第14話 金髪ツインテールな学園のアイドル
次の日、8時ちょっと前に寮の中庭に着くと、結構人がいるせいで目当ての人物が見つからない。
「まずいな。結構人がいるな。
どうする?怒られるの覚悟で片っ端から「お前が法条か?」とか声かけるか?」
そう考えてみたものの、改めて中庭を見渡たすと、意外と女子は少ない。てか1人しかいない。
けれども意中の人物はあの子ではなさそうだ。まずそもそもあの子は待ち合わせしてるという感じじゃなく、ベンチに座って沢山の男友達に囲まれながら話し込んでいる。
その上、あの子は金髪ツインテールの可愛い系の美少女だ。可愛い系というよりロリっ子の分類に入るかもしれないほどに童顔だ。
めちゃくちゃ可愛い奴だが、法条はあの金髪っ子じゃないだろう。
というのも俺が昨日、法条と話した感じとかLIMEの内容とかを見ると法条はどちらかというと黒髪の世話焼きでまじめで美人な委員長タイプという印象だった。
あの金髪っ子はそのイメージと全く一致しない。
しっかし、あの金髪っ子・・・俺が昨日頭の中で想像したまんまとは。アニメでしかみたことない程に完璧な金髪ツインテールだ。よくもそんな奴が現実にいたもんだな。しかも周りは男友達というか、まるでファンかなにかのようだ。そんな連中に囲まれていながら、「みんなー♪おはよー☆」とか言って笑顔を振りまいてる。お前はアイドルかよ!と、心の中でツッコミ入れてしまう。
あんなのがこの学校にいたのか。ああいう3次元アイドルは俺とは無縁の人種だと思い込んでいたからこれまでも視界には入っていたものの全く注目してなかったせいでこれまであんなに目立っているのに俺は全く気付かなかったらしい。
それにしても、もう8時になるというのに法条はどこだろうか?
しかもあの金髪っ子らの集団が「みんな集まったねー♪点呼するよー!1、2・・・」とかやり始めていて騒がしい。
あの金髪っ子はしゃべり方からしても昨日の電話の法条とは全く違うと思った俺は金髪っ子をスルーしつつ法条を探し回る。
おそらくこのときの俺は法条が見つからないという焦りもあって、こんな単純なことにも気づいていなかったらしい。
それは、①法条は学園のアイドルと呼ばれていること。
②ここには金髪っ子のファンらしき男が60人くらい集まっていてあの子はまさにアイドル状態だということ。
③昨日法条は電話で1対1とか少人数に用いる「待ち合わせ」ではなく、大人数に用いる「集合」という言葉を使っていたこと。
④ここには見渡す限り女子は金髪っ子1人しかいないこと。
そして、⑤俺の法条のイメージである黒髪委員長キャラはどう考えても地味で、60人から告白されちゃうような学園のアイドルとはイメージがかけ離れていること。
全てを総合すれば、あの金髪っ子=法条というそれ以外の答えはないというのに俺は60秒経過するまでその事実に気が付かなかった。
法条が見つからないままやがて点呼が終わり、「59、60!みんないるねー♪」と数え終わったところで俺はハッと気がつく。
60・・・。あまりにもインパクトのある数字だ。あのファンの連中、60人もいるのかよ。そういえば告白フェスタで法条にエントリーしたのもちょうど60だったはず。
って、おいおいマジかよ…。そういうことなのか?
