第24話 小梢の野望
前々話のラストからストーリー改変してます。
それから俺とふうちゃんはアキバでのデートを目いっぱい楽しんで、夜ご飯を食べた後、寮へと帰って別れた。
現在時刻は門限の1時間前である21時くらいだ。
ふうちゃんとの時間は本当にあっという間で楽しかった。何もかもが自然に俺と波長が合うというのは初めての経験だった。
けれども、俺は意図的に少し早めに切り上げて寮に帰ってきた。おそらくふうちゃんは気付いていないだろうけれども、俺には門限前に帰ってくる用事がどうしてもあった。
・・・・・・・・・
俺が寮の自室に帰ると、案の定、勝手に人の部屋に上がり込んでアニメの録画を見ながらダラダラしているヤツがいた。
学校指定のジャージ姿でベッドでゴロゴロしていて、そのまま俺の部屋で寝るつもりじゃないだろうなというくらい、完全に自室化していらっしゃる。
「あ、せんぱい、おかえりなさい♪」
「ただいま。小梢、やっぱりいたんだな」
「はい!滝川先輩はもうヘトヘトって感じで20時ちょうどで解散になっちゃいました!というわけで、私も22時まではここでゴロゴロしながらアニメ見させてもらおうというわけです♪」
「まったく、滝川をもっと大事にしろよ。
それにしても20時までという制限にそんな抜け道があると知ってるのはお前くらいだろうな。しかも勝手に男子の部屋に上がり込むとか常軌を逸した発想だ。それを予想してる俺も俺だけどな。
先週のお試し交換も役に立ったもんだ」
「ですね!」
「それにしても俺が22時ギリギリまで戻らない可能性もあるだろうに、よくここにいたな」
「まぁこの部屋ならいくらでも時間潰せますし、せんぱいは今日は絶対早めに切り上げてくるって思ってましたから。
私に聞きたいこと、あるんでしょう?」
「…何もかもお前の予想通りというのは少し気に食わないけれど、確かにお前と話がしたかったのは事実だ」
「ふふふ。予想通りですね。で、何を聞きたいんです?」
「小梢、お前は一体何を考えてる?お前、前々から何か知らんけど目標とか言って俺と付き合い始めたし、今日もそんなことを言ってたけれど、お前の目標ってなんなんだ?
いや、その前に、今日のお前は意図的に俺と法条をくっつけようとしてたよな。まずはそこが気になってるんだ。いったいどういうつもりだ?
なんでお前は俺と法条をくっつけようとした?」
「いやいや、そんなことないですよ?」
「いや、ごまかしても無駄だよ。
俺、今日を思い返して気づいたんだ。
俺、今日、法条との関係が物凄く進展したんだけれど、それって、お前があのタイミングで現れなければそうなってなかったって。
そこでさらに考えてみたらさ、お前のカンダムカフェでのやり取りとか、法条に対する発言とか、後から考えるとかなり意図的なものを感じた。まるであえて法条を追い詰めて、追いかける俺と法条をくっつけさせて、ダブルデートからシングルデートに追い込むように仕向けたかのようにな。
お前の演技力が凄すぎてその時は全然気づかなかったけれど、あの場面、よくよく考えれば不自然なことだらけだ」
「うーん、そうでしょうか?」
「ああ。
まず不自然な点その1。
お前は本来なら法条とは初対面だったはずだ。そのことは、お前がうちの学校に入学してからずっとお前と昼も夜も部活でほとんど一緒に過ごしていた俺が、法条と今日実質初対面だったことから明らかだ。なのにお前は法条を知っていた。そう、お前は以前から法条のことを知っていたんだ」
「せんぱい、そりゃ知ってますよ。
法条先輩は有名人ですよ?むしろ知らなかったのはせんぱいくらいだと思いますけど…」
「いや、俺が言っているのは、そっちの法条、アイドル法条のことじゃない。
本当の法条の方だ。
