第1話 私と恋人になりませんか?
「皆さん、これから二学期も始まり、国立研究機関のわが校では少子化対策の実証実験の第二弾、理想の相手と出会うプロジェクトとして恋人交換制度を導入することになりました。」
校長の二学期始業式の挨拶で全校生徒が固まった。
どうやらまた頭のおかしな制度がうちの高校で始まるらしい。
全員が自分のスマホとパソコンを取り上げられて学校支給のスマホとパソコンを使うことになった。全寮制のうちの学校じゃこの2つは外部と繋がるための唯一のツール。
それを学校支給に変えられたことで登録されている異性は親族だけになった。
新たに異性の連絡先とか連絡手段を作ろうとするには学校の許可がいる。SNSも同性とは連絡取れるのに異性に対してだけブロックがかかる。
1学期には告白フェスタとかいうふざけた制度を実施して学校内に大量にカップルを作らせたかと思ったら2学期はこれか。なんともまあ思い切ったことをしたもんだ。
説明によると、全員が学校の管理システムに登録され、親族以外の異性は恋人だけ連絡手段の登録許可が下りる。
そんな管理の下、なんと3週間に1回、1週間だけ恋人がシャッフル交換される。その1週間は毎日放課後夜の8時まで(授業中や部活を除いて)絶対に一緒にいないといけないらしい。
1週間が終わると、互いに10点満点で評価ポイントを入れる。
平均評価ポイントが高いと、デートで各種施設の利用がタダ(国費負担)になったりするし、累計ポイントが高ければ好きな国立大学への推薦をもらえたりする。その上、累計ポイントを消費して特定の相手と恋人交換ができるトレードチケットと交換できたりと特典盛り沢山。逆に平均ポイントが低いと平均点数が低い者同士で恋人シャッフルがされやすい上、掃除当番等々の各種やりたくない当番が押し付けられるからどんな相手とシャッフルされようが良いポイントを貰うために嫌な相手でもちゃんと付き合わないといけないという寸法だ。
その上、このシステムにはブックマーク(お気に入り)機能というのがあって、過去恋人だった相手を一人だけお気に入りに登録できる。もしお互いにお気に入り登録されると、お見合い成立ということで何と本当に恋人がチェンジされてしまうらしい。
一応実証試験の期限は2学期終わる(クリスマス)までだから4か月くらいだ。5回くらい入れ替わりがあって、その間に色々な相手と出会って対人スキル・コミュニケーション能力の向上や理想の相手との出会いの機会を増やして結婚を促進、ひいては少子化対策というわけらしい。
とんでもないシステムの導入だというのにさっきから他人事のように説明していいるのは、俺には関係ないからだ。
俺には恋人はいないし、元々俺のスマホには女友達は登録されていないから何も問題がない。
いるのは部活仲間とネットゲーム仲間だけ。まあ、ネットゲームで親友だった泉も俺が学校にパソコンを取り上げられてしまってアカウント削除させられたせいであいさつもできずにお別れになってしまった。
俺はこの学校じゃアニメヲタクでゲーマーというスクールカーストの最底辺。見た目はまあまあだったから一年と二年の1学期はリア充グループに足を突っ込んでいたんだけど、付き合っていくうちに俺がガチのアニゲーヲタクでカラオケでも一人だけゆかりんの電波ソングを熱唱するヤベー奴だとわかってしまい次第にグループから遊びに誘われなくなったりと排除されていって今ではほとんどのクラスメイトが友達→知り合いに後退してしまった。一応俺が立ち上げたアニゲー研究会は部員が3人ほどいるから放課後も休み時間も寂しい思いをすることはないし、これはこれで気が楽ではある。
部活仲間は全員気心知れた連中で、どいつもこいつも俺と同じく見た目はマシなのに、中身はガチのヲタクゲーマーで恋人ナシの残念な連中だ。
もうすぐ初の恋人交換週間らしいがリア充たちが騒がしいものの、俺には一切関係ない。
そもそも俺は恋愛なんてクソ喰らえ、3次元の恋は二度としないと夏休み前に誓ったばかりだ。
朝、教室の前のドアが開くと長い黒髪の美少女が教室の中に入ってきた。俺の席はちょうどドア入って数歩進んだくらいにある右から2列目の最前列だ。登校して教室に入ってすぐの場所にいる俺に声を掛けてくる奴もいないわけじゃない。コイツもその一人だ。
「おはよー兼平くん」
「ああ、おはよう水無瀬」
