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恋人交換制度!?学校のアイドルたちが俺に彼女交換を申し込んでくる件  作者: ponshiro
第1章 私と恋人になりませんか?【導入】
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第10話 小梢に一歩近づいて二歩下がると三歩詰め寄られる感じのお話し

「あっ、せ~んぱ~い。

 おかえりなさ~い。ずいぶんとごゆっくりと浮気を楽しんでたみたいですねぇ~」


 部屋に帰ると小梢がセリフだけはテンション高そうなようにみえて全然棒読みな低い感じの声で出迎えてきた。



「浮気じゃねーし。

 つか、小梢、なんでお前俺のベッドで寝転がってんだよ。自分の部屋に帰ったんじゃないのかよ」


 小梢は俺のベッドで俺の抱き枕(ぼくいもの綾香がプリントされたもの)を抱きかかえながら今期のアニメの録画を見ていた。帰って来ても俺に一瞥するだけですぐにアニメの続きを見始めているから全くこちらを気にしていないことは丸わかりだ。



「それはもうせんぱいが別の女を部屋に連れ込まないかと心配してたっていうのと、せんぱいの帰りを良い子にして待ってたんです!可愛いでしょ?」



「・・・・・・・。」



 小梢は口ではわざとらしいことをいうけれど、ホントに良い子にして待ってるんだったらそもそも人のベッドで寝ころんでアニメ見て好き勝手やってはいないだろうし、それを自分で可愛いでしょとか言わないだろう。

 どう考えても言葉と態度が真逆。


 とはいえ、可愛いでしょ?という問いに対してはYesと言わざるを得ない。

 制服姿の女の子が自分のベッドでゴロゴロやってるだけで普通に可愛いし、コイツの場合、可愛い自分がそれをやればもっと可愛いということを知り尽くした上でやっている。適当に振る舞ってるだけでも結構可愛く見えてしまうから厄介だ。



 俺は呆れはしたが、楽しそうにアニメ見ている小梢にそんなお決まりなツッコミを入れても意味はないし、下手に何かしゃべりかけようものなら「今良いところだから静かにして」とか逆にキレられることはよくわかっているから、ため息をつくだけでそれ以上何もツッコミはしなかった。



 何が別の女を連れ込まないか心配だった、だ。このガチヲタク部屋にリア充グループの女子連れてくるとかあまりにハードルが高過ぎる。水着姿の綾香の抱き枕を見て引くどころか気持ちよさそうに抱きしめていられるのはこの学園中探しても小梢以外にいないだろう。もうどこから突っ込んでいいのやら。



 まぁコイツに関しては俺の制御の及ぶところではない。それはあの大村が振り回されまくってるのを第三者視点で見てよくわかった。

 大村との関係一つとってみても、この学園広しといえど、大村をあそこまで振り回せるのはどんなに探してもコイツだけだ。

 大村は来週こいつが誰かと付き合うことを心配していたようだけれど、さっき大村にも言ったが俺はまるで心配していない。というか俺はこいつに振り回されることになる犠牲者たちがホントに哀れで仕方ない。


 とりあえず俺は小梢を放置して冷蔵庫からお茶を出して小梢の分と俺の分をそれぞれ注いだ。


 このQMAクイズマジックアカデミアのキャラであるアニゲー教師のメロン先生がデザインされたマグカップは小梢の私物だというのに、普通にずっと前から俺の部屋に置いてある。ちなみに俺はお揃いのシリーズの黒髪クール美少女のマラリアちゃんマグカップを使っている。どっちも俺が習慣で毎日きちんと洗って保管している。俺は俺でコイツと付き合う前から調教済みだったらしい。


 

 そう、コイツにとって俺の部屋はもはや便利な家族がいる第二の自分の部屋くらいの感覚なんだろう。



 女子寮は寮の敷地の最奥にある。男子寮との間にはグラウンドや食堂なんかがあって、学校から帰って一番近いのが男子寮だ。


 しかもセキュリティ面も寮のゲートは生徒しか入れないように厳重なチェックがされているけれど、一度敷地の中に入ってしまえば男子寮はいくらでも出入り自由(もちろん女子寮は女子だけしか入れない)。