俺はお前が来た時点ではあの法条が俺の幼馴染のふうちゃんだとは気づいてなかった。だが、お前のセリフとそれによって誘発された法条の俺と初対面だとしたら不自然な行動によって法条がふうちゃんであると確信させられた。
思い返すとあの時のお前のセリフは、明らかに法条が俺の古くからの知り合いであること、そして法条が俺のことを好きだということすら知っていなきゃ出てこないセリフだった。普通に本恋人と楽しんでるだけの姿を見て私を無視してるだのってセリフはただの初対面の相手には絶対言わないセリフだったからな。
更に言えば、お前のあの腹黒だのといった煽り文句にもかなり違和感がある。今のお前の発言のとおり、お前がアイドル法条の方を知っていたなら、あのときの無邪気な様子の法条はむしろ普段通りに見えるはずなんだ。
それをそう評価しなかったお前は素の方の法条を知っていたということに他ならない。
そんなお前が俺と法条が二人っきりになるように事実上促していた。そこまで来れば、そこまでわかっていたのにそうしたのなら、もうそれは意図的そうしたと考えないとおかしい。
違うか?」
「・・・・・・・。」
俺が今日の小梢の態度で不自然な点をかたっぱしから指摘すると、小梢は否定せずにしばらく黙った後、仕方ないなぁといった顔で話し始めた。
「はい…。
当たってますよ。
というか、せんぱいが鈍すぎるというべきだと思います。
だって、法条先輩、いっつも私たちのこと見てましたもん。
そりゃ私だって、あんな態度を見ちゃったら、せんぱいと法条先輩の間に何かあるんじゃないか、元々知り合いとかなんじゃないかって気付きますよ。それにあれだけ真剣に見つめられたら、法条先輩がせんぱいのこと好きだってこともわかってました。
法条先輩はホントに演技のヘタな人ですからね。わかりやすいです。だからこそ私がああ言えば反応するだろうなって思ってましたよ」
「…なるほどな。やっぱりそういうことか。
けど、なんでお前はそこまでわかってたのに、あえて法条を傷つけるような挑発をした上で俺に法条が幼馴染のふうちゃんだと確信させた上で、俺と法条がくっつくようにあえて仕向けたんだ?」
「はい、それには海よりも深い理由があるんです!
私の目標といいますか、野望と言いますか、とにかく深い理由があるのです!」
「だからその理由やら野望とやらを聞いているんじゃないか…」
「うっ…それ、言わなきゃダメですか?」
「言ってくれなきゃダメだ。俺はお前は俺のこと好きだと思っていたのに、そういうことをされると不安になるじゃないか。
てゆうかお前はだからこそ、それを俺に話すためにわざわざ俺の部屋で待ってたんだろ?」
俺の指摘に対して小梢は「はぁ…」と、ため息をつく。よほど言いたくないらしい。だが、聞かないわけにもいかない。俺が小梢の返事を待っていると、小梢は再び口を開いた。
「まーそうなんですけどね…。
けど実際話すとなると勇気がいるといいますか…。
うーん。どうしようかな…。
せんぱい、一つだけ約束してくれますか?」
「ん、なんだ?」
「私が正直に全部話しても嫌いにならないで欲しいんです…」
小梢は目を伏せてそんなことを言った。どうやら言いたくない理由はそういうことだったらしい。まったく、なにを不安になってんだか…。
「なんだよ、そんなことかよ。
そんなことなら一切心配しなくて良いよ。
俺は何があってもお前のことを好きでいる。お前を嫌いになることなんてあり得ないよ。
そもそも俺はお前の超わがままなところも知ってるし、めんどくさいところもたくさん知ってるけれど、それでも好きなんだ。
だから安心してくれ」
小梢は俺の答えにパァっと明るくなって、いつもの小悪魔モードになってきゃるるーんと近づいてきた。
「せんぱい…♥
もう、せんぱいってばホントに私にベタ惚れですね♪困った人です!ねっ!」
小梢は俺の返事に嬉しそうにして俺にピトっとくっついてくる。困った奴はどっちだよ。
