第26話 リア充爆発~スクールカーストの崩壊
ようやく本題に入ります。これに合わせて章の副題も変えました。
今回たくさん新しい名前が出てきますが、基本覚えなくて大丈夫です。
いい感じに俺も含めて一体感が出てきたところで俺らは学校へと向かった。
さすがにこの人数となるとかなり目立つのではと思ったが、意外と皆、見慣れた光景なのか、そんなに注目はされていない。むしろ皆、率先して道を開けてくれる始末。
スゲーなこいつら。
けれど、俺にはそれ以上に別の違和感も感じていた。
それというのも、この大所帯なのに妙に動きやすいからだ。
邪魔にならないよう2列で綺麗に整列しているとはいえ、普通63人の行列があれば結構邪魔になるし、ペースがゆっくりになったり歩きにくくなるもんなんだが、そうもならない。
それに普段よく見かける光景を今日はあまり見かけない。
そう、俺らが移動する上でバッティングしてしまう相手、いちゃいちゃしながらゆっくり歩いていらっしゃるカップル連中が全然見当たらないからだ。
通学路を見渡す限り、お一人様率が圧倒的に多い。だから俺ら2列の大行列も邪魔にならないというわけだ。
一体どうなっているんだ?まぁ確かに恋人が交換されたからカップルを見かけなくなるのは不自然ではないのかもしれない。むしろ俺らは珍しい方なのかもしれないな。
けれど、俺らが学校の校門までやってくると一気に様子が変わった。
学校入ってすぐの中庭には大勢の人間が詰めかけていてヒステリックな喧噪で溢れかえっていた。
騒ぎの渦の中心にいたのは生活指導総責任者でもある高橋教頭だ。
そして高橋先生に一番詰め寄って、胸ぐらをつかむような勢いなのは俺の元友人で、クラスメイトの堀北健一。うちのクラスのリア充グループ所属代表格だ。
「おい!高橋!ふざけんなよ!
なんで俺の交換相手がこんなブスなんだよ!
昨日は我慢してやったけどよぉ!もう限界だ!
もう無理だ!早く戻せや!」
「お、落ち着きたまえ!」
「ほ、堀北先輩…」
堀北健一の隣では堀北の交換彼女と思われる地味っぽい女の子がうつむいている。どこかで見覚えのあるような子だが、堀北を先輩と呼ぶということは一年生だろう。大勢がいる場でブスと言われて泣きそうな表情を浮かべている。
けれど、俺の目からするとブスというよりはフチの厚い眼鏡をかけていて、ただ地味でちょっと暗そうな印象なだけって感じだ。すっぴんでアレなら相当可愛い方なのではないだろうか。それを堀北のヤツ、後輩相手に大人気なさすぎる。
「おい由里、お前だって戻りたいよな!」
堀北が声をかける先にいるのは堀北の本恋人、同じく俺のクラスメイトで、リア充グループ所属の浅野由里。2人はスクールカーストトップグループにいるだけあって容姿も派手なウェーイ系。
浅野由里は堀北の交換彼女の後輩ちゃんとは対照的なギャル系で明るくメイクもばっちり決まった可愛いタイプだ。
その隣には浅野由里の交換恋人と思われる爽やか系の優男がいた。爽やか男の方の名前は違うクラスだからわからん。
堀北健一と浅野由里は俺と同じクラスでいつも仲良さそうにしていたけれど、今は2人の間にかなり険悪な雰囲気が漂っている。浅野はイラついた表情で堀北に告げた。
「は?別に健一と戻りたいとは思わないけど?
