア充な俺には色々ヤバいんだって。

 と、そう思うものの、ぷるぷる震えて俺にすがってくるこの小動物系彼女にそんなこと言えるはずもなかった。てか、このコアラ可愛すぎなんだが。


 純粋なふうちゃんの行動は小梢のあざとい演技と違ってホントに怖がって俺のことを頼っているのがわかるから、思わずぎゅっと抱き締めて守ってあげたくなる衝動に駆られるな。これがまさかつり橋効果ってやつか?ちょっと違うか。とはいえ、俺の忍耐がどこまで持つのかの勝負だ。



 仕方なくふうちゃんとは違う方に意識を向けると、俺らのいるすぐ右側の体育館の入り口前にはさらにげっそりした顔の生徒たちが集められていた。

 あれはまさかとそちらをみるととんでもない話が聞こえてくる。




「お、おい!俺がペナルティとかふざけんなよ!!こんな相手押し付けといて一緒に居られるわけねーだろ!!」



 どうやら連中はペナルティ対象者らしい。

 こんなのが朝の始業一時間前から集められてるんじゃ通学路はスカスカなわけだ。


 そうか、昨日交換恋人と過ごさずペナルティ確定になったヤツが休み明けに体育館前に集められて、いよいよペナルティ執行を待機しているというわけだ。生活指導のゴリ山じゃなくて熊沢先生が連中にペナルティの内容と今後の説明をしている。



「せ、先生頼むよ!!なっ、一回くらい見逃してくれよ!!」


「却下だ。規則は規則だ。規則も良く読まずにペナルティ落ちとなるのが悪いんだ。

 さて、今後の説明だが、お前らはこれから順次判定会議に掛けられる。

 そこで責任割合が認定され、評価ポイント0=ペナルティに関して主たる原因を作った者は特別措置、従たる者はその割合に応じた措置となる。

 責任割合0の者は普通の学校生活に戻れるがそれでも最低限、2学期の間は恋人が作れない」



「で、と、特別措置は?」



「特別措置の者には宗谷の山奥にある宗谷校に転校してもらう。

 お前の場合、今の話だと相手の容姿のみを理由にした交際拒否によるペナルティだから通常通りの判定基準なら責任割合9割以上は堅いだろうな」



「お、おい!待てって!

 それじゃあ俺が特別措置かよ!!だいたい宗谷校ってなんだよ!?

 いやだああああああああああ」



「なんだなんだ?

 そんなに悲観することもないぞ。

 宗谷校は良いぞ?

 同じく全寮制で、俗世からも完全に隔離された場所だ。お前のスマホにたくさんダウンロードされてる異世界転生モノラノベの世界に限りなく近い。大好きなスローライフってやつが待ってるぞ」



「な、なんでそれを知ってる?

 てかスローライフってどういうことだよ…同じ日本だよな?」



「宗谷というのは北海道の最北端地方だな。元稚内市の一地域だが、前に稚内地域全体が人口減少とヒグマの増加によって消滅区域となって国の再生区域と指定されて以降、外部の人間が立ち入らない陸の孤島となったんだ。

 当然ネットは一切繋がらないし、お前らが今まで見たこともないような大自然が広がるまさに異世界だ。学園周辺50kmは携帯等の通信設備も一切ないし、電気も通ってない。廃墟はあるが、コンビニはおろか店も人が住む家もない。学園敷地以外は大自然100%。


 だが、そんなところだからこそ学園の敷地内には在校生と出身者による集落があって、少子化による限界集落再生プロジェクトの一環として国のサポート下、ゆったり自給自足生活を送っている。

 狩猟に農業、畜産、カニ、貝や海藻採りといった漁業にホッカイシマエビの養殖はやってみるときっと夢中になれるぞ。それにヒグマやエゾ鹿といったちょっと狂暴な野生動物もいて毎日がスリリングだ。まさにお前の好きな冒険ファンタジー世界だな!

 恋愛面でも人自体が同じく宗谷校送りになった者以外との物理的な意味での出会いが一切ないから仲間同士強い絆も作れるし、結婚して子供を作るくらいしかやることもなくなるだろう。

 学校で勉強する内容も主に生きるための技術に特化され、机の上でなく身体を動かす実技中心になる。卒業後はそのままあっちで暮らし続けてもいいし、こっちに戻ってきても良い。

 あっちで暮らし続ける場合、自給自足生活が基本になるが、人類として健康で文化的な最低限度の生活については政策として国家が保障するから余計な心配もしなくて済んで安心だ。よかったな」



「全然よくねえええええええええええ!!