ホントに可愛いな。俺はお前のその上目遣いに超弱いんだからやめてくれ。
それに俺が小梢を裏切ることはない。問題は小梢の方。小梢が何をしたいか、だ。小梢がしたいことなら応援してやりたいとは思っているんだけどな…。
小梢はそのまま俺の膝の上にこてんと転がってズボンの裾をきゅっと掴んで話し始める。
「せんぱい、そこまで言ってくれるなら信じて話しますね」
小梢は大きく深呼吸してからついに理由を告白し始める。
「せんぱい、私、本当はせんぱいとハーレムを作りたいんです」
「ハ、ハーレム?」
「はい。ハーレムです。
前にも言いましたよね?せんぱいがその気ならハーレムを作っていいですよって。むしろハーレム作るつもりで臨んでくださいって」
「そうだったな。けど、あれは方便というか俺を奮い立たせるための発言じゃなかったのか?」
「いえ、あれこそが私の本当の目標、野望なんです。
せんぱい、私…実はちょっといけない性癖があるんです。
私、あんなにもいつもせんぱいのこと一生懸命見つめてた法条先輩を見てたらどうしても可愛くって可愛くって仕方なくなっちゃって…。
私、せんぱいのことも好きですけど、せんぱいのことが好きな法条先輩が好きになっちゃったんです!」
小梢は耳を真っ赤にしながらトロンとした目でとんでもないことを言い出した。
「な、なにーっ!?」
「私、あんな美少女を抱きしめてハグ出来たらすっごい幸せだなとか、それにせんぱいもセットなら最高だなとかこれまでイケナイ妄想をしちゃってたんです…。
特にあの髪・・・あんな綺麗な金髪ツインテールなんていないですよ!
人類の宝です!あんなの国宝モノですよ!
あぁん、「僕いも」のきりんちゃんみたいでホントにかわいいよぉ・・・ぐへへぇ・・・いっぱい愛でてクンクンしたいよぉ・・・」
重たい口を開いた小梢はとんでもない妄想をぶちまけて人に膝枕しながら、ついでによだれをダラダラ流していた。
お、おい。コイツ、マジかよ。
「…とか思っちゃってたんですっ!!私、可愛い女の子に囲まれるハーレムをずっと夢見ちゃってる女の子なんですっ!!
どうですか?引きますか?嫌いになりますかっ!?」
「・・・・・・。」
俺は小梢の頭をそっと持ち上げて俺の膝からクッションの上に乗せかえた。
「ってせんぱーい!!なんで離れるんですか!!
せっかく勇気出して告白したのに酷いですよぉ。
嫌いにならないでぇ!だから言いたくなかったのにぃ…」
俺はズボンについたよだれを拭くために立ち上がってティッシュを取りにいきつつ答える。
「い、いや、あまりにも斜め上な告白だったからな・・・。
嫌いになったわけじゃないよ?ただちょっと引いただけ・・・」
「うえええええん!引くなんて酷いですよぉ!せんぱいだって美少女に囲まれたいって言ってたのにぃ!同じなのにぃ!」
おい、俺をお前と一緒にするな。
俺はただ「天使4P」の主人公になって美幼女を愛でつつ囲まれたいというあくまで二次元世界での理想を有しているだけでお前のようにリアルな世界でそんなことをやろうと思っているわけではない。
俺がティッシュを取って元の位置に戻ると、小梢はすかさずまたもや膝枕を仕掛けてきた。
俺の膝の上でコテンと転がって、構え構え!と構ってオーラを出してくる。小梢は口では悲しんだ振りをしながらも、俺がポーズとして引いただけで実はそれほどショックを受けていないことに安心したらしく、「にゃーん♪」とか言いながら甘えてきた。
俺はちょっと大きな子猫のよだれで汚れた口元をティッシュでくしゅくしゅと拭いて頭を撫でながら話を続けた。
「けど、お前、法条には俺を渡さないとか、負けないとか言ってなかったか?あれはどういうことなんだ?」
「あれも本心ですよ!私が一番せんぱいから愛されたいって思ってます!