アンタ、先週はずっと俺が神崎小梢と交換恋人になったらどうしよぉーとかってバカみたいにテンションあげてたじゃん。
あのときは「そうだねー」とかって話合わせてたけど、悪いけどあれでアンタの本性がわかって、私はこの機会に別れようって思ってたんだよね。
ね、木村くん、お願い!今週終わったら私のことお気に入り登録してくれないかなぁ?私、もうあの人嫌い…。木村くんが好きなの…。ダメ?私のこと守って欲しいな?」
浅野はぶりっこモードで木村という名前らしい交換恋人の優男に本恋人の交換であるお気に入り登録をおねだりしていた。さすがは、本命は小梢だという堀北の本恋人だけあって浅野の本性は小梢と似たような小悪魔ギャルタイプのようだ。
優男の木村は浅野による胸をぎゅっと押し付ける色仕掛け&ぶりっこおねだりの前に完全にたじたじになっている。
これには木村もコロッと落ちそう、ってか木村は浅野のスキンシップに対して見るからにデレデレして嬉しそうにしていて、もう既に落ちてるご様子。
そしてそれが分かってるからこそ堀北はブチ切れていた。
「おい由里テメー!なに裏切ってんだよ!
木村テメー!カースト低いテメーごときが由里をお気に入り登録したらどうなってるかわかってんだろうな!?」
「そ、そうよ!由里、アンタなに勝手なこと言ってんの!?
木村くん、由里をお気に入り登録なんてしないよね?ね?」
イキってキレる堀北に便乗するような声を上げて浅野由里に詰め寄っていくのは、これまた俺のクラスの女子である鈴木佐智代。
お、おいおい!なんだよこの昼ドラ展開は!
どうなってんだ俺の学校は。アホみたいに修羅場ってるじゃねーか。
もうめちゃくちゃだよ!!
鈴木佐智代は堀北、浅野を中心としたスクールカースト上位のリア充グループには所属していないが、そこへ入ることを目論んで告白フェスタで彼氏をゲットしたというカースト上位入りを狙う一つ下のカースト所属だ。
どうやら鈴木佐智代にとって上を狙うための仮の恋人相手が木村ということだったらしい。そして今、鈴木の隣にいるのはガタイの良い見た目ラガーマンの交換彼氏。
ラガーマンは見るからに体育会系のちょっと暑苦しそうな男だから、人によって好みは分かれそうだが、同じ男である俺の目からすると、男らしくて優男の木村よりもずっと頼りになりそうで魅力的な男に見える。けれどこのラガーマンは鈴木の本恋人である木村とは真逆のタイプの男なのも事実。
それにそのラガーマンは、やっぱりというか見るからに本恋人に一途な感じで、恋人を自分のカースト向上のためのただのステータスとしか思っていない鈴木佐智代には全然が興味なさそうにしていて、我関せずモードだ。
ただ、こういう融通の効かなさそうなヤツが交換恋人の相手だと同行の行動強制がある交換恋人制度は相当苦痛に感じるのも事実。鈴木にはそれが堪えたんだろう。
交換恋人に積極的な鈴木と消極的なラガーマン、二人の相性は最低最悪といった感じだ。
そういうわけで鈴木佐智代としてはラガーマンよりは木村の方がマシという判定なんだろう。けれど、そんな図々しい本音は木村にも当然見透かされていた。
「い、いや…佐智代ちゃんだって、俺のこと手頃だったから告白フェスタで付き合うことにしたけど、本当は大村と交換になりたい、とか言ってたよね?俺との関係は仮だって。
だから俺、浅野さんをお気に入り登録するよ。そ、そうやって理想の相手を見つけていくための制度だろ?」
「な、な、な…」「テ、テメー!!」
木村の宣言に浅野由里は歓喜し、堀北健一と鈴木佐智代はわなわなと身体を震わせている。
「決まりね。健一、アンタはもう来週からは恋人なしのただのクズ男よ。
嫌ならその子で妥協するかってとこでしょうけど、アンタの趣味じゃないもんね。
アンタのスクールカーストなんて来週にはもう最底辺なんだから自覚しなさいよ。
最底辺のアンタが上位の木村くんにちょっかいだそうなんて許されないからね!」
「くっそーーーーーーーーー!!!