 なんだよ人類として最低限文化的ってぇええええ!

 縄文時代じゃねーかぁぁぁぁ!!

 冗談じゃねええええええ!!!」



「いやいや、全然違うぞ。ちゃんと最新の農業マシーンや猟銃といったものも支給されるし、学園の中では自家発電の電気もあって、まきストーブ+完璧な断熱処理がされた広くて暖かくて快適な生活となるし、医療だってきちんと受けられるから、大自然での冒険生活中心になるが、最新科学技術というチート装備をした快適な状態で冒険生活スタートできるぞ!お前の良く読むラノベそのまんまじゃないか!

 そんなに不安なら宗谷校出身者からのこの近況報告を見てみろ。



『宗谷校に転校したおかげで、現代社会の小さなカーストがバカらしくなりました。お金も必要ない物々交換が基本のこの集落では人類みんな助け合わなきゃ生きていけません。皆で一つの家族のような暮らしができて、自分が必要とされてるって実感できますし、とても楽しいです!入学させていただきありがとうございました!』



『ここは本来人間が持っていた生きる能力ってやつを教えてくれる素敵な学校です。

 都会の慌ただしく殺伐とした雰囲気を忘れられて自分のペースで生きることができるようになりました。敵はヒグマやキツネだったりと別の意味で殺伐としてますが、無気力に毎日過ごしてた昔と違って今は一日一日を大事に生きられるようになりました。とても充実してます!ありがとうございました!』



『卒業後は東京の一流大学に入れてもらえるとのことですが、ここは面倒事も一切なく、空気も水も食べ物も美味しいですし、住み心地がとても良いのでこのままずっとここでのんびり暮らしていこうと思います。

 もう子供も2人もいますし、妻のお腹には3人目もいます。こんな大所帯では今さら東京でまた学生なんかやってたらとても食わせていけません。その点、ここは食べ物は豊富なので安心です。気を付けないと我々も彼らの食料になる危険ありますけどね。ハハハ。では猟に出てきます』



『東京で生活していた頃はもっと可愛い子と出会えるとか夢見てましたが、最近は撃った鹿をおぶって帰ってくる逞しい嫁が世界で一番可愛いって思えるようになりました。この前なんかあまりの可愛さにビビったヒグマも逃げ出したほどです。ね?最強に可愛いでしょ?

 俺も昔は家に帰らず渋谷で深夜徘徊して女をナンパしたり非行に明け暮れてましたが、東京でのあんな中途半端な生活では妻の可愛さにも本当の愛にも気づけなかったと思います。送ってくれてありがとうございました』



 な?ホラ、随分好評だぞ」




「どこが好評なんだよぉおおおおおおおお!

 すっかり洗脳されて騙されてるだけだろおおおおおおお!!

 しかも添付されてる写真の日時が古すぎんぞーー!!!」



「あくまで2年に1回だけ行われる文通のみでわかる近況報告だからな」



「近況じゃねーじゃねーかあああああああああ」



「ハハハ!

 ま、便りがないのが良い知らせってところだな」



 マ、マジか…。今知ったペナルティの内容…。

 前々からヤバいとは思っていたけれど、想像以上にヤバい内容だった。

 まさか宗谷の分校行きだったとは。



 宗谷校…その存在は聞いたことはあった。



 人類がいなくなった日本最北端である宗谷地方に、限界集落を若い力で再建させつつ、伝統的な狩猟業、農業、漁業を継承しつつ、古き良きこの国の原住民文化を学び、残すための分校があると。



 電波の一切届かない北海道最北の山奥での寮生活で、逃げようにも電車も自動車もなければ人間自体がいない。

 しかも一年の半分以上は外が極寒だし、残りの期間はヒグマが活発な季節という脱走すれば確実に死ぬという過酷な環境。9月下旬ともなればもう既に北海道の山奥では冬が始まろうとしているわけで、そんな時期に行けば逃げようという発想すらなくなりそうだ。


 全寮制国立校とはいえ、そんな他に人間がいないような隔離区域にある学校にわざわざ入りたいなどという一般人は当然いないわけで、昔は少年院上がりで、かつどこにも受け入れ先がないような非行少年を自立した生活を送れるように保護する施設として使われていたはずだ。



 しかも最近の少子化の影響で非行少年の数も減っているから、非行少年だけでは入校者が集まらず、広くニートになった成人をも受け入れて自給自足生活の訓練も実施しはじめたものの、それでも人が入らなくて廃校になるのではないかという噂を聞いていたが、まさかそういう再利用を画策していたとは…。

