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青い空の下で  作者: 塔野 瑞香
18/18

第18話 よぎるもの


舞子(まいこ)からの告白に俺は数秒、沈黙した。

その数秒の中によぎったものがある。


望月(もちづき)先生の顔だった。


すると沈黙を破るように


「返事はすぐじゃなくていいから」


舞子が言った。駅までの帰り道、何を話したっけ?

覚えてないなら、たわいも無い話だ。


告白に動揺していたのかもしれない。

いや、望月先生か──?

まさか。


ここ数年、"彼女"という存在は作らなかった。

付き合いたいほど好きな女性もいなかった。

かといって女の子と交流がなかったわけでもない。

成り行きでセックスしたり、遊びに行ったりはしていた。


俺は高校時代から代官山にある洋服店でバイトしている。そこで知り合う女の子だったり、クラブやバーで知り合ったり。何人か付き合おうと言われた事もある。

だけど俺の気持ちは女性と付き合いたいとは思わなかった。


それは面倒くささもあり、そういった精神状態でもなく、その時身体を重ね合わせ、黒い闇を取り払えるならそれでいい。

心が伴わないセックスに溺れていた。


男と女もどうせ人間関係だ。煩わしい。大事なものも何も無い俺はある意味、自暴自棄になっていたかもしれない。


大学に入って望月先生と会った。綺麗な人だと思った。彼女の講義で会える事が嬉しかった。気付けば彼女を目で追っている。相談室を開くにあたり、研究室を借りたのも彼女と接点が欲しかったのかもしれない。それだけ俺は──。


だけどこれ以上の気持ちを持ってはいけない。

彼女は旦那(ひと)のものだ。

望みなんてないんだ。

そしたら舞子と付き合ってもいいのか。彼女も傷みを知っている。俺を理解してくれるかもしれない。

だけど、ちらつく。望月先生の顔が──。




バイト先の洋服店にいると、知り合いの女の子が来た。


己成希(みなき)!久しぶり!」


アヤという、この店で知り合った20歳の女の子。

肉体関係ももったっけ…。


「ねぇ、久しぶりに遊ぼうよ。最近、忙しいの?」


「うん、まぁまぁ。大学のこととかね」


すげー忙しいわけでもない。ただ気乗りしないだけだ。


「遊べる時は連絡ちょうだい」


「おぉ、わかった」


いや、多分しないだろ。


服も買わずにアヤは店を出て行った。俺に話しかけるためか。



「己成希くんがウチに来てくれたらメンズメインなのに女の子の客が多くなったよね」


店長が言った。


「ははは。でも売上に繋がらないとダメですけどね」


さっき俺に話しかけるだけで帰って行ったしな。


「いや、君がウチの服を着るだけでも男性客が買っていくんだよ。貢献!貢献!」


「なら良かったです」


一応、面目は潰れなかったか。


時計に目をやると20時前になっていた。

そろそろ閉店の支度をしなくてはいけない。


外の立て看板をしまうため、店の出口を出る。

その時、


「おい、待てって言ってるだろ!」


男の強めな口調が聞こえて、思わず声のする方を見た。

店の左方向に歩く男女の後ろ姿が見えた。

男は女の腕を引っ張った。


「痛い!やめて!」


女は男の腕を振りほどこうとした。これは只事ではないかもしれない。


───えっ!?


わずかに後ろを振り返った女の顔を見て、驚いた。


望月先生だ。


俺は無意識に2人の方へ小走りに駆けていた。


「あの、痛がってるからやめた方がいいですよ」


突然、間に割り入った俺を2人は驚いた表情で見た。

望月先生は目を見開いていた。


「あぁ、大丈夫ですよ。夫婦のちょっとした揉め事ですから」


30代半ばくらいか…望月先生の旦那はサラッと俺に言った。

その冷たい笑みに怖さを感じた。


暴力を振るう現場を見たわけでもない。そう言われたらそれ以上の事を追求できない。


ただ今までの見てきた望月先生の振る舞いでおかしいと思う事はあった。

聞いても本人は否定するし、確証を得ない。


ーーどうしたらいい?


そう考えているうちに2人は俺から離れて行った。


数メートル歩いて望月先生は俺を振り返った。

その表情は、不穏を秘めていた。


まるで何かを訴えるようにーー。




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