「みんなもおはよー。」
「あっ百々奈おはよー!ねぇ、例のアレもうすぐでしょ?どうするの?」
「どうしようねー。」
「百々奈と俺には関係ないさ。そもそも俺達自身が清く正しい交際をしてるしな。何も間違いは起こらないさ。だろ?」
「う、うん…」
彼女はこのクラスのヒロインでもある水無瀬百々奈。俺が三次元で恋をしないと硬く決意した原因を作った相手でもある。
水無瀬は人懐っこくて誰にでも優しい。彼女は俺のようなアニゲーヲタクであろうと話を合わせて気さくに話しかけてくる。
そうして勘違いして爆死した者は多数。俺も勘違いさせられた上、危うくこの学校の前回のクソ制度に参加させられそうになった派だ。今はそんな彼女も告白フェスタを経て彼女にお似合いなリア充の頂点とも名高い隣のクラスのイケメン大村と付き合っている。
まぁこいつらリア充は今では俺とは無関係な人種。俺はいつものようにスマホのアプリゲームをしながら休み時間を過ごして、放課後はアニゲー部の部室に行き、いつもどおり後輩と3D格闘ゲームの崩拳に打ち込んだ。
「せーんぱい。またコンボミスしましたね。ざーこざーこ!」
「チッ…。普通のフリー対戦じゃコンボミスっても仕切り直しになるだけなんだよ。
小梢、お前だけだよ俺のコンボミス読んで確反入れてくるんのは。
だいたいミスっても硬直すんのは20フレーム弱なんだぞ。なんでお前は空コン落とした瞬間にジャスト受け身で即起き上がって16フレームの浮かし技入れられんだよ。予知能力者か」
「せんぱいがどこでミスするかは、お見通しですよー♥
せんぱい焦るとすぐミスるんですもん!」
俺が本来なら空中コンボで体力減らしきれるところで落としたせいで、小梢の方はレイジ(ダメージ強化)状態。その状態で逆に空中コンボを決められ、壁まで持ってこられて綺麗に逆転グレートKOさせられた。
「だー!負けた!だいたいお前は投げが多すぎんだよ!こんなんイラついてコンボもミスるわー!」
「だってせんぱい、今日全然投げ抜けできてないじゃないですか。
弱点攻めるのは当然ですよー」
「マジでお前えげつないな。そんなんだからお前は見た目はいいのに恋人の一人もできないんだよ」
「あー!それセクハラ発言ですよー!マジでぼっこにするんで早くコンテニューしてください」
「チッ。やられてんのはこっちだっていうのによ。ぜってーお前の投げ抜けられるまで練習してやる」
「がんばれー。はいまた投げ入ったー。KO-」
「チッ」
このクソ生意気な後輩は神崎小梢。茶色で明るい髪の色を左右で束ねて、くりっとした目が特徴の見た目だけは可愛い高校一年生だ。
見た目は可愛いけれど本性はこんなクソドSだし、美少女アニメヲタでもあるから三次元の男には今のところ興味はないらしく恋人はいない。あと、胸もない。
「むぅ…せんぱい、今私のこといやらしい目でみませんでしたか?」
「見るかよ。見るところもないし。」
「あー!言ったなー!ぜったいボコす!早く次コンテニューしてください!」
「神崎―、秋人とばっかやってないで俺とも対戦しようぜ。」
「大塚先輩は動きキモいんで嫌です。」
まぁ、この小梢とかいうクソ生意気な後輩はこんな感じで部活の先輩全員に対して愛想0。俺に対してはもはや先輩としての最低限度の敬意を払っているかどうかも疑わしい。
「おいおい!俺の芸術的なツカステ(大塚ステップの略)をキモいとかいうなや。
秋人とばっかじゃいい加減癖もわかってつまらんだろ。」
「あはは。そこがいいんじゃないですかー。この自称王段位のせんぱいをチクチクつついていたぶるの、最高にストレス発…いえ、とっても快感ですから!」
「自称じゃねーし。アーケードじゃ俺の段位、トップ階級の崩拳王だし。
だいたいお前、今、言い直したけど全然フォローしてないからな。むしろ先輩をいじめて愉悦するとかお前のヘンタイ性が増してるからな。このドSが!」
コイツ、俺に敬意を払うどころかただのストレス発散玩具扱いらしい。先輩いたぶってご満悦とかマジでクソ後輩だな。
「俺はもういいや。今日は調子悪い。崇交替してくれ。俺は録画してた昨日の僕いもの2期でも見てるわ」
「あっ!私もみたーい!きりんちゃん可愛いー!好きー!」
「ハッ?きりんよりも綾香だろ。黒髪美女こそ至高。マジ尊い」
「うわ…キモ。せんぱい、私が黒に染めてきて髪下ろしたらどうします?