 これはヤバい。俺なら間違いなく高校中退の方を喜んで選択しそうなペナルティ内容だ。



 だが、逆に滝川が自分ならペナルティを受けても良いといったことを言っていた理由もようやくわかった。

 滝川の生まれ故郷である北海道滝川市は元稚内市とかなり近い上、更に豪雪地域だから、奴からすれば幼い頃に慣れ親しんだ暮らしより若干ヌルいくらいになるだろう。滝川にとってはそこでゆっくりと寺本との愛を育んでスローライフを送るというのも十分あり得る選択肢の一つになりそうだ。

 けれど、都会暮らしの人間には間違いなく最初は厳しい生活になるだろうな。寺本と滝川でペナルティに対する温度差がある点にも納得だ。なるほどな。そういうことだったか。



 それにしても、ペナルティ対象者はざっとみて20人くらいはいる。まさかペナルティ対象者がこんなにいるとは…。半分は特別措置だから10人逝くのか。



 どうやら俺と同じく適当に解説書も見ずにペナルティ落ちになった連中がわんさかいたらしい。まぁ今どき解説書なんか見る奴の方が稀だから仕方ないか。



 あれ?特別措置についてそんな発表を受けたのに意外と連中の反応はまちまちだ。それで悲壮感が高まっているわけではなさそう。


 さっきから熊沢先生に大声で文句を言っていた男も口では文句を言いながらも若干楽しみといった顔をしてる。



 マジかよ…。

 そ、そんなにスローライフ流行ってたのかよ。リア充の心も荒んでたんだな…。いや、むしろリア充だから人間関係に疲れてんのか。



 よくよくみれば特別措置になる奴は大抵自分のスペックに自信があるのに相手のスペックが微妙で付き合わなかったという連中ばかりの雰囲気。


 必然的に宗谷に送られる連中は比較的スペックの高そうな連中中心になるわけだ。確かに面倒な勉強とか忘れられて大自然と戯れつつ、比較的スペック高い仲間だけで暮らしていく生活はよくラノベに出てくるクラスごと異世界召喚もののスローライフ感あって悪くないのかもしれないな。



 って、いかん。俺まで何寝ぼけてんだ。ゲームできないし、アニメも見れない空間とか拷問すぎるわ!



 それはともかく、なんとなくだが、特別措置よりも、この学校に残る勢が受けるペナルティ、恋人作れないといった副次的なペナルティの方がリア充の連中にはダメージ大きそうだ。リア充は無人島送りの方がよりリア充しそうだもんな。変な逆転現象が起きてるな。




 そんな様子をみていると、特別措置対象者よりも堀北の方がよっぽど酷い状況かもしれない。



 堀北はこのままじゃ来週から彼女なしだ。しかも、交換恋人の後輩ちゃんに0点付けられてペナルティ落ちの可能性も高い。この学校でやりたい放題して楽しんできたアイツにとっては多分、宗谷送りすらも相当キツいんじゃないだろうか?仮に特別措置じゃなくても恋人作れないとかアイツからしたら拷問だろう。



