07話
翌日、上司に辞職願を提出した。
マスクで顔を隠してである。
誰だお前? って顔をされたが、名乗ったら納得してくれた、はずだ。
周囲の視線が痛い。
マスク程度で隠しきれるはずもないので当然だ。
だがどうしようもない。
こうなるのはわかっていた。
しかし出てこないわけにもいかない。
顔も出さず、引継ぎや挨拶とかもせず、いきなり辞めるとか常識的に考えて有り得ないだろう。
何とか今月いっぱいでと話を纏めたが、逆に言えばそれまでは、この針の筵から逃げられないということになる。
あなわびし。
月末、何とかやりきった。
胃が痛い日々だった。
周囲の優しさが逆にきつかった。
しかしそれももう終わりだ。
急ぎ辞める為に、今迄で一番頑張って働いた。
辞める為に頑張るとかこれ如何に。
これで明日からは自由に動ける。
先ずは、日本を一周する予定だ。
勿論目的は、『特殊能力の媒体』と『足のつかない不正な資金』。
領土面積的にまだまだ回収可能な筈である。
首都がまだだし。
先ずは西へ向かった。
最初西、前回東だったからってだけだが。
水晶を砕く作業で中々進まないが、急ぐ理由もなし、気長にやっている。
移動した先のホテルで新調したノートを操作し、久し振りに情報収集をするが、例の発動できない同類と思しき連中の中に、能力が消えたと騒いでいる者がいたようだ。
消えたらしい日は、俺が水晶集めに遠出をした日だ。
予想通り、発動できないだけの同類だったようだ。
相当荒れてるその人に、心の中でお悔やみ申し上げて接続を切る。
能力の確認も久し振りだ。
先月末は慌しかったからな。
急に仕事を辞める所為で。
展開枚数を確認しようとするが、多すぎてわかり辛い。
どうにかならないかなと思っていると膜同士がくっ付き合って枚数が減っていく。
8枚まで減ったところで止まった。
何事?
操作してみると何時も通りに操作できる。
試しに分かれるように意識してみると、くっ付いている磁石を引き離すような感じがしつつも離れる。
止めるとまた戻ったが。
重なり合って膜自体が強化されたとかだろうか?
調べてみるも、射程とかに変化はなさそうなのだが。
強度が上がったとかだろうか。
既にそれなりの強度になってるから、調べにくいのだが・・・。
仕方がないので、外に出て試してみる。
するとかなり強度が上がっていた。
容量も。
これなら大体のものを抜き取れるんじゃないだろうか。
今のところ必要ないけど。
しかし強化自体は嬉しい、例え実質意味がなくても。
そもそも、枚数多過ぎて使い切れてなかったし。
半月後、西日本くらいは回った。
次は東だな。
既に一度通っているので余り膜に引っかからない道中、ふと前考えたことが頭をよぎる。
ゲームのレベルアップのようだ、と感じた件についてだ。
現実はゲームではない。
そんなことはわかっているが、では今の状況は一体何なのだろうか。
特殊能力を得た当初は、テンプレチートを想像した。
そういう作品では、ステータスが見られたりアイテムボックスを持っていたりするものだ。
しかし、魔法の濾過膜を得た当初、色々試してみたができなかった。
ガチでステータスを表示しようとして失敗するアラフォー男、他人に見られていたら切腹ものである。
その時は魔法の濾過膜を得た喜びでハイテンションになっていて、気にならなかったが。
ふと気紛れにもう一度ステータスを表示しようとしてみる。
あくまで気紛れであり、全く本気ではない。
勘違いはしないように。
するとあっさり出てきた。
ステータス画面っぽいものが。
走行中である、それはわかっているが前ではなくステータス画面に意識がいく。
実に危ない。
少し行った先にコンビニがあったので入る。
車を止めてから画面を見ると、SFチックな半透明なウィンドウが浮かんでおり、名前のみが書かれている。
それだけかよと内心罵倒していると、内容が増えていく。
種族・性別・年齢・状態にレベル、能力値なんてものまでが書かれている。
特殊能力はどうしたと画面を凝視すると、更に内容が増える。
スキルに残スキルポイント・アビリティなどが表示されていく。
ゲームかよと思いつつ凝視し続け、表示が増えないようになってからも少しの間待ってみる。
あれ、前は出なかったよな。
凄くあっさり出てきたけど。
意味がわからない。
出なかったものが出てきたことも、そもそも出てきたことそのものも。
混乱しつつも画面を確認する。
色々おかしい。
名前や性別、年齢はいい、あってるから。
なにこのレベル281って。
能力値も軒並み数千とかあるし、LUKだけ極端に低いけど。
知りたくなかった事実。
普通の人はどんな能力なんだよって感じだ。
通りすがりの人を凝視する、ステータス画面出て来いと強く念じながら。
すると出てくるステータス画面。
なんでだよ。
自分で念じておいてなんだけど。
そこには名前しか書かれていない。
再度念じる。
すると今回も表示内容が増えていく。
しかし自分のものより少ない段階で止まってしまう。
強く念じても変化なし。
まぁいいか、と能力値を確認すると、10前後。
え~っと、え?
理解が追い付かない。
少し落ち着こう。