俺はそんなまさかと冷や汗を掻きながら改めて金髪っ子の方を見てみると、彼女はこちらを睨んでいた。
「ちょっと、アナタ、新入りなのにさっきからずいぶん落ち着きないわね!この私、法条かえでの61人目のファンクラブ会員としてもうちょっとそれらしい紳士な振る舞いをしてよねっ☆」
金髪っ子はウィンクしながら俺を手招きした。
「やっぱりそうなのかよ!!」
俺は金髪っ子の発言に色々な意味で驚かされすぎて完全にフリーズ状態になった。
マジか。こいつが法条…?だが、自分で法条かえでと名乗った以上はそういうことなんだろう。
改めて上から下まで見てみると、綺麗な金髪ツインテールに目はぱっちり二重で童顔。
身長は小梢と同じ155cm強くらいで、胸は小梢よりもほんの少しだけ膨らんでるように見えるからCくらいか(勝手に小梢をA~Bと査定)。短めのスカートから見える足は、黒のニーソ越しとはいえ、細くて綺麗でスタイルはもの凄く良い。
確かに可愛い。いや、すげー可愛い。
こんなに可愛い奴をテレビの中以外では見たことがないというくらいに可愛い。
こいつが学園のアイドルというのは激しく納得だ。学校内にファンが60人もいるのにも納得だ。
なんとなくだが、既視感がある顔だな。しかし、リアルな俺に金髪ツインテっ子な知り合いはいない。
おそらく二次元の誰かだ。誰だろうか…。童顔な分、「冴彼」のエミリーというよりは「ボクいも」のきりんちゃんに似ている気がする。俺は思ったことをそのままつぶやいた。
「エミリーというよりはきりんが近いか…?」
「私は、エミリでもきりんちゃんでもないわよ!」
「えっ?」
「えっ!?あ、いや!とにかく、アナタは61人目のメンバーなんだからみんなに挨拶してよね♪」
急に焦りだす法条に俺は猛烈に引っかかった。
おい、こいつ、今、間違いなくエミリときりんに反応しおったぞ。きりんが動物ではなく女の子の名前であると認識している辺り激しく臭う。ヲタク臭が。
俺の中のヲタクセンサーがこいつは仲間ではないかと疑っている。
まさか、こいつ、こんな2次元なんかまったく興味ありませんといった感じのリア充女子が3次元の学園アイドルやりながら隠れヲタクとか、そんなパターンあるのか?
そこも含めてまんまきりんちゃんのプロフィール通りな感じなのか?「ボクいも」のきりんちゃんも学校じゃスクールアイドルやってる完璧美少女なのに実は隠れヲタクで、学校の友人にはひたすらそれを隠しているという設定だった。
どうにも怪しいぞ。
しかし、今はそれは後回しだ。
それよりも問題なのはこの状況だろう。今日は2人っきりのデートだと思ったらなんでこんなことになっているんだ?62人でデートとか絶対無理だ。喫茶店、カラオケ、映画館、デートで定番な場所はどれもこの大人数で入るのは至難の技。
というかぶっちゃけ超迷惑。
この大人数で1日過ごすとか正気か?
そもそもなんでここに60人もいる?色々謎が多すぎるぞ。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。俺は兼平秋人で、この一週間、法条の交換彼氏になったわけなんだが、ファンクラブに入るとは聞いてないぞ?あと今日からよろしく。
というか、なぜ60人いる?60人ってことは告白フェスタで選ばれた法条の元カレもこの場にいるってことだよな?」
「まぁ、落ち着け、兼平。お前もじきに慣れるさ。ようこそ法条かえでファンクラブ、もといかえで様親衛隊へ」
大勢の男に取り囲まれて若干パニックを起こしそうになって、挨拶と質問が混合してしまっている俺に対して、集団の間を割って謎の優男が声を掛けてきた。「かえで命」とプリントされたTシャツを着ている。
明らかにヤベ―奴だ。まあ、俺も勝負服として「ゆかりん命」のTシャツを持ってるだけに完全に同族嫌悪なのだが。
「お、お前は?タダ者ではないとみえるが…。」
「フッ、わかるか。やるな兼平。俺はかえで様親衛隊隊長の小坂だ。
俺達はかえで様をお守りするために結集した一心同体ともいえる集団だ。
告白フェスタも余計な誰かがかえで様を横取りや独占するといったことがないよう、親衛隊全員が参加したというわけだ。
結果、最も忠誠心が高く、皆平等にかえで様を讃えようという強い意思を持った俺が名目上はかえで様の本恋人ということになっている。
というわけで、よろしくな兼平。お前も俺のまばゆいオーラが見えるなら同士としての資格は十分あるようだ。歓迎するよ★」
俺が若干皮肉を込めてタダ者ではないと言ったのに対して小坂はご満悦といったドヤ顔をしながら聞いてもいないのに解説をはじめた。おいおい、勝手にお前たちの仲間扱いするなよ。お前のオーラとか一切見えてないんだが。
い、いや、そのTシャツからは確かに色々ヤバいオーラは出ているけれども。俺が仮に小梢命と書かれたTシャツを小梢とのデートに着ていったら間違いなく蹴り入れられるレベルのキッツいオーラがな。
それにしても男のウィンクとか若干吐き気がしてくる。こいつはマジでやべー奴だ。
だが、こいつのおかげで俺も少しだけ状況が理解できてきたぞ。