 それでこの修羅場っぷりというわけか。なるほどな。

 と、そのとき、ふうちゃんがしがみついている方とは逆の肩がちょんちょんと叩かれた。



 振り向くと、水無瀬が俺を呼んでいた。水無瀬はどうやら触らぬ神に祟りなしということで、とっとと教室へと移動しようよというジェスチャーをしている。



 まぁ確かにそうだわな。

 連中なんか放っておいてとっとと校舎に入るべきなんだろう。



 けれども自然と俺の足は止まっていた。



 はぁ…こういうときに俺は放っておけない性格なんだよな…。

 まぁそれでいつも貧乏くじを引いてきたわけなんだが。



 正直、堀北はどうだっていい。

 俺はアイツのことを元友人のただのクラスメイトと呼んでいるように、ヤツは俺をハブり、俺をクラスのカースト最底辺に落としたメンバーの一人だ。



 まぁ、だからと言って俺は奴を恨んだりはしてないわけだが、今、不幸のどん底にいるアイツを救ってやる義理はない。



 だけれどもうつ向いて泣きそうになっている後輩ちゃんはそうじゃない。

 あの後輩ちゃんはただの被害者だ。

 本来は連中に引きずられて皆の好奇の視線に晒されて貶められるべき対象じゃない。

 そして俺はああいうのを見てるとどうにも放っておけないんだ。



 はじめて小梢と出会ったときもそうだった。

 てか、ふうちゃんのときもそうだったし、水無瀬のときもそうだったな。




 俺はさらし者にされる後輩ちゃんを見ていて、助けに行きたい衝動に駆られた。けれど、今、あの子を助けるのは今までとは状況が少し違うせいでためらってもいた。

 というのも今までは俺は1人だったからそうしたからといって誰かの迷惑になることはなかった。

 けれど、今は1人じゃない。俺の交換彼女であるふうちゃんに迷惑がかかる。



 俺がいつもの癖で指で頬を掻きながら困っていると、そんな俺の様子を察したふうちゃんは俺のことをじっと見てきて、さっきまで強く握り絞めていた俺の腕をパッと離して言う。



「あっくん…。

 さては放っておけないんでしょ?」



 さすがは幼馴染のふうちゃんといった俺に対する理解度だ。ふうちゃんはしょうがないなぁといった顔をしている。


「…ごめんね。そうなんだ。けど、ふうちゃんに迷惑はかけられないからな。もういこっか」



 そう言って俺はこの場を立ち去ろうとするものの、足は何故か一歩前に進んでいた。言葉と態度が真逆な俺を見て、ふうちゃんは噴き出した。



「くすくす。

 あっくん、私ね、あっくんのそういうところが好きなの。

 だから私のことは気にしなくていいよ。だから行ってきて?

 ううん、一緒に行きましょっ!」



「ふ、ふうちゃん…」



 どうやら俺の知らない間にふうちゃんは守られるばかりではなく、一緒に戦おうとする強い女の子になっていたらしい。持つべきは理解のある幼馴染彼女だな。



 俺はふうちゃんを連れて戦場へと向かった。



 俺達が向かう間、堀北は後輩ちゃんの耳元で何かを囁き、後輩ちゃんが顔を真っ青にしている。



 俺はその様子を見て俺が以前堀北にされた仕打ちを思い出した。



 あのときと同じか。



 俺はクラスでハブられているけど、ただヲタクだというだけで普通はここまでハブられたりはしない。今の世の中、小坂やふうちゃんのように隠れヲタクは五万といるし、アキバは修学旅行の先にまで指定されたりとヲタク文化にも大分寛容になってきている。



 そもそも俺はキモヲタではあるけれども、成績は良いし、eスポーツ分野ではそれなりに有名なプレーヤー張ってるだけに運動神経も悪くない。容姿もまぁまぁなはずだ。



 自意識過剰かもしれないが、大村のようにモテモテとまでは言わないものの、リア充連中のメンバーに入っていても全然違和感ないくらいのスペックはあったはずだと自分では思ってる。



 だが、何故か俺は俺のクラスのリア充トップカースト連中から排除されて、クラスのカースト最底辺に押しやられた。特段恨みを買うようなことはしてなかったのにだ。



 強いてあげるなら、人気者の水無瀬や小梢と仲良くしていたことくらいだろうか。



 あれ…?強いてあげただけで、全然思い当たる節はないって話だったのに、改めて考え直すとこれだけでもなんか恨み買いそうな気がするぞ?特に小梢なんか入学してから常に俺にひっついてたし、今では俺の本彼女だからな。



 ま、それはともかく、俺が気に食わなくて、敵視して、ハブりたかった堀北達クラスのリア充勢は、俺に対して()()()()()を行使してきたわけだ。



 そして、今、堀北が後輩ちゃんに使ってるのもそれだろう。ホントにワンパな奴だ。


 俺には堀北が言いそうなこと、その内容がピンと来ていた。







 リア充最大兵器。






 それはズバリ人脈。人の力だ。




 こればっかりは人付き合いが苦手・面倒と割り切って切り捨ててきた非リア充の俺たちではどう抗っても勝てない武器。いや、使われる側によっては戦略兵器だ。



 相手が一人で、そいつが無視やシカトを決めて来たり、悪い噂を流してきてもなんの影響力もないし、こっちも反論すれば水掛け論になるだけだ。

 だが、その相手が大勢なら別。噂は真実になるし、一人で立ち向かっても反論は見苦しい言い訳と捉えられる。有無を言わさない圧倒的な戦力差になるわけだ。



 俺はリア充の連中によってただのヲタク野郎というだけではなく、筋金入りの不良、補導歴30件のヤベ―奴だとSNSとかで徹底的に言いふらされた。



 まあ、子供の頃からゲーセンに一人で通ってた俺の補導歴は実は30じゃ効かないし、全部俺が負かしてきた奴の逆恨みによるものだったが、これまで経験したケンカの数や修羅場の数もそこらの不良よりも随分上なのも確かだった。