おい高橋!今すぐもう一度シャッフルしろ!」
浅野との決定的な決裂を前にして気が動転した堀北はとうとう高橋先生の胸ぐらをつかんで再度のシャッフルを要請し始めた。
だが、高橋先生は昔は柔道部の顧問を長くやっていただけあって、練達した雰囲気があり、優男の掴みかかりにはビクともせず、すぐに外して逆に堀北に説教を始める。
「堀北くん、悪いがそれはできない。
だいいち、仮にそれをしたとしても今度の相手にキミが納得するとは限らないだろう。
それに、シャッフルと評価は表裏一体。今、シャッフルをしたとしてキミは非難した相手であるこの子からポイントを貰えると思ってるのか?
断言しよう。
今シャッフルをし直しても100%キミにとって悪い結果しか出ないよ。
キミの今の交換恋人に対する不誠実な行動はキミにとって全ての面でマイナスにしかなっていない。もっと冷静になりたまえ」
高橋先生は、堀北の主張が、「ガチャ1回回してやったのにRしか出ねーじゃねーか!SUR出ないとかふざけんなよ!SUR出せよ!」という課金ゲームあるあるクレームと同じ単なるいちゃもんでしかないことはよくわかっていて、全然取り合うつもりはない様子。
そして、交換恋人をないがしろにするその行動は自分の首を絞めるものでしかないということを諭す。
そう、だからこそ交換恋人とはどういう形であろうと、そしてそれがどんなに嫌な相手だろうと真剣に交際しないといけない。
これが交換恋人制度を甘く見た人間の末路。
ただより良い恋人が釣れるかもしれないというメリットだけに飛び付いてウェーイ言ってたヤツが天誅を喰らったというわけだ。一度失った信頼は取り戻せないだろう。
「ちくしょーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
堀北は高橋先生の言葉に反論もできず、その場で大声で吠えた。
堀北は身長は高いし、顔も俺よりも大分イケメンだと思うけれど、今そんな堀北に対しては蔑む視線しかない。その横でうなだれる鈴木に対してもだ。
そして、鈴木がうなだれて泣き始めて同じく非難の視線に晒されたことでようやく事の重大性に気づいて慌てだす鈴木の交換恋人のラガーマン。
鈴木がここまで堕ちれば原因を作ったこいつも0点確定。つまり道連れだ。ラガーマンの後ろの方では今頃になって慌てるラガーマンの様子にため息をつくマネージャーっぽいジャージ姿の女子がいる。おそらくラガーマンの本恋人だろう。
硬派気取りで本恋人の信頼を重視して交換恋人の信頼を獲得しないヤツは結果的に本恋人からも呆れられて見捨てられるというわけだ。
俺も昨日カンダムカフェであのままふうちゃんを泣かせたまま仲直りせずに信頼関係を崩壊させていたなら同じようなことになっていた可能性もあるだけに全然他人事には見えない。
マ、マジかよ…。
なんだよこのカオス空間は…。
り、リア充がホントにリアルに爆発してやがる。
いつも楽しそうにウェーイやってたやつらが、そのせいで墓穴を掘って自爆している。
しかも周りを見渡すと、たまたまクラスメイトだから堀北たちが目についたものの、似たようなやり取りをして爆発しているペアがそこら中にいる。
そしてつい昨日までスクールカースト上位層にいた2人が一気にカースト最底辺まで大暴落。
ま、まじかよ…。大貧民の革命みたいな状態が発生しているじゃないか。
交換恋人が本格的に始まったこの学校では、そこらで本恋人同士、貯まった不満をぶつけ合って爆発し合うという、もはや地雷原と化していた。
そして、学校の中では皆が、恋愛に対する価値観も大幅な変更を余儀なくされることになった。
これからは交換恋人からの信頼を得つつも、本恋人からも信頼を維持しないといけない…。
この制度は想像以上にハードなモードであること、そして、その最適解の一つが小梢のいう選択なのではないかと、俺も少しずつ理解していくことになった。
思い出すのは昔プレーしたコンマイの不朽の名作、どきどきメモリアル。
本命じゃない女の子に対してもきちんと定期的にデートに誘って機嫌をとらないと爆弾が爆発するというアレ…。
当時はこんなんあり得んだろ!と笑いながら突っ込んでプレーしていたけれど、今、そんな伝説のゲームの爆弾爆発をリアルに見た気がした。
100万PV突破しました!
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