表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青い空の下で  作者: 塔野 瑞香
8/18

第8話 回想〜小宮山 里彦〜


自分の不甲斐なさに堪らなく、相談室を飛び出してしまった。


なんで俺はあんな事を聞いてしまったのか。

彼の表情を見ただろ?

誰にだって触れられたくない傷がある。

俺はそこに触れてしまった。

あれから数年経ったから大丈夫なんて他人が推し量れるはずがないんだ。

恋の相談に交えて聞こうと思った。最低だ。


俺は彼が相談室を開く経緯をずっと知りたかった。


高校2.3年の時、龍田 己成希(たつたみなき)と同じクラスだった。初めて同じクラスになって、その容姿端麗さに目を引いた。

誰とつるむわけでもなく、かといって孤立しているわけでもなく、飄々とした印象だった。


ポーカーフェイスで、近寄りがたい雰囲気のせいか、女子も気軽に話しかけている感じはなかった。

例えるなら高貴な王子キャラか。


ただバレンタインデーでもらった、結構な数のチョコを鞄に詰めているのは目撃していた。

なので憧れていた女子は結構いたと思う。


2年生の秋頃、家庭に不幸があったらしく、数日、学校を休んでいた。

久しぶりに登校してきた彼は、憔悴しているように見えた。

身内を亡くしたんだから当たり前だと思った。


休んでいた授業のノートを貸してあげようと、話しかけた。

「龍田くん、良かったらノート書き写す?」


「あ、ありがとう。助かる」

覇気がない感じでふっと微笑んだ。


こりゃ女子、イチコロになるわ。


しばらくは物思いにふけるように、窓の外を眺めていたり、話しかけても、心ここにあらずな印象があった。

それだけ身内の死は、ショックだったのだと痛感した。だから家庭のことはまったく聞かなかった。


3年生になり、俺は大学を受験するため、進学コースを選択した。同じく彼もいた。

まだ影を背負っている印象はあったが、熱心に勉強に取り組んでいた。

まさか同じ大学志望だとは思わなかったけど。


ある日、街で彼が女の子と歩いてる姿を見たことがある。

談笑しているような雰囲気だったから、少し安堵した。

彼女かわからないけど、そういう相手と楽しげにしてるなら良かった。


俺はどこかで気にかけていた。

儚くて影を帯びる彼の印象があったから。

そして少しの危うさ。


今はそんな印象は少し薄れたとはいえ、まだ感じる。

心の奥に何か抱えている。

それは黒くて寂しくて、たぶん簡単には拭えないこびりついたもの。


俺は関わっていくうちに、この恋の相談が終わっても彼との縁は切りたくないと思っている事に気付いた。


彼を救うにはどうしたらいい?

その重い心の扉を開いてくれる日は訪れるのだろうか。


夕陽を眺めながら大学を抜け、駅へと歩いて行った。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=373163384&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