第27話 彼女がその人を「せんぱい」と呼ぶ理由
それにしても、制度の罠に見事にハマったとはいえ、堀北のやつらめ…。
あいつらだけでやりあうならともかく、間に挟まれてるただの被害者な後輩ちゃんが更に注目浴びて涙目になってるじゃねーか。
ったく、一般的真ん中に置いて昼ドラおっぱじめるなよな。可哀想過ぎるだろ。
大丈夫かな?なんか、ああいうのを見てると小梢と出会ったときのことを思い出すな…。
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はぁ…もうやだ…。
最悪だよ…。
そこそこ有名な先輩の交換恋人の相手ということでたくさんの好奇の視線に晒されて私はまるで動物園の檻にでも入れられた気分だった。
その上、堀北先輩をカッコいいと慕う同性からはあんなブスが良くやるわねと嘲笑しながら私を侮蔑視してきて恥ずかしくて死にたくなってきていた。
シャッフルで運悪く変な先輩を引き当ててしまったせいで昨日から散々だ。
私は自分で言うのもなんだけど、いわゆる陰キャってやつだ。
容姿も普通か中の下くらい。同中で友達の小梢ちゃんみたいにお化粧も上手にできない。中学まではそれでも普通って感じだったけど、高校に上がってからはお化粧上手な周りと凄く差がついてしまったと思う。
けど、そんな私でも、高校に入って何故か奇跡的に彼氏ができた。
彼氏は同中で中学のときからそこそこ仲良かった。
高校ではクラスが違ったせいですっかり会わなくなったなぁと思っていたら一学期末に告白された。
なにやら彼の話では上級生たちが告白フェスタで色めき立ってるのを見て感化されたのと、私がクラスメイトの誰かに取られちゃうんじゃないかって不安だったらしい。まったく、そんなわけないのにね。
彼は私のような陰キャじゃなく、小梢ちゃんみたいに女の子女の子してる子の方が好きだと思ってたから突然の告白には本当にびっくりした。
平凡な私はそんな平凡な告白にきゅんときてしまって彼と付き合うことにしたんだ。
私は自分がそんなに可愛くないと自覚しているけれど、彼だけは私のことを可愛いって褒めてくれて嬉しかった。お化粧も彼のためなら覚えてみようかなと思った程だ。
彼と付き合えて本当に良かったと思っていたけれど、こんなことになるんならやめとけば良かったかなぁ…。
私が先輩たちの喧嘩の渦中にいて、不安になってる時くらい本物の彼氏が助けに来てくれないかなぁとかほんの少しだけ期待していたけれど、そんなことはなかった。
さっき、彼がこちらに気づかない振りをしながら、先輩らしき綺麗な女の人と仲良さそうにしながら校舎に入っていったのが見えちゃったから彼が助けにきてくれるという希望はすっかり消えちゃっている。
ま、彼も陰キャな方だから、怖そうな先輩たちの間に落ちてる火中の栗を拾うようなマネは絶対できないと分かってた。
だから別に良いんだ。
そもそも私だって同じような状況になったときに友達である小梢ちゃんを見捨てたことがあったしね。
…そう、みんな実際はそんなもんなんだ。わりきって諦めるしかない。
あんなドラマチックなことなんてそうそうあるもんじゃない。
あれは、この学校の受験の合格発表を友達の小梢ちゃんと見に行った日だったっけ。
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小梢ちゃんは、2人とも無事合格した記念にプリクラ撮ろうと誘ってくれて、一緒にプリクラを撮ったんだけど、プリクラを撮り終えた小梢ちゃんは「格闘ゲームしていくー」とか言ってそのゲーセンの向かいにあるレトロで対戦ゲームとかしか置いてない雰囲気悪そうなゲーセンに突っ走っていっちゃった。
