第15話 天笠舞子#03
日曜日の午前10時前、駅の改札口へ向かう。人が行き交う隙間から天笠舞子の姿が見えた。俺の姿が見えたのか笑顔で少し大きめに手を振る。
なにこれ、デートの待ち合わせみたいじゃん?
「おはよう。今日はよろしくお願いします」
舞子は俺に軽く会釈をした。緩くパーマのかかった髪が肩を撫で、ラフに開いた黄色のブラウスから胸元が覗く。細身の白いパンツでスタイルの良さが栄える。
まだ会って2回目の相談者。こんなふうに同行することになるとは。。
彼女は母親と向き合って長年、胸に押さえつけていた本心を打ち明ける決意をした。愛情に満たされていない心・・・飢えを凌ぐかのように身体をむさぼり合ったって、堂々巡り。愛なんて知らないから。
自分を見つめ直し、その飢えの根源は何なのか知るタイミングだと思った。俺は子供の頃からの母親とのコミュニケーションが不足していたのだと思った。母親と自分との対峙。その一歩を踏み出さなければ変われないのでないかと思った。彼女は踏み出そうとしている。背中を押してあげるチャンスだ。
そして、俺は自分と重ねている。母を見殺してしまった自分を。謝りたくても、話したくても、助けてあげることも、もうできない。そんな償いに似たような想いを彼女に託しているのかーー。浅はかだな。
「ここから2つめの駅よ。母には家に行くこと連絡してあるわ。2カ月ぶりかな会うの。・・・今日ね、母の誕生日なの。だからそれに合わせたくて。龍田くんのこと急に誘っちゃってごめんね。」
「そうか。全然だよ。いい機会なんじゃない」
舞子は手に紙袋を下げている。きっと誕生日プレゼントなんだろう。
「ねぇ、私達がこうやって並んでるの誰かに見られたら、できてるって思われるのかな」
舞子は茶目っ気顔で俺を見上げた。
「えっ・・・急に話が変わるね」
この駅は大学の最寄り駅。誰かに見られている可能性もある。
「私は嫌じゃないよ。龍田くんとなら・・・」
っ!なかなかくるな~
「はは、ありがと」
そんなことしか言えない。
電車がホームへ着き、ドアが開いた。乗る瞬間、舞子は俺の腕に自分の腕を絡ませた。乗り込んだらすぐに腕を離した。積極的だな。そりゃ男だってその気になるはずだ。
目が合うとニコッと笑ったが、電車の窓から外を覗く表情は時折、憂いを帯びていた。