58話
マリエルを人質に取られ、ギルマスの要求を呑まされてしまった。
とは言え、ギルマスもよくわかっているので無茶な要求ではなかった。
結果、許容範囲内に落ち着いたが、最後にマリエルを宥める仕事が残った。
空を飛んでの帰宅途中、ずっとマリエルのご機嫌伺いである。
「ひどい・・・ひどいです、ルイさま・・・わたしひとりでやってないっていったのに・・・」
ギルドを出るまでは随分落ち着いていたのだが、空を飛んで二人きりになった辺りで身代わり山羊にされた時の事を思い出したのか、ついに泣き出してしまったのだ。
泣く子と地頭には勝てない、だったか。
現在身を以って痛感させられている。
しかも泣く原因が自分にあるのだから尚更だ。
こんな状態では帰るに帰れないので、頭を撫でて宥め賺して泣き止ませようと悪戦苦闘している。
本来ならすぐ帰り着くのだが、あちこち飛び回り時間を稼ぎ、体裁を保つために姿も周りからは見えないようにしている。
「悪かった。でも、普通の冒険者なら喜ぶものじゃないか?」
そう言っても
「あんな譲られ方しても嬉しくも何ともありません!!」
とか
「ルイ様に見捨てられたと思った時、どれほど悲しく心細かったことかわかりますか!!」
とか、散々詰られた。
それでも何とか時間をかけて落ち着かせ、次の教育に参加しない日に一日中付き合うと約束することで許してもらった。
あれ、それってデートじゃね?
とか
これってむしろ俺が得してね?
とか思わないでもなかったが、マリエルは嬉しそうに笑っていたので何も言わずにおいた。
自室に戻りラノベの続きを読んでいるのだが、マリエルが部屋から出て行ってくれない。
先程と同じように、ゆっくり読書を楽しみたい、誰とも会わないので通訳の必要もないと伝えたのだが、今回は引き下がってはくれなかった。
では何をしているのかと言えば、ニコニコしながら部屋の端で待機している。
正直余り寛げない。
また、マリエルが気になって小説の内容が余り頭に入ってこない。
これでは折角のラノベが勿体無い。
なので早々に諦めて、マリエルを呼んでこちらの言語の勉強をすることにした。
端で待機されているのが気になって仕方ないのなら、一緒に同じ事をすればいいじゃないかという訳だ。
用件を伝えると、嬉しそうにこちらに寄ってくるマリエル。
・・・・こうも笑顔で接せられると、俺に気があるのではないかと勘違いしそうになる。
わかっている。
わかってはいるのだ。
そんなことはないと。
笑いかけられたから自分に好意があると思うとか、勘違いのよくあるパターンではないか。
勘違いではないのではないか? と思ってしまう自分をそうやって何とか自制する。
モンスターなどより、寧ろこっちの方が強敵だ。
勉強の途中だが魔剣の事を思い出したので、覚えている内にさっさと交渉を終わらせてしまうことにした。
「そう言えばマリエル、ブラッディゴブリンが持っていた魔剣だが、本来なら売ってしまって三等分するのが順当なのだが、実はあれを手元に置いておきたくてな。そこで相談なのだが、一度調べてもらって価格を聞いた上で、半額をマリエルにわた「ルイ様に全てお譲りします」・・・すよ?」
「結構です。ルイ様に全てお譲りします」
それはだめだろう。
マリエルにはいつも組む別のPTがいるようだし、所詮このPTは一時的なものだ。
であるなら、分けられない戦利品などは売って金を分配するか、取り分相当の金額を渡して買い取った形にするべきだろう。
「はんが「結構です。ルイ様に全てお譲りします」
「・・・・・」
「・・・・・」
「は「結構です。ルイ様に全てお譲りします」
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
笑顔のはずのマリエルから、妙に力強い圧力を感じる。
そして無言で向かい合う二人。
「「結構です。ルイ様に全てお譲りします」
くっ、速い。
口を開けただけで被せてくるとは。
最早喋らせる気もないのか。
マリエルはさっきからずっと笑顔のまま、一歩も引く気がない様子だ。
俺としては、後々問題になりかねない様な事は極力避けたいのだが。
・・・寧ろ今問題になっているか、仕方がない。
でもこれ、諦めた場合どうすればいいのだ?
少し悩んで、身振り手振りで伝えた。
異世界で通じるのか怪しんだが、通じたようで
「わかってもらえればいいのです」
と満足そうに言うので、通じたのだろう。
「そもそもですよ、討伐の栄誉を人に押し付けておいて、戦利品は折半な、は通じないでしょう。無理矢理とはいえ栄誉を私が受け取るなら、戦利品はルイ様が貰ってしかるべきです。ルイ様なら一人でも倒せていて、私ではろくに何も出来ずに殺されるようなモンスターであることを考えれば、全てルイ様でもいいくらいですが、変わり者のルイ様がそれを望まないことはわかりましたから、今更栄誉も受け取らないとは言いませんが」
「尤も、ギルドでの反応から考えてルイ様が隠したいと思われているであろう事は、ばれてしまっていると思われますが・・・まぁ、当然でしょう」
なん、だと。
「ばれているのか? しかも当然だと?」
「当然でしょう。何度か申し上げましたが、私はこれでもそれなりには名の知れた冒険者です。当然実力に関してもある程度は想像が付くでしょう、関わった事がない人でも。その私がある日突然血狂いを仕留めたなどと聞かされても普通は疑います。そしてその上素性の知れない者と二人で組んでいたとなれば、その者こそが本当の討伐者だと考えるでしょう」
「これが私のいつものPTとルイ様の合同であったなら、強力な魔法使いの援護があったので勝てたと思われたかもしれませんが、私一人ではそれもありません。理由は不明ながら、ルイ様が一人で倒したが私が倒した事にしている、と思われているでしょう」
「実際はその想像すら超えておりますが。流石に私一人で倒すほどの援護が出来る魔法使いとは考えないでしょう」
「とは言え、公的には私が倒した事になっておりますし、ギルドマスターもそれを認めております。他の冒険者の反応や風聞以外は特に問題はないかと思われます」
それは十分問題あるだろうとは思うが今更か。
しかし、そういうばれ方は考えていなかったなぁ。
まぁ、公的には違うことになっているし、マリエルも比較的ではあるが協力してくれている。
一応ぎりぎり許容範囲内か。
「あ、後、ギルドから貰える予定のブラッディゴブリンの買取と討伐報酬も受け取る気はありませんので」
更にそんな事まで言われてしまった。
折半とかの方が後腐れなくて気楽なのだがな。
かと言って、ここでごねてマリエルの気が変わってしまうのも困りものだ。
保険が本当に最低限しか利いていないなら尚更に。
と言うか、さらっと変わり者呼ばわりされているのだが。
自覚がない訳ではないが、目立ちたくないってのはそう変わってないと思うのだがどうだろうか?
・・・・・変わってないよね?




