第12話 友達
キャンパス内のベンチで購買で買ったハンバーガを頬張る。新緑を見上げながら思い浮かぶのは、望月先生の潤んでいた瞳、小刻みに震えていた後ろ姿・・・。
必死に“何か”を隠している。いや耐えている。それを打ち明けてくれる日は来るのだろうか。掴んだ手をも離された。まだまだ遠い。そんなこと初めからわかっている。
“あの出来事”がきっかけで、俺は大学の心理学部へ入ろうと決めた。
臨床心理学コースを専攻し、1年の頃から授業を受け持っていたのが望月小夜子准教授だった。
白衣姿の彼女を初めて見て、綺麗だと思った。初めはそんな感情。だけど次第に彼女の授業で会えることが楽しみになる。話せることが嬉しくなる。ふと左手を見た時に薬指に指輪が見えた。
『あぁ、結婚しているんだ・・・』
落胆に似た気持ち。その指輪を目にするたび、物憂げになる。こんなに気がかりなのは、母と重なるだけではないことをなんとなくわかっている。自覚したらだめなんだ。
だって彼女は手に入らないからーー。
切なさと覆い被さりそうな闇を感じ、思わず手で目を塞いだ。
「龍田くん、おじゃま?」
聞きなれた声に目を開け、見やると小宮山里彦が立っていた。
「あぁ久しぶりだね、となり座って」
この前、相談室に訪れたのは3週間ほど前か。。
「報告があるんだ」
にこにことした表情の彼から推測するに良い結果なのか。
「彼女と付き合うことになった」
・・・やった!!
「おめでとう!良かったね」
「ありがとう。協力してくれて」
「俺なんて大したこと言ってないよ。自分の勇気と行動が成した結果だよ」
「前から彼女も俺を好きでいてくれたみたいでさ。勇気出して良かった。そしたら彼女の気持ちもわからないまま諦めてたかも」
自分のつたない言葉ながらも彼の背中を押せたこと、そして最高な結果となったことがとても嬉しい。
「初めての相談者の恋が実って俺も嬉しいよ」
「それでさ、もう1個伝えたいことがあるんだ」
なんだろ・・・
「俺と友達になってほしい。相談が終わったからって龍田くんとの縁は切りたくないんだ」
『友達』。そういえば俺には今まで、そう呼べる存在はいなかったかもしれない。
俺との縁を切りたくない・・・か。そんなこと言ってくれる奴も初めてだな。
まずい、目が熱くなる。
小宮山は手を拳にして差し出してきた。俺はその拳に自分の拳を合わせた後
「よろしく」
と言った。
「よろしく!」
小宮山は無邪気に笑った。