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お久しぶりです…



「じいさん…魔物と取り引きしてたってことで間違いないんだな?」

「まあな…。わしは……うまれてこのかた…ろくな“きょういく”ってものを……うけてないからの…。まちがってるやもしれん……だが、みなはやつらのことを…“マモノ”だったり“マノモノ”と……よんでいたぞ……」


 目の前のじいさん_シュロー_は表情ひとつ変えずヒゲをなでている。教育というより常識ではないのか、シンは少し困惑した。だが他の村人もシュローと同じだったとは考えづらいと、相手が魔物である可能性を強く推す。


 ライガルデン王国。今でも存在してる国のなかで1番歴史が深い国。国民のほとんどが唯一神である“リミラール”を信仰している。その昔、魔の者と呼ばれる者たちが世界のほとんどを占めていた。ある種族には知恵で負け、また他の種族には力で負け、種族としての数でしか勝てない人類は衰退への道を辿っていた。だが、あるとき暗い空に一筋のまばゆい光が草原を照らし、天井から人の形をした光が舞い降りた。それが唯一神リミラールだった。リミラールは人類に魔法という力と生き抜くための知恵を授け、人類を大きく成長させた。そして、人類は魔物を絶対悪としリミラールを唯一神として崇めた。


 まあ、そんな魔物と取引をしていたとなると、国民の不信感からは逃れられないだろう。公にこの情報が晒されたらの話だけど。こんな不便極まりない村をまだ残してたのは隠蔽しやすかったからなのかもしれない。シンは国にとってこの村はどれほどの価値なのか、腕を組み思案する。


「例えば、どんな物を取引してたんだ?」

「……そうじゃな…ほうせきとか…あくせさりー とかかの…。どれも…うつくしいものばかりでな……どれもとくべつなもの…だったらしいぞ…」

「どういうところが特別だったのか聞いてないか?」

「…んー……あっ…どれもまほうが…かかってるとか…」

「魔法…?」

「そういってたぞ…。じつは…あのとりひきが…はじまったばかりのとき……かなりしにんがでたもんだよ…」


 シュローのひげを撫でる動作は変わらないが、表情は歪んでるように見えた。まるで悪夢にうなされるかのように。


「ゆびわや…ネックレス…。剣に よろい…。いろんなまほうのほどこされた…高きゅうひんが…このにきたよ…。そのなかに…わしらみたいな…ただの農民が……さわっていいようなものは…ひとつもなかった」


 さっきまでのシュローの話し方とは大きく違っていた。言葉の端に怒りがちらつく。


「ある、子どもが…しょうひんのひとつに…てをふれた……。取り引きあいてによると…あれを…みにつけたり…ふれたりすると…精神を崩壊したあと…暴れて死ぬらしい…。王国側もかなりあわてていた……」

「それで…他の村人たちは…?」

「…あぁ…“死にたくない”と多くの村人は叫んで逃げようとしたよ…。結局は…みんな殺された…がな…」


 話が進むほどにシュローの口調はかなりはっきりとしたものになっていた。いつの間にかヒゲを撫でていた手は膝の上にあり、なにかを耐えるように強く握られていた。


「大人しくしてれば…魔物のほうが…ここの税をいくらでもかわりにおさめる…。食料も貰えるし…ろうどう をする……必要も無い…。にげれば殺されるしな…あいつらに殺されるならって…自殺するやつもおったよ…。そんで…さいごまで…のこったのが……わしだった…。あぁ…あのこどもさえ…とめていられれば………」


 ここまで話すと、シュローは床を見たまま黙ってしまった。少しの間、居心地の悪い沈黙が続く。話が終わるのを待っていたのか家の壁らしき藁の間から冷たい風が通り抜けるのを感じる。そんなに時間は経ってないようで入口の布の隙間から見える空は来たときと変わらない青さだった。


 シンのとなりでは、クマくんが床とシュローを交互に見ていた。どうやらこの状況に慣れてないらしく落ち着かないようだ。これ以上話を聞けるような空気でもないようだし、そろそろ離れたほうがいいか、そう思いシンは立ち上がる。


