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06話

 明けて次の日、会社に電話をして、体調がおかしいので休ませてほしい旨を伝えた。

 嘘は言っていない。

 ただ、悪いのではない。

 良すぎるのだ、有り得ないほどに。

 異常には起きて直ぐに気が付いた。

 体が軽い。

 二十代の時でも、ここまでではなかったくらいに。

 目もよく見える。

 外を見てみると、いつも以上に遠くまで見える。

 「一体何が起こっているんだ」とか言ってみる。

 考えるまでもないわけだが。

 昨日の水晶砕き以外に一体何があるというのか。

 昨日は力が漲っていて気が付かなかったが、どうやら能力以外にも、体も強化されてしまっているようであった。

 嬉しいのは嬉しいが少しだけ困った。

 今後も水晶砕きを続けるつもりなのに、特殊能力なら兎も角、身体能力が強化されると目立つじゃないか。

 それこそ、『身体能力の強化という特殊能力』を得たように見られかねない。

 今程度であれば兎も角、今後強化され続けるとしたら、いつか必ずバレる。

 身体能力抑制ギブスみたいな物でも着けるか? 

 まぁ、冗談だが。

 一応色々確認してみる。

 すると、筋力瞬発力などは順当として、器用にもなっているようである。

 まるでゲームのレベルアップのようだ。

 ある意味そんなものか、経験値(能力媒体)を得てレベルアップ(身体能力強化)をしたわけだ。

 ネットで情報収集しながら、何かいい案がないか考える。

 しかし特に思い付かない。

 しいて言えば、集めるだけ集めて貯めておくとか? 

 置いておいて大丈夫なものなのかどうかもわからないが。

 

 結局その日一日考えていたが、碌な案が思い付かなかった。

 今はまだいい、傍目にも妙に元気だな程度にしか見られないだろうから。

 しかしこのまま水晶砕きで強化され続けたら問題だ。

 必ず破綻する、隠しようがない。

 では水晶砕きを止めるか? というか、止められるか? 

 折角見付けた美味しい強化方法を。

 知ってしまった以上我慢できる気がしない。

 結論が出ないまま、夜も遅くなったのでもう寝ることにした。

 

 

 

 次の休日、有給を取り3連休にして、また金拾いに出かける。

 今回は前回とは別方向だ。

 今日まで水晶砕きを我慢して考えに考えたが、やはり水晶砕きは諦められない。

 しかし続ければ身バレ確定である。

 ではどうするのか? 

 その為のこの連休である。

 今回の結果如何によっては、会社を辞めることも考慮している。

 会社を辞めれば人付き合いは激減する。

 バレる可能性も激減するというわけである。

 随分短絡的な事を考えたと思うだろう。

 だが決して考えなしに選ぼうとしているわけではない。

 俺にとって会社とは、生きていく上で必要な金を稼ぐ場所でしかなかった。

 大抵の人にとってもそうだろう。

 では、その金が既にあればどうだろうか。

 つまりそういう事である。

 今回は、選別対象を『特殊能力の媒体』と『足のつかない不正な資金』の二つで使用する。

 題して、量より質である。

 能力も大幅に強化され、前回と違い射程にも不安はない。

 正確な距離は測りきれないが、射程だけでも20kmを超えていて、面積分を利用すれば70km程にもなる。

 どうやって調べたのか。

 家から射程全開・面積ほぼ高さのみで『海水』を取ってこれた方角を調べたのだ。

 そして方角から海までの距離を計算した結果である。

 これで会社を辞めても支障がないだけの金額を得ることができれば、バレる危険を冒してまで顔見知りがいる会社に出なくて済むわけだ。

 しかも、仮に能力がなくなっても、金は残るから生活には困らない。

 『足のつかない不正な資金』が本当にあるのかどうか。

 特に足のつかない、の辺りが。

 不正な、の段階で奪うことに罪悪感は殆どない。

 十分な金額が引っかかればいいのだが・・・。


 


 杞憂だった。

 そもそも3日もいらなかった。

 その日の内に、一生会社で働いていても稼げないと断言できる額を遥かに超える金額が手に入った。

 水晶もざくざくである。

 しかし、当然そのまま続行した。

 水晶は、ある程度貯まる度に止まって砕いた。

 余りに多く、砕くだけでも随分時間を取られるほどだったが。

 金はカバンを買って自宅に郵送した。

 トランクも埋まり、準備しておいたカバンからも溢れたからだ。

 水晶砕きに思いの外時間を取られ、予定していたほど遠くまで行けなかったが、十分すぎる成果である。

 これで心置きなく会社を辞められるというものだ。

 しかし『足のつかない不正な資金』の多さにびっくりである。

 これでも範囲で考えれば一部に過ぎないのだから、どれだけ不正が行われているのか。

 いいぞ、もっとやれ! 

 俺が有難く頂くから。


 しかし、気になることが一つある。

 水晶を砕いている時に、何時もの力が漲ってくる感覚や視界がクリアになる感覚とは別に、何かが決定的に変質したとでもいうような感じがしたのだ。

 言ってて自分でもなんだそれはって感じだが、他にいい表現が思い付かない。

 能力とかにも変化はみられなかったし、さっぱりわからない。

 悪いことでなければいいのだが・・・。

 



 水晶砕きによる身体能力の強化に苦労しながら帰宅、風呂に入っている最中にとんでもないことに気が付いた。

 ()()()()()()()()()

 鏡に映った自分を見て、一瞬誰かいるのかと後ろを振り返ってしまったほどだ。

 じっくり見てみると面影は残っているが殆ど別人である。

 体型も変わっている、前よりがっちりしているようだ。

 よく言っても並以下程度でしかなかった俺だが、随分整った顔立ちに変わっている。

 元が元だけに、今時の美形とは言えない感じではあるが。

 若返ってもいるようで、元々ふけ顔だった俺と比べると、親子で通じるレベルだ。

 焦った。

 それはもう物凄く焦った。

 これでは連休を利用して、整形手術でも受けてきたようにしか思えない。

 酷い誤解である。

 ちょっと遠出して、能力と金を奪ってきただけなのに。

 誤解ではあるが、酷い話ではあった。

 これでは自分を知っている人に会えない。

 恥ずかしすぎて。

 「藤井さん、整形したんだって。ぱっと見別人かってほど変わってるよ。幾ら掛けたんだろうね」とか言われるに違いない。

 死ねる。


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