あの子は空気読むのが若干苦手なタイプで、可愛いのに中学でもあの子のノリについていける子はあまりいなくて、友達は基本的にあの子のノリに寛容というか、動じない陰キャな私たちくらいしかいなかったような子だ。それでいて、学校では偉大な存在でもあった大村先輩と仲が良い子ということで別格扱いされてハブられたりすることもなく、適度にうまく人間関係を作っていた不思議な子でもあった。恋愛とか興味なくて、二年生までは大村先輩バリアーがあったし、三年生になっても告白してきた男子を片っ端からフッてたから他のリア充女子の誰々ちゃんの好きな人奪ったーとかって標的にされずに済んだんだと思う。むしろ小梢ちゃんの側にいて、おこぼれを貰おうとする女子すらいた。そんなわけで小梢ちゃんは基本的に自由気ままを貫いてた。
ちょっと危ない雰囲気のレトロなゲーセンに乗り込もうとする小梢ちゃんに対して、私はやめとけ、って散々言ったんだけれども、小梢ちゃんは「ネット対戦で鍛えたテクニックをリアル対戦で試したいの!」とか意気込んじゃってて全く聞いちゃくれなかった。
私は「知らないよ!」って言いながらも仕方なく付いていくことにした。入ってみるとそのゲーセンは暗いし、客層もなんだか悪そうな人ばかりで怖かったから私はちょっと離れて店員さんのいるカウンターの方から眺めてみるしかできなかった。
けど、遠目から、素人の私の目から見ても小梢ちゃんの対戦は小梢ちゃんの一方的な展開だったのがわかった。
どんどんコンボを決めていって、相手を壁際に追い込んでいって、相手は最初の技を喰らってから1度も起き上ることもできなかったし、小梢ちゃんはKOと表示されてからもボコボコにしてた。
躍起になった相手は何度も連コインしてコンティニューしてたけれど、小梢ちゃんの一方的なゲーム展開はずっと変わらずだった。
10連勝のマークがついて、私もいくらなんでもそれはやりすぎじゃないかなって思った頃、”バンッ!!!”っていう激しくゲーム機をぶっ叩く音とカランカランと灰皿が落ちる音が聞こえて、小梢ちゃんや私がビクッとなって硬直していると、小梢ちゃんはあっという間に対戦してた男グループに囲まれちゃった。
ぞろぞろ出てきたその男の人たちは、髪は金髪メッシュで顔とかそこら中ピアスだらけで、服装も制服とかじゃなく、作業着みたいなのを着ているっていう、見るからにチーマーヤンキーって感じの大男たちだった。人数も4人もいた。
大男たちは、小梢ちゃんを取り囲むと、「おいおい舐めてんのか、おいコラ!」とか「テメー、ハメ技使ってんじゃねーぞ!表出ろや!」とか「大人ナメるとどうなるか身体に教えてやんぞ、コラ!」とか「こんな挑発されちゃ、ハメられても文句言えねーよなぁ?誘ってんのかぁ?オイコラ!」とか言って怒鳴りはじめて、小梢ちゃんはそれに対してあまりの怖さに泣きじゃくりながら謝っていた。
小梢ちゃんが泣いて謝っても連中は「それじゃ、詫び入れてもらおうか?」「詫び入れるというか入れられる方かもしれねーけどな?クックック」とか逆にテンションあげて喜んでいて、少し離れたところから見ていた私もちびりそうなくらい怖かった。
あのままじゃ小梢ちゃんはどこかに連れてかれて犯されちゃうんじゃないかと思ったくらいだった。
けれども私は怖くて怖くて声も出せなかったし、身動き一つできなかった。
とても助けにいけるような雰囲気じゃなかった。
私はおろか、それは周りにいたゲーセンの客たちも店員さんも同じ。皆、彼らの脅迫行為は聞こえているはずなのに見て見ぬフリだった。
ごめん、小梢ちゃん。私が止めに入っても、無駄だから!私も巻き込まれちゃうから!
