第16話 心に棲まうもの
20分ほど電車に揺られ、駅に着いた。
「私の家、ここから歩いて10分くらいなの」
「大学も地元なんだね」
「うん。龍田くんは?」
「俺は大学生になってから一人暮らしだけど、それまでは家族と住んでたよ。実家は都内だけど、大学から一時間くらいはかかるかな」
別に実家から通学できない距離ではない。大学へ進学したら近い場所へ引っ越すと決めていた。実家に住んでいれば、家賃や生活費が浮く面が多いのはわかっている。だけど・・・父と2人で暮らすつもりなんてなかった。それはとんでもなく嫌だった。母をあんな目にした父を許す事なんてできない。悲しい母の面影が残るあの家に居ることなんて、とても・・・。
「龍田くんて・・・ミステリアスね」
はい!?
「会った時から思ったけど、何か抱えてる?私に話せることではない?」
話せること?話すこと?
・・・・・・そんなもの誰にも言わないし、言いたいことでもない。
塞いでいたものをこじ開けたら俺は・・・
自分を保てなくなるかもしれない。
───だから心には触れないでくれ───
「なんにもないけどね」
そっけない返答だったかもしれない。だけど、これ以上は踏み込んできてほしくない。
「そっか。キャバ嬢やってるとお客さんの悩み聞くこともあって。相談にのれたらなって思って。ごめんね、お節介だったね」
舞子は一瞬、寂しそうな顔をしたが、笑みをみせた。
悩みがあることを自覚して人に相談するやつはまだマシだ。
放っておいたらいけないのは、抱え込んでいる大きさにも気付かない。気付いていたとしても見ぬふりをして一人背負い込んだまま・・・
あ・・・俺みたいな奴か・・・・・。
彼女は手を差し伸べてきてくれた。だけど俺はそれを振り払った。
ごめん、話せない。話したくない。
暗闇に堕ちる・・・堕ちる・・・どす黒い悪夢が蘇る。
ごめんだ───。