 ついでに言えば、個別の部屋の鍵についても4桁の暗証番号を押すタイプで、コイツや俺の部活の仲間は皆俺の部屋の暗証番号を知っているから入り放題だ。



 そういうわけで、とりあえず自分の部屋に帰るのがダルいっていう理由だけでコイツは俺の部屋に立ち寄っているだけで、そこに深い意図なんか何もない。



 ここで嫉妬深い「ぼくいも」の綾香だったら、俺の部屋に自分の匂いを擦りつけて他の女が立ち入らないようにマーキングするとかするのかもしれないが、コイツはそういうガラじゃない。



 俺はコップにお茶を注ぎ終わると、ベッドの縁に寄りかかるようにして座って黙って一緒にアニメを見ることにした。

 すると小梢は俺の上からぬっと手を伸ばしてくる。


 はいはい、飲み物ね。俺はマグを掴んで小梢の伸ばした手に手渡しする。


 小梢はお茶をクイっと飲むと、俺の肩にマグを置いてくる。俺は落ちないようにマグを受け取って机の上に戻した。



 このやり取りもいつものこと。本当にただの便利屋だ。

 けれど、俺は別にこういうのが嫌なわけじゃない。実家には妹がいるし、妹もいつもこんな感じで俺をこき使う。

 俺もお兄ちゃんだからそんな妹を喜んで目いっぱい甘やかしてきた。こういうお兄ちゃん業は昔から慣れっこだったりするわけだ。



 と、ちょうどそのとき、見ていたアニメはCMに入った。いつもの小梢なら早送りボタンでCMをカットするのだけど、今日は再生停止を押した。



「どうした?もういいのか?」



「はい。今日はもうやめときます」



「そうか…」







「…………。」




「…………。」






 なんだなんだ?なんかシーンとなってしまった。


 

 

 こういうパターンは今までなかったな。そう思っていると小梢がごそごそと動き出して俺の背中に枕を押し付けて枕越しに背中から抱き着いて耳元で声をかけてきた。



「せんぱい、何も聞いてこないんですね」



「ああ、そだな」



「じゃあ、私も何も聞ーかない♪」



 小梢はくすりと笑っている。顔、めっちゃ近っ!!つか、枕越しとはいえ、後ろから抱き締められて顔がくっつくくらいに近い距離で話をするとか、いちゃらぶカップルかよ。


 横を向くとちっちゃくてめちゃくちゃ可愛い小梢の横顔がある。

 ちょっと顔を突き出したら頬にキスできそうな距離だ。



 俺はそんな隙だらけの小梢に向かってほんの少しだけ顔を傾けた。





 こちん。




「あ、いったー」




 俺はそんな小梢のハニートラップにまんまとハマってキスするようなことはなく、軽く頭で頭を小突いた。


 当然だけれど痛いようにはしてない。ホントに軽く突いて追い返しただけだったんだが、小梢は枕を抱えたまま後ろにポテっと倒れてコロンと横に転がった……らしい。



 らしい、というのは、小梢はくっそ短いスカートでそんなことをやっているのだから今振り向いたら確実にヤバいものが見えると思って小梢の方を見ていないからだ。



 俺が全然振り向かないもんだから小梢は「くーん」とか言って注意を向けさせるような手に出てくる。



 そして俺がそんな小梢のフェイントにビクッと反応して振り向きそうになって耐えている様子を小梢はくすくす笑いながら見ている。この悪魔め。



 ホントにコイツは油断も隙もありはしない。



 そんなコイツと一緒に居られるのも、この一週間でひとまず終わりなのか。



 付き合う前からいつも小梢がいるのが当たり前だったせいで、あまり実感は湧かないし、イメージもし難い。



 小梢の方はどうなんだろうか?



