第4話 〜小宮山 里彦 #3〜
『自分はいける!行動あるのみ。』
ここ数日そう自分に言い聞かせてきた。龍田己成希の助言によって。
俺は彼のようにルックスがいいわけではない。
身長なんて161センチしかないし。
女性との接し方なんて丸っきり自信がない。
女性と付き合ったのは中学の時、おままごとのような恋愛だけだ。
自分に自信があるものはなんだろう?と考えてみた。
そしたら『絵』だと思った。
幼い頃から絵を描くことが好きだった。
絵描きになりたい夢はずっと思い続けている。
昨年の夏、二科展の絵画部門に応募してみた。
そして新人奨励賞に入選した。
そこで自分に自信もついた。まだまだ努力のしがいはあるけど、自分の強みとして保持していけそうに思う。
神戸 由梨。彼女と初めて会ったのは、ここの大学受験だった。会場に向かうたくさんの人が行き交う中、人目をひいた。美人だという以前に、俺の中で
「見つけた!」と思った。
俺とすれ違うほんの何秒でさえスローモーションのように長い時に感じた。
彼女の周りだけ朝の光に包まれているように神々しく、見惚れるようにしばらく立ち止まってしまった。
次に出会ったのは初めての講義の時。
夢かと思った。同じ学科に彼女がいた。
近付こうとか付き合いたいとかではなく、俺には手の届かない憧れの存在。話せなくてもいい。
同じ学科に彼女がいる、毎日のように会える事で満足だった。
だけど、あの時話しかけられて想いは堰を切るように流れ出した。
俺が二科展で入選した事が、講義中に先生から話された。その日はスターにでもなったのかってくらい、皆からもて囃された一日だった。
そして彼女ともよく目が合った。でも時折、逸らされたり…まぁ、勘違いってやつかもしれない(笑)
数日後の朝、キャンパスの外を歩いていると横に人が並んだ。ふと見ると神戸由梨だった。
「小宮山くん、おはよう」
天使の笑み!
俺!?俺に話しかけている!!!
俺より背の高い彼女を見上げながら
「おっ…おはよう!!」
やべっテンション高くなって声がでかすぎた!
…にしてもすっげーカワイイ…。
「二科展の入選おめでとう。凄いね。」
小さくパチパチと拍手をした。
なんて可愛いんだっ!
「あ、ありがとう…!」
顔が火照るのがわかる。
「あたし、前から小宮山くんの絵を凄いなって思ってたの。1年の初めから」
「そうなの!?」
心がはしゃぐとはこういうことか!
「今度はどんな絵を描いているんだろうって、実はいつも楽しみにしてるの」
そう言って微笑んだ。…もう完全にハートを撃ち抜かれた。
その日一日、彼女の言った台詞が頭を周り続け、脳内が完全に神戸由梨一色だった。
いや、暫くそんな日が続いたっけ。
それをきっかけにたまに話す事も増えた。
画材や描き方の手法、俺の絵を見ての感想。
だいたい絵にまつわる事だけど俺は彼女との時間を共有できているだけで幸せだった。
だけど恋ってやつは欲が出てくるんだな。
彼女の微笑みを独占したい。
2人だけで出掛けてみたい。
その手を握れたら…
そんなふうに想いが大きくなり始めた頃、ミスキャンパスエントリーの話を耳にした。
あの容姿に穏やかな性格。惹かれる男子は多いはずだ。エントリーも彼らの投票があってのことらしい。
俺は出てほしくなかった。彼女があのステージに立ったら余計に注目を集める。絶対にライバルは増えると思った。
けど、そんな気持ちはただ痴がましいだけ。
俺は彼女の彼氏でもなんでもない。
たまに話す程度のクラスメイト。
そう言い聞かせても複雑さは拭えない。
ミスコン当日は一切、催される会場には行かなかった。見たくもなかった。
ー結果、神戸由梨は"ミス籠森"となり、優勝した。
また遠い存在になったように感じた。
やっぱり俺には釣り合わない女性。
それから俺は少し距離をとるように自分から彼女へ話しかける事も減っていった。
せっかく入選をきっかけに近くなった距離が少しずつ離れていくー。
一方で膨らんだままの気持ち。
いっそ諦められたらいいのに。。
2年生になったある日、賑うキャンパスの庭であるチラシを拾った。
『相談無料 龍田己成希相談室 』
ん?龍田己成希って…
俺は暗いイメージだった高校生の頃の彼を思い出した。
彼が相談室を開くまでに至った事にも関心があったが、この恋の相談もしたかった。
そして水曜の16時、望月教室へ向かった。