第7話 〜小宮山 里彦〜 #5
望月先生が研究室から去るのを見送るのと同時にドアの外を見た。すると小宮山がいた。
「ちわ」
笑みで言うということは、好調なのか?
「ねぇねぇ。今、すれ違った先生、すごいキレイじゃない?」
望月先生のことか。
「俺の学科の先生だよ」
「あんな人に教えられてたら、勉強どころじゃなくね?」
そうかも。。1年の初めは変なふうに緊張してたかな。今は…
「ところで、あれから進展あった?」
「うん。今度一緒に出掛ける約束したんだ」
思ったより早い展開だ。たぶん彼女は…
「なんかさ俺の方が壁作ってたっていうか…彼女のほうは嫌われてるのかもって思ってたらしい」
「話せて良かったね。勇気出して偉いよ。その思い切りで状態がいい方へ動いたりもするから」
「うん。勇気出して良かったよ」
自信がつくと人って輝くんだな。前と違う。
「で、どういう所に連れて行こうかなって考えてて。いい案ある?」
「2人の共通点てなに?」
「共通点…絵にはお互い興味があるけど」
「美術館や個展とか?」
「俺もそう思ってたんだけど…あの告白ってさ、その日にしてもいいかな?」
「いいと思うよ。2人になるいい機会でしょ」
小宮山は口をキリッと閉めた。
「伝えようかな」
「ここまで来れたんだし、大丈夫」
「…話違うけど、聞いてもいい?龍田くんて何で相談室やろうと思ったの?」
聞かれたか。そりゃ不思議に思うよな。あの頃の俺を知ってたら…本当の事を言うべきか。
"まだ言えない"と頭をかすめた。
「ごめん!変なこと聞いちゃったね」
小宮山は両手を合わせて謝った。
俺は数秒、沈黙していたらしい。
あれから数年経っても癒えていない傷。
時折、夢にまで見る光景。
いつまで続く…?
「龍田くん、頑張ってコクってみるわ。ありがとう!」
そう言い、立ち上がって小走りに去って行った。
希望に向かっていく彼が輝かしく思う。
俺は未だに変わっていないのか…?
後ろから吹く春風が、がらんどうの胸を通り抜けていくようだった。