 さっきから俺らは変に無言が続いているし、俺は小梢に対して何も聞かないと宣言はしたけれど、本当は小梢に聞きたいことは色々あった。むしろ山ほどあった。




 今日初めて知った大村と小梢が幼なじみという事実。あまり仲良さそうには見えなかったけど、二人はこれまで何かあったのか?とか




 小梢が好きな先輩というのは誰なのか?それは大村じゃないのか?とか




 あと、さっきまで大村と恋人交換してみてどんな話をしたのか?とか




 小梢は交換についてどう思ってるのか?とか





 色々聞きたいことはあったけど、交換恋人制度では強制的に恋人が交換させられる上に、その相手ときちんと交際しないといけないことになっているから交換週間の間の交換恋人とのあれこれを聞くのはマナー違反とされてる。


今回のは制度によるものじゃなくただの仲間内の遊びだったし、一瞬のことだったけれども、やはり聞くのはそれってマナー違反にはならないのかと憚られるし、本物の恋人でもないのにズケズケと聞きすぎではないかとか、そもそもなんで俺はそんなことが聞きたいのか、俺には関係ないことではないのか、とか、色々理由をつけて一度躊躇ったら中々その質問が出来なくなってきた。



 けれども、冷静になって考えるとこのまま何も話さないというのもバカらしく思えてくる。というのも今の小梢はアニメを見るのも止めてゴロゴロしてるだけだ。それも自分の部屋にも帰らずに。

 理由があって俺の部屋に残っている。もしかしたら本当は俺と話がしたいのかもしれない。



 そこまで分かった俺は自然と小梢に話しかけていた。





「なあ、小梢、俺、寺本から俺も案外悪くないというか、カッコいい的なことを言われたよ」




「は、はい?

 せんぱい、いきなりナルシスト自慢だなんてどうしちゃったんですか?」





「いや、そういうわけじゃないんだ。

 俺は小梢に何があったのか聞かないし、小梢も俺のことは聞かない。けど、俺が勝手に今日、寺本と付き合ってみて話したことを報告したり、それで思ったことを言っても問題はないだろ?」



「ああ、そういうことですか。それは確かにそうですね。

 それは例のマナー的にもセーフです」



「ん。だから勝手に話す。

 で、寺本が俺のことカッコいいっていうんだよ。なんでかっていうと俺は集団の中にいると浮くけど、2人っきりだと安心できるっていうんだ…」



「ふーん。それでどうしたんです?」



「いや、それがすっげー嬉しかったんだ。

 可愛い女の子にそんなこと言われたことなんて今までなかったからさ、不覚にも少しときめいた。


 寺本ってかわいいなって思ったわけよ。んで、寺本にお前すっげー可愛いな、最高の彼女だなって言った」




「むきーーー!!」



「おおっ!!?なんだなんだ!?」




「そんなの私だってずっと思ってたし、私、せんぱいに一回も可愛いって言われたことないしっ!!!」



 小梢は突然怒り狂って枕をバンバン叩きつけてくる。なんかぶつくさ言ってるけど、枕のバンバンという音が大きすぎて全く聞こえない。と、とりあえず怒り狂ってることは間違いない。俺と寺本が仲良すぎて嫉妬しちゃったとか?まさかな。



「ま、まぁ待てって、落ち着けって!オチがあるんだよ」



「・・・なんですか?」



「い、いや、それでな。俺はただ寺本を滝川の彼女として最高だと褒めただけだったんだが、寺本は告白チックに受け止めたらしく、「私は旭一筋だからごめんねー」って言われた」



「ありゃ、それって」



「ああ、結局何もしてないのにこっ酷く振られたって話だ。そこで寺本と別れてきた。

 以上が俺にあった話!」



「ぷぷっ!せんぱいってば、なんだかんだで結局フラれちゃったんですか?

 もうバカだなぁー。よしよし、私に甘えていいですよー。傷心のせんぱいを私が癒してあげます♥」



「い、いや、いらねーよ。傷心じゃないし。

 振られるなんてわかってたし。つか、それ言い出したらお前だって俺のこと振ってるじゃねーか。


 お前には別に好きな奴がいるんだろ?お前の態度から勘案するに大村ではないかと推察してるんだけどな。

 今日のアレも嫌よ嫌よも好きのうちにしか見えないってか、ツンデレ幼馴染とか、俺らの業界じゃ鉄板ヒロインじゃねーか」



「あはは。せんぱいってばヲタク脳すぎ!