と、私は助けに行けない自分に言い訳しながら祈るように見守ってた。
その瞬間だった。
私たちが今さっき合格した高校の制服を着た男の人が突然その不良グループに割って入っていったんだ。そして、
「すいません、ソイツ、俺のコーハイなんですよ。つい調子乗っちゃったみたいなんで勘弁してやってくれないですか?」
そんなことを言った。
小梢ちゃんも当然その男の人とは初対面なわけで、ただでさえ動揺していた小梢ちゃんは謎の男性の登場に「えっ、だれ?」とか言いかけようとしたところ、その男の人は小梢ちゃんに被せるように「だろ?」と優しく微笑んで話を合わせろと目配せをしていた。
小梢ちゃんは一瞬きょとんとしたけれど、すぐにそれに気づいて話を合わせて「は、はい、せんぱい、心配かけてすみません」と応じた。
これで事態は収まるかと一安心していたら、むしろ火に油を注ぐような行為だったらしく、不良たちのリーダー格の人が「なんだ、テメー、カッコつけてんじゃねーぞ!!ブチ殺すぞッ!」とさらに怒り狂ってその男の人に殴りかかったんだ。
私は「キャッ」と声を上げて顔を掌で覆ったものの、その人が殴られたような音はいつまでも聞こえてこなかった。
恐る恐る目を開けて見てみると、その男の人は不良リーダーのパンチを左手で難なく受け止めた上で、その手を捻りあげていた。
そして「イテテ!は、離せ!」とか言っているそのリーダーの腹を一突きしただけで、リーダーの男は意識を失ったかのように沈んだんだ。私はあまりの出来事に驚きすぎて開いた口が塞がらなかった。
「ったく、俺が一体何歳からゲーセン通ってると思ってんだか。
今更俺にリアルファイトしようとするヤンチャな奴はこのゲーセンにはいなくなったと思っていたけど、たまにはいるもんだな。
悪いが俺はつえーぞ。
太鼓の名人2日間ぶっ通しプレーができるよう握力は並みの体育会系の連中より鍛えてるし、子供の頃からゲーセン通いでこうしてお前らみたいなクソヤンキーどもに絡まれてはリアルファイトしてきたからな」
そう言って拳をポキポキしながらその男の人が他の不良を睨み付けると、リーダーが一発でやられちゃったのもあって、3人の不良たちはリーダーを置いて足早に逃げ帰っていったんだ。
不良たちが退散していったのを見た小梢ちゃんは、腰が砕けたようにふにゃふにゃになりながら椅子に腰を落としてふえええんと泣きそうになると、その男の人は、小梢ちゃんの頭に軽くコツンとしてから、優しく撫でて落ち着かせていた。
「ったく、お前、どこの誰かは知らんが、オン対(オンライン対戦)と違って店対(店内対戦)は気を付けねぇとこうやって絡まれんだからもうちょい考えてプレーしろよ。
実力差ある相手に手抜きしろとは言わないが、投げ抜けできない相手にしゃがまないと回避できない投げとしゃがんでると浮く浮かし技の二択を執拗に迫るとか弱点ばっか突き過ぎだし、その上、KO後にあそこまできっちり死体蹴り決められたら普通の一般人でもキレるぞ。
まったく、格ゲープレイヤーってのはまだまださっきみたいな不良が多いんだからな。
これに懲りたらオン対だけにしとくか、店対は仲間とだけにしとけよ」
「は、はい…ごめんなしゃい…」
「わかったならいい。偉そうにしてごめんな。
おせっかいなのは承知してるが、同じようなことをしてきて散々ケンカ吹っ掛けられてきた先輩からの助言だ。頭の片隅に入れておいてくれ。
それじゃーな」
その男の人は小梢ちゃんを慰めるかと思いきや、思いっきり小梢ちゃんを叱りつけていた。
うちの学校じゃ傍若無人であの大村先輩ですら制御不能だった小梢ちゃんなのに、小梢ちゃんは泣きながら、うんうん頷いて子犬のように初対面のその男の人に懐いていた。私はそれを見て、こんなドラマみたいな出会いもあるんだなーとか思ったものだった。
そして小梢ちゃんはその男の人が急いで帰ろうとしているのすら引き止めて、
「ま、待ってください!私、春からせんぱいの学校の後輩として入学します!
