第5話 〜小宮山 里彦 #4〜
今日こそ話しかけよう。彼女に。
デッサンの授業がある。そのタイミングだ。
龍田くんの言うように彼女が俺と釣り合わないと言ったか?
そんな事実もないのに決め付けていた。もしかしたら望みがあるのかもしれない。それさえも確かめていないのに。
教室に入ると既に5.6人いた。
俺は彼女の姿を探した。
『いた!』
俺はイーゼルを持った彼女を目で追った。
隣を狙うべく、すかさずイーゼルと椅子を持ち、それらを彼女の隣に置いた。
確保したぜ!!
彼女に視線を落とし、思わず嬉しくて笑みがこぼれた。
彼女は驚いたように俺を見上げた。
「隣いい?」
「う、うんっ」
コクっと頷く彼女の顔が心なしか赤く染まっている気がした。
「…久しぶりだね。話すの」
「そうだね…」
距離を置いていただけ、ぎこちなさが窺える。
「…小宮山くん、避けてた?私のこと」
!!感じてたのか。。
いきなりの本題に少なからず動揺した。
何と言えば…
そういえば龍田くんが彼女の話に沿うように言ってたっけ。素直に言えば…
「俺…神戸さんがミスコンで優勝してから、なんか遠い存在になっちゃった気がして、勝手に距離をとってたかもしれない」
彼女は俺の顔をじっと見ていた。
そして…
「そっか。。正直言うと寂しかったんだ」
なぬーーーっ!!??
「小宮山くん前みたいに挨拶してくれなくなったし、目も合わせてくれないし。嫌われたかなって思ってたの。そしたら私も声かけづらくなっちゃって」
俯きがちに言葉にする表情を見つめていたら、抱きしめたい衝動に駆られた。
発する言葉の端々にほのかな期待がかすめる。
「…そうだったんだ。ごめんね」
ー授業が始まった。石膏の被写体を前に鉛筆を走らせる。それより彼女が隣に居ること。口にした言葉の意味を深読みしたり、思いを巡らせていたから、あまり集中できていなかった。
授業が終わった後、俺はこう言っていた。
「今度、2人で出掛けよう」
しまった!いきなりリードに持っていくのかよ、俺!!
「うん、いいよ」
そう彼女は微笑んだ。天にも上るような気持ち。
もしかして自分が壁を作っていただけなんだ。
彼女は何ら変わってもいない。
そんな自分へのやるせなさを感じつつ、その壁を取っ払おうと意欲的になっている自分に頼もしさも感じていた。