 ばかだなー。そんなはずないのにねー」



「はい?どういうこと?」



「んー、じゃあせんぱいがなんか勝手に話してたんで私も勝手に話しますけど、ホントのホントに大村先輩、いえ、涼くんとは何もないですよ。


 幼馴染だったので名前で呼ぶのが自然でしたけど、話すの自体がもういつ振りか覚えてないくらいです。

 あの人は、見た目はカッコいいですし、優しいっていうのはあるのかもしれないですけど、誰かに対して特別っていうのができないタイプなんですよ。


 全然熱を感じないから私はあんまり合わないなーって感じです。でも普通の女の子はああいう人に優しくされたらコロっといっちゃうのかもしれませんねー。


 けど少なくとも私のタイプとは真逆です。


 せんぱいはアニメの見すぎですよ。現実では幼馴染なんてあんまり仲良くないもんですよ。

 私はツンデレしてるわけじゃなくて、涼くんには別に取り繕う必要がないからそうしてるだけです。

 しかも、ツンデレ幼馴染なんてアニメの世界でも大体最後にメインヒロインにかっさらわれる当て馬じゃないですか。私はそんなの絶対ごめんです」



「そっか、そうだったのか。

 けど。小梢の好みはあれと真逆のタイプなのか。つまり俺とも真逆ということだな。

 俺、顔はまあまあだって自覚はしてるし、優しいしな!しかも小梢にも全く取り繕ってもらえてない!

 だいたい大村と同じだ。なんてこった!完全に脈がないじゃねーか!」



「ふふふ。何言ってんですかせんぱい。

 せんぱいが涼くんと同じなわけがないですよ。だって、せんぱいは数は少ないですけど、だからこそホントに仲が良い仲間に対してはとことん優しく、尽くすってタイプじゃないですか。それにいつも何かに夢中ですし」



「数が少ないは余計だよ。量より質なんだよ。

 ふーん、お前も俺をそういうふうに見てくれてんのか。それは唯一の救いだな。

 それなら俺も頑張るかー。小梢に振り向いてもらえるチャンスはあるみたいだし」



「ふふふ。せんぱい、何言ってるんでしょうね。ホントにばかなんだから。

 

 そうだ、せんぱい。せっかくなので、一つだけホントのこと教えてあげますね!」



「ん?なんだ?」



「私、()()好きな人がいるって言いましたけど、アレ、ホントは嘘なんです」



「な、なんだと!?」



「私、別に、()()好きな人なんていません。そもそも私、この学校に入ってから休み時間も放課後もほとんどせんぱいの部活に入り浸っているのに好きな人とかできると思いますか?


 まぁおかげで嫁は何人もできましたけどね。「あのすば」のめぐりんちゃんとか、「天使4P」ののぞちゃんとか、「名人のおしごと」の無縫ちゃんとか、みんな大好きですけどねー。ふへへへへー。美少女に囲まれて暮らしたいです。


 ハッ!

 そ、それはともかく!せんぱいと恋人になったのは、水無瀬先輩にフラれちゃったせんぱいがこのままだとちょっと不憫そうだったっていうのと、せんぱいとポイントが貯めたかったってだけです…」




 小梢はさっきまでだんまりだったのがなんだったのかといわんばかりに一気に色々な真相を話し始めた。俺は小梢の話を最後まで聞かずして大きなため息をつく。




「はぁーーーっ!

 マジかよ…。完全に騙されたわ。てっきりお前にはホントに好きな人がいるんだと思ってたよ。

 まぁそりゃそうか。

 いっつも俺らと一緒にいちゃー恋愛もクソもあるわけなかったな」



「ふふふ。そういうことです!せんぱい、気づくの遅いですよっ!」


「悪かったな。

 あっ、ちなみに、めぐりんが可愛いのは同意だが、よんよんとアリシスは俺の嫁だから貰って行きますね。あと、「名人のおしごと」なら山城桜花ちゃん一択。「天使4P」はできればみんなで4Pしたぃ…ブホッ!!