せんぱいに会いに行きたいんですけれど、どうしたらせんぱいにまた会えますか?」
と、そんなことを言っていた。
私はそれにびっくりした。そのセリフはちょっと回りくどくて、いかにも中学生らしいウブなものだったけど、傍から見たら完全に愛の告白だったからだ。
つかみどころがなくて、中学では数多の男子を片っ端からフッてきたあの神崎小梢ちゃんが初対面の男の人に、それも名前も知らない相手にいきなり告白だなんて、そんなことあり得るのかと私は耳を疑った。
だけれども、その男の人は告白を全然、告白とは受け止めずに
「そうなのか?
ならアニゲー研究会の部室にくればいい。俺が部長やってる。さっきお前がやってた崩拳も好きなだけできるぞ。
入りたい部活がなければ入ってくれても良いし、入らないでちょっと遊びたいだけとかでも構わないぞ。ま、俺も遊び歩いてるから捕まらんかも知れんが、部室には崇もいるし、どっかで会えるだろ。
おっと、スマン。ポリが来たらそろそろ累積的にヤバいんだ。悪いが俺はもう行く。じゃーな」
とか言って一方的に切り上げて足早に帰っていった。あの小梢ちゃんの大胆な告白にこの塩対応っぷり。ある意味凄い人だと思った。
しかも、店員さんも含めて皆が躊躇している中、あんなに怒り狂った沢山の不良達の中に割り込んで来れちゃうのに、警察の補導は怖いってところはなんだかそこだけ進学校の優等生っぽくてそのギャップが面白かったのを覚えてる。
それに決死の覚悟で告白したのに肩透かしを喰らった小梢ちゃんの方というと、ダッシュで帰っていくその人の背中を目で追ってしばらくボーっとした後、「絶対振り向かせてやるっ!」とか言って意気込んでてそれも面白かった。
その後、私たちはこの学校に入学して、小梢ちゃんは一目散にアニゲー研究会に走っていって入部したことで、あのときの男の人の正体が兼平先輩という人だと知った。
だけど、小梢ちゃんは未だに兼平先輩のことをあのときのとっさに出た方便と同じく「せんぱい」と呼んでいる。
あの合格発表の日から高校の入学式まで小梢ちゃんはずっと「せんぱいがね、今日も夢に出てきちゃってね、もうカッコイイのぉ…えへへ」とか言って今まで見たことなかったような乙女の可愛い顔を浮かべて私とあの日の話で盛り上がり続けたせいで、すっかり「せんぱい」呼びが癖になっちゃってるらしい。
小梢ちゃんの中ではいまだに兼平先輩は名前も知らない謎のせんぱい、ということなんだろう。高校に入ってからの小梢ちゃんは毎日好きな人と一緒で凄く楽しそうで幸せそうだった。
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はぁ…。
あまりの居心地悪さに昔を思い出してつい現実逃避してしまった…。
当時は、あの小梢ちゃんがそんなことで落ちちゃうなんて小梢ちゃんも結構ちょろかったんだなぁとか思ってたけど、今、自分が同じような立場に置かれてそれはちょっと違うんだとわかった。
あんな風に女の子が困っているところに飛び込んできてくれる人っていうのは、少女漫画とかでは良く出てくるけど、現実にはそんな人はいないってことだ。
もちろん、小梢ちゃんクラスに可愛い女の子なれば下心ありのカッコつけで飛び込んできてくれる人はいるかもしれない。けれど、どんなにカッコつけでも強そうなチーマーヤンキー4人組の中に飛び込んでいくのは無理だ。要するにそういうことなんだろう。
その上、あのときの兼平先輩は、小梢ちゃんを助けたことについて恩を着せたりそれで美少女とお近づきになったりするつもりは一切なく、助けたらそのまま連絡先はおろか名前も言わずにとっとと立ち去ろうとしていて100%の善意だけで介入してきていた。それって普通はできない凄いことだと思う。
