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「おーい、シンさーん。起きてください。朝食を食べに行きましょう。シンさん、起きてくださいっ」
からだを無理やり揺すられ、目を覚ます。重いまぶたを開けると、小さい窓から入ってくる大量の光が目に入ってくる。まぶしさのあまり顔をしかめた。
「あー、けっこう日が昇ってしまったな。っつ。頭いてー。ん?ここは…?」
「シンさん、寝ぼけてます?昨日の夜から宿に泊まってるじゃないですか。早く支度して、出発しましょう」
「え?あー、えっと。そうだな、ちょっと待っててくれ。少年。すぐに準備するよ」
ベッドから体を起こす。なにか行動を起こすたび、頭ににぶい痛みがはしる。最悪な目覚めだ。食欲もわかないし、何より頭が働かない。
「よし、待たせてすまんな。行こうか。それで、ここから出るときはどうやるんだ。鍵とか返さないといけないだろう?あと朝はどこに行くんだ?」
「ここから出るときは鍵を女将に渡すんですよ。これはシンさん、お願いします。朝食をどこで食べるかはまだ決めてないんです。まあそれは街を歩きながら決めましょう」
「あ、ああ。そうしよう」
少年から鍵をもらい部屋を出る。ほとんど錆びていて、手入れはされてないが年期が入ってるようだ。踏むたびに床や階段がギシギシと悲鳴をあげる。宿のカウンターにいる女将さんらしき女性に鍵を渡すと、むすっとした顔で“まいど”と言った。
「それじゃ、どこに行こうか。俺は食事とかに疎いんでね。えっと。少年はどこかいいところを知ってるか?」
「そうですね。前に、この街は屋台通りが有名だと聞きました。屋台通りは不定期で開催されてるんですが、最近は行商人が多く来たと言っていたので朝から開催されていると思いますよ」
「そうか。じゃあそこにいこうか」
歩き出した瞬間、また頭痛がして足の力が抜ける。倒れそうになる体を膝に手を置くことで支える。
「大丈夫ですか?気分が悪いとか…?」
「ん?あ、ああ。いや、朝は苦手でな。寝起きだとこうなるときがあるんだよ。それで、屋台通りだったな。行こうか、クマくん」
「大丈夫ならいいんですが…」
◇◆
少し開けた道に、小さな出店が並ぶ。肉を焼いたもの、遠い国の魚やフルーツ。見たことないようなものや、食べられるのか怪しいほどキツい匂いを放つようなものもあった。食べ物の他にも布、アクセサリー、武器や防具。ここまで店がたくさん集まるのは王国にない。
「うわー、すごいですね!想像以上です。本当にいろいろあるんですね!」
「そうだな。それで、クマくんはどうする?時間はあるから自由に見てきていいぞ」
「シンさんはどうするんですか?」
「俺はそこらへんにいるよ。今は食欲がないんでね」
クマくんは無邪気な笑顔を浮かべて走り出した。いつもの黒いローブは風を受け、丸く膨らむ。こういうイベントに参加するのは初めてなのか、右を見たり左を見たり。とても忙しそうだ。
クマくんの姿を確認したあと、シンも屋台通りの賑わいのなかに入っていく。中間あたりで道からそれて、路地裏へ進む。
後ろから明るい声が聞こえるが、目の前の景色とは大違いだ。いろいろな臭いが混じり、日も当たらないし空気も湿っている。当然人は見えない。さらに奥に入ると、端が腐って崩れかけている木の看板が見えた。かなり古そうだ。となりにあるドアは看板と違ってしっかりしている。木で出来ているのは変わらないが四隅は銀色の金属で装飾されていた。同じく金属でつくられたドアノブに手をかける。ひんやりとした冷たさを感じた。
少しひねってドアを押す。かなり手応えがあった。部屋に充満していた紙とインクの臭いがドアのすきまからもれる。鼻の奥がつーんとする。
「らっしゃっせー」
床には紙が散らばっていて、けもの道のような道まで出来ていた。奥には棚がたくさんあり、ぎっしりとここにも紙が入れられている。至るところに紙の塔とインク、ペンがあって持ち主の乱雑さを感じる。瓶入りのインクは高級品だし、紙だって貴重だ。そんな店の奥のカウンターには、ひじをついて気だるそうしている男がいた。頬が手で押され、顔がゆがんで見える。見るからに大雑把な男だ。
「お前は“いらっしゃいませ”すらちゃんと言えないのか?接客もできないとか致命的だぞ」
「あれ?シンじゃないか!久しぶりだな。いつぶりだ?それで、今日はなんの用だい?」
「お前のテンション変わりように俺はびっくりだ」
軽く鼻を指でこすり、にかっと歯を見せて笑う。襟がよれよれになっていて、ところどころほつれたズボン。こいつから前と変わらない元気さを感じた。
「フィル、今日はお前に協力を頼みにきた。北東にある森の近くにある村を担当している領主のセルドって貴族知ってるか?そいつの屋敷の間取りと今日からの予定を数日分知りたい」
「ほうほう、入ってるよ。最近よく聞くね。横領してるとか…それについてかい?やっと上が動いた?まあなんでもいい。ちょっと待ってな」
大量の紙をかきわける。数分もしないうちに目当ての情報が書かれた紙を見つけたらしい。場所を覚えているのか、意外と早かった。数枚をまとめてカウンターに置く。
「おっと、まあ待ちな。金は取らんがすこーし世間話はどうだい?そのあとにこれはあげるからさ」
「いいけど、あいにく笑えるような話はないぞ」
「いいのいいの」
ニヤッと笑うその顔は、とても楽しそうだった。
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