主人公の京一みたいにぞっこんになっちゃいます?きゃーこわーい!」
「んなわけねーだろ。ったく…。静かに見ろよな。騒いでみるのは素人だ」
「当然です!きりんちゃんの可愛さを学習するためにも超集中です!」
部活はこんな感じで各自好きなことをやりたいようにやってる。リア充とは違う意味で学校生活は充実している。今はいないけれどもう一人いる部員が生徒会もやっているから職権乱用的にこの部室には本来は学校には置けないようなBD再生機能HD付きのテレビが2台、ゲーム機もPCもネット回線も揃っていてアニゲーを研究する上で必須なアイテムが全部揃っている最高の秘密基地だ。
「はー。今期も最高だな。大満足だわ。きちんと原作を踏まえつつも可愛く仕上げてやがる。」
「うわぁ…玄人的な講釈キモ…」
「いいんだよ。じゃ、俺、先帰るわ」
「あっ、私も帰りまーす!せんぱい、帰りに商店街のたいやきおごってくれてもいいですよ?」
「誰がおごるか。お前、部長である俺のことなんだと思ってんだよ」
「えっ、そんなのATエ…ごふんごふん。私の尊敬するせんぱいですっ★」
小梢は俺の胸のあたりをちょこんと小突いてボディタッチしながらウィンクしてきた。全体的にクソあざとい。俺が以前こういう感じのことを水無瀬からされて耐性を得ていなかったらこれだけでコロッと行きそうなレベルのあざとさだ。
「お前、ドヤ顔してごまかすのやめろ。しかもお前今、絶対ATMっていいかけただろ」
「言ってませんよ★そんなことより行きますよー!」
「ああ、じゃあ崇、後はよろ!」
「おう、2人ともじゃなー」
崇は崇で俺より強いだけあってネット対戦でランカーと熱いゲームをしていた。マジで自由な部活である。
・・・・・・・・・・・・・・
「んで、結局こうなるのか」
俺は学校と寮までの間にある商店街の小さな喫茶店に立ち寄ってそこで出してる特製たい焼きを半分こして小梢と食べながらカフェラテを飲んでいた。
「何か言いました?それより先輩、さっきも言いましたけど、今日何かあったんですか?明らかにいつもよりミス多かったですよ?」
「・・・なんもねーよ」
「あっ、大村先輩だ」
「ん?」
小梢が向いた方を振り向いたが誰もいなかった。
「せんぱい、わっかりやすー。ざっこ」
「嵌めやがったな。おもちゃにしやがって」
「せんぱいそうやって私のトラップに全部ひっかかってくれるとこ、かわいいですよ!」
「全然褒められてる気がしねーよ。けなしてしかいねーじゃねーか。
それよりお前が相談あるって言うからここ寄ったんだぞ。なんなんだよ」
「アハハ!そうでしたそうでした。せんぱい、実は恋愛相談なんですけど…」
「なんだよ、相談って恋愛かよ。つーか俺でもお前を2次元に送り込むとか無理だからな。きりんは3次元には出てこないからな?」
「違いますって3次元ですって」
「3次元?お前3次元とかに恋すんの?」
「そりゃー私だって年ごとの女の子なんですよ?恋くらいしますし憧れますよ」
「へぇー」
「うわ、どうでもよさそー」
「ああ、全く興味ない。そうか、お前も3次元リア充側の人間だったかー。まぁがんばれ。お前の見た目なら全然そっちでもいけるだろーしな」
「うわ…何その遠い目。イラッとくるんですけど…。
でも難しいんです。その人、彼女持ちなんです…。それもすっごい一途な感じで全然なんですよー」
「ぷぷっ!何、お前?彼女持ちの男に惚れちゃったん?
ざっこ!」
「うざっ…。人が真剣に相談してるのにー」
「わ、悪い…。調子乗った…。すまん。
俺も同じだったからお前もかよって思って楽しくなっちまった。
怒ったか?」
「ふふふ。怒ってないですよ。
せんぱいのそういう素直なところ、好きですよ?」
「う、うるさい!お前はすぐそうやって思わせ振りなこと言いやがる!好きな相手がいるならどうでも良い奴にそういうことするなよな。
それよりお前、どうするんだよ。彼女持ちの男なんて無理だろ」
「そうなんですよ…と言いたいところだったんですが…。
ところがせんぱい、今はそうでもないじゃないですか。
凄い制度はじまっちゃいましたよね?恋人が交換できちゃうとかいう凄いのが」
「えっ、それってまさか…」
「そうです、せんぱい。
だから、私と恋人になりませんか?」
可愛い後輩ちゃんたちとのほんわか学園ものです。
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