第2話 小梢との交際のはじまり
「お、お前正気かよ!よりによってそんな手!」
「ところがそうでもないですよ?てか、せんぱい、全然クラスの様子とか見てないんですね。あの制度がはじまってからどんどんカップルできてるのに。とりあえず妥協できるところで付き合ってみて、交換使ってもっといい相手ゲットしたいーとか、偽でもいいから本命のためにとりあえずカップルになろうと協定結んだりとか最近そんなんばっかりですよ。知らなかったんですか?」
「全然知らなかったわ…。マジかよ。みんな制度に踊らされすぎだろ。やべーなこの制度。今までリア充とは程遠い層までリア充になろうとしてんのか…。
けど、これって偽っていっても付き合って最初の1週間は毎日8時までずっと一緒にいなきゃいけないんだろ?それって結構苦痛だと思うし、評価ポイントもらえなきゃ罰ゲーム喰らうしでリスク高いと思うけど」
「そうなんです。でも、せんぱいってよーく考えたらそうじゃなくても毎日私と夜まで一緒にゲームやアニメ見てますよね。私たち、今と何も生活変えなくても実は基準クリアしちゃうんですよ?
評価だって普通のカップルはお互い10点入れようって談合してますし私たちも同じことができます。そう考えたら実は私たちって全然リスクないんですよ。ポイント貯まれば好きな相手とトレードできたり、色々施設利用がタダになるじゃないですか!ゲーセン行き放題、僕いものライブだってタダでいけちゃう!」
「いや、ライブチケットは抽選だろ」
「それはともかく、私たちは全然リスクないし、ポイントも貯めたい放題!
んで、せんぱいだって運よく百々奈先輩を引き当てれば百々奈先輩と恋人体験できちゃうかもしれないんですよ?
せんぱいが今日調子悪かったのだって百々奈先輩が他の誰かととっかえひっかえ付き合っちゃうのが嫌だったからでしょ?」
「うっ…小梢、お前ホントに人の痛いところばっか突いてくるな…。
けど、一理あるのも事実だ。ゲーセン行き放題と後輩のためにも一肌脱いでやるか。システムが嫌になったら別れりゃいいだけだしな。ひとり身になればバカなシステムから解放されるわけだし」
「そゆことです!というわけでとっととシステム登録しちゃいましょ!」
「しゃーねーな。てか俺、関係ないと思ってたから全然使い方聞いてなかった。小梢、頼んだ」
「うわ。マジで使えないせんぱいだー。
しょうがないなー。じゃあはい!スマホ同士リンクさせました。この状態で画面に表示されてる指示に従ってください」
「なになに…「愛の告白をしてね」ってなんだよこれ」
「そりゃー付き合うんですからまずは告白ですよ。システムがきちんと聞いてるところで告白しないと恋人とは認定されません。棒読みだとたぶん弾かれちゃいますからちゃんとそれっぽく感情込めて告白してくださいね♡」
「クソッ…何がリスクなしだよ。まあいい、ただの演技だ。やってやる。
「相手のことを見つめながら言ってね」ってなんだよこのクソシステム!俺のこと監視でもしてんのかよ!ああ、やってやる!
こ、小梢!好きだ!付き合ってくれ!」
俺は小梢を見つめて若干照れながらも好きだと言った。自分でも何の違和感もなく素直にその言葉が出てきたことに少し驚いた。もしかしたら役者の才能があるのかもしれないな。
「んふふ。シンプルでいいですね。ちょっとだけですけどときめいちゃいました♥
ほんのちょっとだけですけどね!
いいですよ!付き合いましょ!
あれ?まだ登録されてない…」
「小梢、甘かったな。これを見ろ」
「えっ、何々「彼女さんの方からも告白してね」ってばかーーー!
このシステム何言ってんの?わ、私から告白って…」
「恋人になるんだからお互い気持ちが通じ合ってないとなー。というわけで見つめながらよろしく。
俺のこと散々バカにしてくれたバチが当たったんだ。ざまーみろ!あははは!」
「もう、仕方ないですね。別にいいですよ。ただの演技ですしね。
……。
せ、せんぱい、ずっと前から好きでした。大好きです。付き合って下さいっ!」
うっ…。なんだこれ…。演技だよな?
行動が心を動かすというけれど、俺はさっきこいつに演技とはいえ真剣に告白したときから物凄くドキドキさせられていた。まるで本当に言葉通りこいつのことを好きになったみたいに。
そんな感じでタダでさえドキドキしてるところでこいつが顔を真っ赤にしながら恥ずかしそうに小さな声で告白をし返してきた。同じことをされただけだというのに今、俺はとんでもなく心を動かされている…。全部演技なはずなのに…。俺は自然と今の気持ちを声に出していた。
「俺も好きだよ。付き合おっか」
「えへへ。はいっ!」
「――恋人登録されました――」
「おっ、どうやら恋人登録されたらしいぞ」
「はい。やりましたね。これで正式に恋人になりましたけど、えっちなことはダメですからね!システムで不純異性交遊はきっちり監視されてますからね!」
「誰がするか!こ、これは演技なんだから!」
「さっ、せんぱい、今日もこれから8時まで一緒にいなきゃいけないですし、一緒にツルヤに行ってSOA全巻BD借りてから帰りましょ!」
「おいおい、それ8時じゃ終わらないからな?完徹する気かよ」
「ふふ。今日は帰りたくない気分なんですっ!」
「付き合って初日から凄いこと言われてるのに全然えろく感じないのはなんでなんだろうな」
「せーんぱい!」
「なんだよ」
「えへへ。呼んでみただけー」
こいつはホントに自由だな。
結局小梢は10時まで俺の部屋で遊んでいて寮監に自室に連れ戻されていた。俺達の生活は何も変わらないとか言っていたくせに俺たちが一緒にいる時間は初日からして2時間強いつもより延長されていた。