私は今になって小梢ちゃんの見る目の正しさを思い知った。
それに対して、今の私は、ブスと言われて皆から蔑まれて、下心で助ける価値もない。今、ここには大勢の人間がいるのに皆、見て見ぬふりだ。
唯一助けてくれる可能性があった私にぞっこんだったはずの彼氏ですら、私を見捨てて美人な交換彼女との交際を楽しんでいる始末。
はぁ…私、見る目なかったのかなぁ…。辛いよぉ…。
けれど、私は早くここを立ち去りたいと思っているのに、私の交換恋人である堀北先輩は周りに当たり散らしてしばらくこの場を動いてくれそうにない。しかも、堀北先輩が注目を集めて、なんで発狂してんだ?ああ、あのブスが交換恋人なのか、ざまあないな、みたいな目で見られてホントに最悪だ。しかも、それでいてもし私だけここを離れたらとばっちりで評価0点=ペナルティ落ちにさせられそうだから動くに動けない状況だ。
私がじっとがまんしていると、堀北先輩はさっきまで発狂しまくって、次に落ち込んでようやく落ち着いたかと思ったら、今度は何かを思いついたように「クックック」とか笑い出してちょっと怖い。
堀北先輩は急にバッと私の肩を掴むと耳元に顔を寄せてぼそぼそつぶやいてきた。
「おい、お前、俺をお気に入り登録しろ。そして10点入れろ!
そうだ、そうすれば俺は恋人交換チケットが手に入る!そうすりゃー俺だってもっと上を狙えるんだ。
そうだ、そうだよ!まだ終わってねぇ!まだ終わってねぇじゃねーか。
おい、テメー、俺に協力しろよ!じゃねぇと俺はお前に0点付けんぞ!いいな!」
堀北先輩のつぶやきはとんでもないものだった。内容は脅迫だった。
こんな人をお気に入り登録するなんて、本恋人にするなんて冗談でもイヤだった。
しかもその本恋人交換も、私のことをただ使い捨てにするためだけという血も涙もない提案だった。
「イ、イヤです…。先生に訴えますよ…?」
私は震えながら拒絶の返事を返した。
誰も救ってくれないとわかっているからこそ私は決死の覚悟で手も足も声も震えながら堀北先輩に拒絶の意思を示した。
ここで拒絶しなきゃ一生後悔する、それがわかっていたからこそ勇気を振り絞った。0ポイントを付ける権利は私にもある。お互い0ポイントなら判定会議行きだ。そうなれば私に分があるはず。
けれど、そんな私に対して、堀北先輩は心を折るような言葉をかけてきた。
「ハッ?お前そんなことしたらどうなるかわかってんだろうな?
お前、俺がこの学校でどういう地位にいるか知らねーのか?
俺はカーストトップなんだ。俺の人脈使えばお前もお前の本恋人もいくらでもどうとにでもなんだよ!
お前らが夜道安心して帰りたかったら協力しろよ?
それに今は声をあげられないけどな、俺と恋人になりたいって女はわんさかいるんだよ。
なんたって、彼女持ちだった俺に対しても告白フェスタでわんさかエントリー者が集まってんだからな。俺の言うことならなんでも聞くって女が山ほどいるんだよ。
お前、女子寮で健やかに過ごしたかったら協力しろよ?
じゃないとお前が洗濯した下着やらが教室の黒板に貼り付けられるかもしれねーぞ?
クックック。女の嫉妬って奴はコエーからな。
そんなことになってもいいのか…?クックック…」
それは身も毛もよだつような話だった。
私のささやかな抵抗心は、堀北先輩の脅しの前にたやすくポキりと折れてしまった。
学校とかで居場所がなくなるのは元々陰キャな私からしたら大したことないから良いけど、そんな私が唯一落ち着ける場所、絶対安全だと思っていた女子寮ですら安心して暮らせなくなったらもうおしまいだ…。
諦めた私が「わかりました」と返事をしようとしたそのときだった。
「おい、堀北。お前、調子に乗るのもそこまでにしとけよ?」
私にとってあまりにも予想外の方向から救いが現れたんだ。




