第14話 天笠舞子#02
思いもよらぬキス。
ただただ呆然としてしまっていた。
天笠舞子は数秒くちづけた唇を離し、
「ごめんね」
と照れくさそうに言った。
「気持ちをわかってくれる人っているんだね」
目の下に残る涙を指で拭いながら俺を見た。はじめの溌剌とした印象の彼女の本当の姿はこんなにも儚い女性なのか…。
「決して一人ではないよ。必ず共有してくれる人、支えてくれる人はいるから。あなたが思い切って、ここへ来てくれて俺は嬉しい」
さっきのキスを気にしながらも、冷静さを取り戻すように言った。
舞子の顔が歪み唇が震える。どれだけの孤独を今まで抱えて来たのかがわかる。
深い孤独から脱却するには…
「彼氏いるなら、わかってはくれない?」
さっきのセックスの話からして。
「彼氏なんていないよ。ナンパや合コンの行きずりの相手だもん。男の人と真剣に付き合うのはしばらくいいの。前の彼氏に束縛されてたから疲れちゃって」
「そりゃあ満たされないね。心で繋がってないんだから」
母を亡くした後の俺のようだ。女性と身体を重ねる事で孤独を紛らわせていた。
快楽に浸り、覆い被さる闇をも忘れていられる一時的なもの…どうせまた闇は現れるのに、繰り返す。
魔性の欲。
根本から見つめ直さないといけない。自分にも言えることだけど…
「まず、お母さんに今まで寂しかったことを伝えた方がいいね」
「・・・勇気がいるわ。仲が悪かったわけではないけど」
そのとおりだと思う。
人には言える。俺は――?
「それじゃあ、龍田くんも一緒に来てよ。私の実家」
へ!?
「家に一緒に上がらなくていいわ。地元まで一緒に来てほしいの。誰かが一緒にいてくれたら言えると思う」
家に同行するとか誓約書には盛り込んでいなかった。
というか、そんな要望が出てくるとは思わない。
「龍田くんみたいな人、初めて会ったの。この人ならわかってくれるかもって」
もし、俺の母が生きていたら謝りたい。
気付いてても勇気を出せずにいたこと。助けてあげられなかったこと。
彼女は向き合おうとしている。
俺は自分と重ね合わせ、その一歩の勇気を後押ししたい。同行か…どうすっかな。
「じゃあ、今週の日曜日にしない?」
えぇっ!?はやっ。
舞子は膝をつき、両手に顎を乗せてニコッと笑った。
彼女の一歩を止めてはいけない。
「…いいよ」
OKしていた。