 な、なにすんだ!」



「小学生相手に何言ってんですか!せんぱいはホントに読めませんね!熟女推しかと思えば年下もいけるしで全く理解不能です!

 ですけど、やっぱり傾向としては黒髪率高いですね!それにおっぱい率も高い!この黒髪巨乳フェチ!ヘンタイ!!」



「黒髪こそ至高。やっぱ、あの清楚な感じがそそるんだよなー。それなのに巨乳とか最高」




「サ、サイテーです」



 小梢は腕で胸を抱きかかえるようにしてガードするけれど、お前にはガードするほどの胸はないだろ。一応結構柔らかかったことは今日分かったけれども、揉んで楽しめるというほどのものではなかった。



「けど、そっかぁ…」



「ん?どうしたんですか?」



「いや、俺、お前に好きな人がいるって聞いてたから俺はお前を応援することに徹して、諦めようと悩んでたんだ。

 だけど、どうやらその必要は全然なかったんだな。

 俺はお前のことを好きになってもいいのかな?んでもってお前に振り向いてもらえるようにがんばってもいいのかな…。まぁ許可をもらうまでもなく、今の話を聞いた以上、もうそうするつもりではあるんだけどな」



「はぁ…そうですか。

 まぁ自分のことですから別におすすめはしないですけど、がんばってくださいねー」




「ああ、俺、お前を振り向かせてみせるよ。そうなれるよう努力する。


 だから俺、これから2学期終わるまでのこの制度実施期間、小梢と真剣に付き合うよ。


 小梢のこと大事にする。小梢のこと今もLike的な意味では十分好きだけど、これからはもっともっと好きになれる気がする。

 小梢、それでもいいか?」



「べ、別にかまいませんよ?」




 小梢はあさっての方へと目を逸らしているが、嫌がってはいない。


 俺はそれを確認すると、小梢を真っすぐ見据えて伝えることにした。



「小梢、これからよろしくな。

 俺、今日、ちょっとの間、寺本と付き合ってみて、わかったことがあったんだ。


 小梢といると、俺も自然体でいられるし、楽しいってことだ。

 今日のデート、めちゃくちゃ楽しかった。その後、トリプルデートとか交換とかいろいろあったけど、それがあったからこそ、あのデートの楽しさが余計にわかったっていうか、今日だけでもすっげー小梢のこと好きになれた気がする」



「せ、せんぱい・・・」



 小梢はようやく自然体な笑顔になっていった。



 そうだ。俺ってばバカだな。


 彼女と初デートだったっていうのに、変な交換があったせいで、コイツに今日が楽しかったとか伝えられずに、それどころか別れの言葉も言えずに今日が終わっちまうところだった。



 危ない危ない。そっか、それでコイツは俺の部屋で待ってたんだな。

 浮気だなんだとか心配してたんじゃなくて、今日のデートをちゃんとシメようとして…。


 

 そう、小梢は普段、小悪魔な一面ばかりが目立つけど、そればっかりじゃない。寺本と同じようにホントは気が利くし、優しいし、可愛い奴なんだ。




 俺はそれがわかるとどんどん自然と小梢に伝えたかったこと、今まで伝えてあげられなかった言葉が出てくる。






「あと、小梢、俺今まで言わなかったけど…

 お前のこと、すっげー可愛いって思ってるよ。さっきお前、俺が褒めてくれなかったみたいなことをぼやいてたけど、恥ずかしくて言えなかっただけだ」



「っ!!?」



「あざといところはまぁアレだけど、そういうのなしでもすっげー可愛い。めちゃくちゃ可愛い。

 今日、お前にバイバイも言えずにお別れになりそうだったところをそうならないよう俺の部屋で待っててくれたのもすっげー嬉しい。

 こんな可愛くて優しい子が仮とはいえ、俺の彼女で今、俺、最高に幸せだよ…。

 お前を口説いても問題ないというお墨付きを貰えたわけだし、ちょっとばかし素直に言わせてもらった。ダメか?」




「いえ!せ、せんぱい…♥

 わ、わたし、うれしいです…」





「小梢…お前はホントに可愛い。

 うん、宇宙一可愛いよ」




「せんぱい・・・。

 ん・・・・・・?