 全部事実だったから俺も否定しなかった。その結果、クラスじゃ元々仲良くて俺のことをよく知ってた水無瀬以外は誰も近寄らなくなった。



 そんでもって、こんなヤバい奴がモテるわけがない、小梢についてもただの仮カップルだろとすんなり信じられているように、俺はクラスじゃすっかり最底辺というわけだ。



 でも、みんな俺にビビッているから、立ち位置最底辺でもいじめられているわけではないし、リア充の連中もクラスイベントとかで用があるときはちゃんと話かけてくる。一応体育とかグループ作る系では皆俺を怒らせちゃいけないと思ってるのか気を遣ってきちんと俺の一個上のカースト勢を寄越してきてくれたりはする。



 そんなわけで俺は俺の今の生活に不満はない。元々一人でいるのは好きだしな。



 けれど、それというのは、俺には学校にはクラスの他に部活仲間がいるし、本当の俺を知っている先生たちも俺を信用してくれてるからだ。しかも学校の外にはゲーム仲間もヲタク仲間もうちの会社の人とかもいる。



 俺だからクラスでハブられても何の問題もないだけであって、普通の人間はクラスや寮が学校生活の中心で、そここそが大事なこと、俺とは違うということはわかっている。



 特にあの後輩ちゃんとかはそういうのに弱そうだ。読まなくても良い空気まで読んで教室や寮の隅っこで大人しくしてそうな子だ。これ以上の環境悪化は耐えられないだろう。

 だからこそ堀北のやり口はそういう弱みに付け込む卑劣なもので到底許せるものじゃない。


 恋も学校生活も、もっと正々堂々と楽しくやるものだろ。その人脈という武器を使って根回しだの他人を犠牲にしてまで意中の女子と付き合って何の意味があるのやら。俺にはわからん。

 


 その力がそんなにすげーっていうなら勝負だ堀北。

 あいにく、今は俺にも仲間が60人ほどいる。しかも強い絆で結ばれた非リア充60人がな。





 俺は仲間を引き連れ、後輩ちゃんに詰め寄る堀北を軽く押して後輩ちゃんから堀北をどけた。



 そして、突然押しのけられて「誰だよ!?何すんだ!」とか言ってキョドっている堀北に浴びせる。



「おい、堀北。お前、調子に乗るのもそこまでにしとけよ?

 勝負だ堀北。俺が勝てばこれ以上、お前らリア充勢の好きにはさせない」






 ****************




 えっ、えええええええええ!!???



 誰からも注目されず、陰キャだけど心の中では饒舌でこっそり色々妄想することだけが趣味の私。



 そんな私が、堀北先輩に使い捨てにされるという無残な未来を嘆いていたら、謎の救世主が颯爽と現れた。



 その人は私の友だちである小梢ちゃんの【せんぱい】だった。



 ちょ、ちょっと待って!

 どうして【せんぱい】が!?

 わ、私、小梢ちゃんじゃないんですけど!?



 しかもせんぱいはいきなり堀北先輩を突き倒して

「俺の可愛い後輩に手を出すなんて、堀北お前、調子乗ってんじゃねーぞ」とか(※言ってない)「この子を賭けて勝負だ」とか(※言ってない)言っちゃってる!


 なんか私、2人のイケメン先輩に奪い合いされる少女マンガのヒロインみたいなことになっちゃってるんだけども!(※なってない)


 ど、ど、ど、どうしよぉおおおお!!

 ちょっ、ちょっと、やだ!せんぱいってばこんなみんなが見てるところで大胆過ぎですってー!やん♪



 こんな目立つところでやられたらさらに注目されちゃうよぉ…ってあれ?

 さっきまでの私へ突き刺さってた嫌な視線が消えてる…。なんで?



 そう思って周りを見回すと、ずらっと謎の大量の男性陣が私と堀北先輩を取り囲むようにして立っていて、私への嫌な視線はその男性陣たちによって完璧に遮断されていた。



 しかも周りの人たちはみんなその男性陣を目を合わせちゃいけない集団だと思っているのか、さっきまでこちらを見ていた人たちがみんな顔を背けていっている。



 私がいる周囲は人のカーテンに包み込まれた謎の空間に変わっていた。

 す、凄い…。せんぱい、ゲームやり過ぎていつのまにかトヘ□スの魔法まで使えるようになっちゃったんですか!?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