第13話 天笠舞子#01
「龍田くんだよね?」
水曜日の16時前、望月教室へ向かう途中に声をかけられた。
声のする方へ振り向くと・・・おっ美人。
「以前もらったチラシを見たの。相談したいんだけど、いい?」
2人目の相談者である。
「私、3年の天笠舞子。スポーツ科学部にいるの。チアガールやってるんだけどね」
チアガール・・・たまらん。確かに健康的でグラマラスなスタイル。
初対面でも気さくに話してくる、溌剌とした印象がある。一見、悩みがありそうに見えないが、それは偏見だな。誰しも目には見えないものを抱えている。
誓約書にサインをして、本題に入る。
「舞子さんの相談はなに?」
「・・・私、キャバクラ嬢やってるの。お金はそれなりに入るけど満たされなくて、男の人とセックスしたって満たされないの。どうして満たされないのか、寂しいのかわからなくて。こんなこと相談していいものか、わからないけど」
「ぜんぜんおかしくなんかないよ。悩みに大きいも小さいもないでしょ。その人が真剣に悩んでいるのなら、他人がどうこう言う資格なんかないんだ」
「良かった。。龍田くんならわかってくれると思ったの。直感が当たった」
「直感?」
「うん、儚さが漂ってるの。何かを内に秘めてる感じっていうのかな」
あぁ、一理あるわ。
「お金なんてただの物質だよ。そりゃ生活があるからある程度は必要だけど、あればあるほど満たされるわけではないと思うよ。そこに固執してたらいいエネルギーなんて巡ってこない。まずはお金の執着心は捨てて。そもそもなんでキャバクラ嬢を始めたの?」
「うち、母子家庭なんだよね。母は昔から仕事を2つ、3つ掛け持ちしていて、幼いながらにお金に
苦労しているのはわかっていたから、バイトできる年齢になったら生活費の足しにしようってずっと思ってて。そのお金の欲が次第に大きくなっていったのかな。20歳になったらキャバクラで働いてみようって」
この人、俺と似てる。
気持ちがわかる・・・その根源は“母”だ。
「お母さんとコミュニケーションとってきた?」
「・・・どうなのかな?たぶん少ないほうだと思う。外に働きに出てる時間が多かったから相談もあまりできなかったし・・・・・・」
そう言いかけて舞子は顔を両手で覆った。
「・・・うっ・・・」
泣いている。
「泣いていいよ・・・自分で何でも決めてきたんだね。頑張ってきたね」
そっと背中をさすった。
「・・・ふっ・・ひっく」
その人しかわからない痛み。でも少しでも理解できるなら寄り添いたい。
窓の外の揺れる新緑を見つめながら、しばらく背中をさすっていた。
舞子は手で涙を拭いながら、ゆっくりと顔を上げた。
「・・・龍田くんて優しいね」
「優しいっていうより、わかるから少しは」
また目に涙を滲ませる。
すると目の前に座っている俺の方へ身を乗り出して、唇にキスをした。
驚いて呆然と彼女の顔を見つめていた。