けど、私は別にせんぱいが他の女の子を、私が好きな女の子を愛してくれても私は構わないんです。
だっていつでもずっと勝負しましょって感じの方が燃えるじゃないですか!ずっとただただ相思相愛の関係だとヌルすぎていつかときめきもガス欠になっちゃいます。
それにせんぱいの一番を取りたくて張り合ってくる女の子なんて最高じゃないですか!
もう、今日の泣きながら出て行っちゃう法条先輩はホントにきゅんって来ちゃいました!私の中のベストヒロインでした!!
法条先輩、ホントに可愛いですよねっ!あんなのズルいです!私まで落とされちゃいましたよ!可愛いよぉ…えへへ」
小梢、せっかくよだれを拭いてやったのにまたよだれ垂れ流すのはやめてくれ。
こいつがここまで剛の者だったとは…俺も侮っていたな。
「な、なるほど…。俺は正直、お前のとんでもない性癖に若干引いているが、まぁ確かにお前は元々女の子のなのに趣味嗜好が男よりというか、女の子向けのアニメは全然見ないのに、俺と同じ萌え系アニメみて悶絶するような奴だったからな…。ある意味一貫しているというか、違和感はないか…」
「そうです!せんぱいだって同じなんですから、2人で理想のハーレム作り、目指しましょうよ♪」
「はぁ…お前は困った奴だな。
けど、悪いが俺はお前の野望に対して今は「はい」とはいえない。
そもそも俺はお前一人で十分幸せだしな。
それに正直、今の俺は迷ってるんだ。実は今日、法条から好きだって告白してもらったから、その気になればハーレムとかそういうのも作れなくはないのかもしれない。
けど、今の俺はお前が一番だからな…。
もちろん、法条のことも気にならないといえば嘘になる。むしろこれから1週間法条と恋人生活を送れば法条への気持ちが変わる可能性もないわけではないと思う。そう言う意味でも今は全然結論が出そうにないんだ・・・」
「はい!
それは全然構わないです!
むしろまずはせんぱいは今週は本気で法条先輩とお付き合いしてその上で一生懸命考えてもらえれば良いと思います。
ですけど、せんぱい、二つだけアドバイスしておこうかなと思うんですけど、一つは少子化対策と謳っている今回のこの制度の目的、行きつく先がどこにあるのかという点はきちんと考えておいた方が良いと思います。んで、もう一つは法条先輩や私を守るためにはどうしなきゃいけないのかということも頭の片隅に入れておいてください。まぁ2つ目の方は明日からの学校で、じきに気が付くと思いますけどね!」
「ん…?
どういうことだ?」
「今はわからなくて良いんです。すぐにわかりますから♪」
「そ、そうか…」
「だからお楽しみです!」
小梢はそんな意味深なことを言って黙る。
一通りしゃべってすっきりしたのか、まるで猫のように両手を軽く握ると俺の膝で猫の爪とぎのようにシャカシャカ引っ掻く動作をして甘え始めた。
ホントに自由な奴だな。
俺は小梢のほっぺをぷにぷにしながら小梢に好き勝手やらせることにした。
やっぱり小梢は可愛いな。けど、こんなに可愛くてバカップルっぽいことやってるのに頭の中では色々と考えてるんだな。
・・・・・・・・・・・・・
俺達が声も出さずに静かにいちゃついていると、いつの間にか22時になったらしく、ドアがバンと音を立てて開けられる。
「神崎、お前は私を自分の部屋まで運んでくれる便利なタクシーとでも思っているんじゃないだろうな?」
「お、思ってませんよ…?
じゃ、先生!今日も部屋までよろしくお願いします♪
美人教師ハァハァ…」
小梢は楽しそうにドナドナ歌いながら寮監に連行されていった。
俺はなんとなくだが、息を荒くしながら峯岸先生に抱っこされるアイツを見て、アイツが22時まで俺の部屋にいた理由はただ俺といちゃつきたいからじゃなく、もっと別の理由からなんじゃないかと疑い始めていた。