「じいさん、ありがとな。もういくよ…」

「……わしこそ…すまんな…」


 シュローはシンのほうを見て謝罪した。それは誰に向けて謝ったのか、自分の犯した罪についての話で時間を奪ってしまったシンたちに向けてか。それとも守れなかった今は亡き村人たちへか。だが本来はシュローが謝る必要はない、どちらへも。


「なんで謝るんだよ。謝るのは俺らだ。すまん。勝手に村に入って話までしてもらって…」

「…またきてくれても…かまわんよ……おいぼれのはなしあいてになってくれんか?…」

「ああ、近いうちにな」


 シュローは弱々しく笑う。心做しかやつれたようにも見える。シンは片手で入口の布をあげ通り道をつくると、先にクマくんが一礼し家から出ると、あとに続くようにシンも家から出る。


 外に出ると、空の半分ほどがオレンジ色に染まっていた。家のなかから見えたのはごく一部だったらしく夜はもう近いようだ。クマくんはまだ廃墟を見て回っていた。シュローの話を聞いてから、いろいろと気になったのだろうか。なにも聞いてなかったときよりもじっくりと周りを見ている。


「そんなに必死になって、なにを探してるんだ?」

「いえ、必死になってませんよ。ただ…疑うわけではないですが事実だったのか確認したくて」


 クマくんは瓦礫の山をどかしてずんずんと入っていく。必死ではないと言っているが、話しをしていても作業に夢中なようで1度も目線を合わせない。


「どれぐらい前のことなんでしょうかね。人が死んだような形跡は見つけられませんでした。後処理が上手なのか、自然に消えていったのか…」

「きっと両方なんじゃないか? ここに来るまでそんなに大事だと聞いてなかったからな。村の周辺から取引について情報が漏れても仕方ないとは思うんだが。確実に漏らさなかったのか、事実として確立できないほどミスをしなかったのか…どちらにしてもかなりの力が関わってると思うけどな」

「それにしても、なんでシュローさんは今でも生きてるんでしょうか。魔物と繋がっていた、これを知られるのはかなりまずいじゃ? 僕たちは知ってしまいましたし、それほど重要じゃないと考えたとか?」

「なぜシュローだけ生き残ってるのか、なぜ情報が漏れていないのか、何を取引していたのか、相手は誰か、王国はどんな目的だったのか…。まったく分かっていない。まあ、少し進めることは出来たかもな」


 次はセルドの家か、とシンは馬のところへと向かう。クマくんはまだ廃墟のなかを探索していた。さっきまであった青空はほとんどなく、オレンジ色になっていった。紫に染まっているところもあり、思ったより時間の進みが早いようだ。


 正直、予想以上だった。ここの村について調べてなかったのは良くなかったな。侮っていた。またフィルのところに行ってみるか。歩きながらこのあとの予定を確認する。そういえば、なんでセルドのところに行くんだっけ。シンは足を止め、クマくんのほうを振り向く。


「なあ、クマくん。俺たちは王国が調査するようにと言われたからここに来たんだよな?」

「あ、はい。その通りです……あれ?」

「税を違法なほど多く徴収してるかもしれない…それを確認するために来た。それに間違いはないか?」

「ええ、正しいと…思います」


 クマくんは障害物を片付ける手を止めて、考える。自分がここにいる理由を。シュローも言っていた。“大人しくしていれば魔物のほうがいくらでも代わりにここの税を納めてくれる”と。村人たちにまで払わない税について説明はないだろうし、多く税を徴収できることを国が知らないわけない。なら、承知の上で調査を命じたということになる。調査の原因だった国への苦情は誰からのどういう内容だったのか。でも、それに気づいたのは自分たちがシュローから話を聞けたから。


 クマくんは自分のカバンに入っている資料を引っ張りだして、今の状況を確認する。空の色の変化なんて目に入ってこなかった。

閲覧ありがとうございます。

お久しぶりです。今回から少し文章の書き方を変えてみようかと挑戦中です。

読みごたえがあるようにしたいですね。


感想や指摘などして頂ければ嬉しいです。

面白くしていきたいっ

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