 ・・・は?」




 あれ?小梢?どうした?

 小梢は急にプルプル震え出して拳を握り始める。



 

「このクソキモヲタ!!しねーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」








 俺達はつい数秒前までめちゃくちゃ良い雰囲気だったというのに、小梢は嬉しそうな顔から一気に阿修羅のような顔へと急変して激怒してそこらの枕やらクッションやらを投げつけ始めた。




「ど、どうしたんだよ、小梢!?俺は最大級の賛辞をお前に届けたというのに!何故だ!?何故怒る!?」




「何が「宇宙一可愛いよ」ですかっ!!せっかくはじめて褒めてくれたと思ったらっ!

 それ、王国民がゆかりんにいつも送ってる言葉じゃないですかーー!!


 私のことようやく褒めたなーって感心してたらソレ!?

 私の可愛さ、4×歳のおばさんと同列なんですかっ!?

 このキモヲタめーーーー!!!!」



「てめー。

 今、王国民のこの俺に最も言ってはならないことを言ったな。

 よろしい、ならば戦争だっ!」



「きゃーーーーーー!!やったなーーーー!このっ!!」



 そうやってキャラクターものの抱き枕とクッションで叩き合う2人。こんな夜遅くにクソ迷惑極まりないだろうけど、こんな時間も楽しい。こんなバカなことで騒げる相手は小梢だけだろう。


 そう思っていると、小梢が後ろのベッドのへりに引っかかってバランスを崩してベッドに思いっきり尻餅をついた。



「お、おい!小梢、大丈夫か?」


「「あっ…」」


 小梢はM字のまま短いスカートで俺の目の前で尻餅をついたせいで丸見えだった。


 小梢はとっさにすぐに女の子座りにシフトして隠したけれど、顔はゆでだこみたいに真っ赤になっていった。


 チッ、恥ずかしいなら短パン履くとかすればいいのに。

 どうして女子のパンツというのは見せられたこっちの方が気まずくなるんだろうか。見せたのはそっちの方だろと言いたいのに全然そんなの聞いちゃくれないでアニメのヒロインたちは理不尽な仕打ちを主人公にする。


 そして、そのセオリーは当然俺にも適用されるらしい。

 あーこりゃさらに叩かれるな、そう思っていると、俺らのスマホがけたたましい警報を鳴らしはじめた。




 …なんだなんだ?何が起こった?とパニックになっている間に寮監が俺の部屋に突入してくる。



「不純異性交遊の現行犯だ。神崎を即刻女子寮へと連行する。いいな」



「は、はい…。」「えーーーーっ!?」



 ま、まじかよ…。スゲーなこのシステム。世界で最新のIT技術が導入されていて高性能GPSとモーションキャプチャーが付いているっていう話だが、パンチラの発生すら把握できんのかよ。どんなシステムだよ。



 俺は小梢が寮監に首根っこを掴まれて連れて行かれるのを見送った。



「小梢ーおやすみな!また明日」


「どなどなどな・・・せんぱい、また明日―。おやすみです☆」



 小梢は悲し気な歌を口ずさみながら最後はあざとくウィンクして俺に別れの挨拶をしながら連行されていく。歌がマジでシャレになってない件。


 とはいえ、どうやらこのシステムでは俺は不純異性交遊の被害者という扱いで、小梢が加害者という判定らしい。おそろしや…。


 とりあえず、今日、また一つこのシステムについてわかったな。




「寮内でのパンチラは不純異性交遊になる」




 なにこれ、どんな迷言だよ。 

 口に出して言うとかなりヤバいシステムだな。

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