05話
10月10日、この日は記念すべき日となった。
旧体育の日なのは偶然である。
そんなことより何が記念すべきかと言うと、遂に 他の人間 にも干渉が可能になったのだ。
近い内に来るであろうこの日を、今か今かと待っていたのだ。
これで予てから考えていた作戦を実行に移せる。
その前に実現可能かを確認する必要があるが。
前々から考えていた事がある。何故こんな能力を得ることが出来たのか。
当然結論は出ないが、仮定と言うより最早妄想だが、それであれば幾つか考えられる。
その中の一つを実際確認しようとしてみた事がある。
何をしようとしたのか、自分の中に能力の媒体があるかを膜で探したのだ。
選別対象を『特殊能力の媒体』として体に重ねてゆっくり動かす、そして感触があれば即座に戻す。それを試してみた。
結果は多分在った。
何故多分かと言うと、いざ調べようとして体に膜を重ね始めたら、直ぐ様強烈な危機感を感じたからだ。
今までにも意図せず危険なことをしようとした時などに、これはヤバいなと感じることがあったのだが、今回のそれは特に強い。
しかも指先だろうと足先だろうと、何処からでも即座にだ。
そもそも、膜は選別対象がない場合、素通りする。
この事から、能力の媒体が体全体に存在していると予想できる。
つまり、膜で選び取れるものなのだ、能力の媒体とは。
流石に抜き取ったら死ぬとかだと躊躇うが、そうでないなら抜き取り自分のものに出来ないだろうか。
酷い話ではあるが、それでも尚考慮に値する。
これは是が非でも確認したい事案である。
そう考えた後、野良の動物とかで『特殊能力の媒体』が選び取れないか試したところ、全スルー。
危機感も全く感じなかった。
やはりないものを選び取ろうとしても素通りするし、危機感も感じないと確認できた。
しかし、その辺の動物が媒体を持っていれば一番良かったのだが、流石に甘かった。
これは、他の人間に干渉できるようになるまで保留するしかないか・・・。
早速確認するべく仕事上がりに駅前へ移動、ファーストフード店に入りスマホを弄っている風を装いつつ物色する。
もうそれなりの時間だが、流石駅前まだまだ人通りも多い。
店の外の、誰かを待っているのか立ち止まってる人に狙いを定める。
先ずは選別対象を『危険がない範囲での特殊能力の媒体』としてみる。
反応なし。
次に『特殊能力の媒体』として、膜をゆっくり移動させる。
反応なし。
精神的に疲れるな、結構緊張する。
同類がどの程度いるかなんて全くわからないのだ、気長にやろう。
そう思っていたが、20分ほどで反応があった。
最初の条件で何かを抜き取っている。
しかし、胸の辺りまで膜を移動させてやっとだ。
体全体にあるのではなかったのか?
疑問はあるが後回しにする。
抜き取った人物は大学生だろうか、若い男だ。
確認のために、同じ人物に2番目の条件でゆっくり膜を重ねる。
反応なし。
その後暫くその男を観察するが、変わった様子はない。
気付いてもいないようだ。
問題なく抜き取れているようなので、媒体抜きが危険でない証明が出来たとしておく。
一安心である。
その後、トイレの個室に入る。
そこで膜を手のひらの上で解除してみると、何かもやっとしたものが出てきた。
それはすぐさま集まり、小さな色付き水晶のようなものに変化した。
これが媒体なのだろう、そのまま確認作業に入る。
そしてすぐに問題に直面した。
どうしたらいいのかわからない。
飲めばいいのだろうか?
しかし見た目は仮にも水晶であり、かなり躊躇いがある。
試しに少しずつ力を加えていくと壊れそうな感触がある、結構脆そうだ。
どうしようか悩んだ結果、後回しにすることにした。
運良くすぐに手に入ったが実はかなりレアで、扱いを間違えて無駄にしたとかだったら勿体無さ過ぎる。
媒体抜きに危険がなさそうな事は既に確認済みなのだ、先に数を揃えよう。
その場で可能な限り広範囲から媒体を集めようとして直ぐに止めた。
少し集めようとしただけで、それなりの数の感触があったからだ。
カバーを下ろして座り、脚の上にハンカチを拡げてその上で膜を解除する。
10数個の水晶が出てきた。
そして新たな疑問が生まれた。
膜を解除した時に、水晶のまま現れたものと靄が現れてから水晶になったものがあったのだ。
後、水晶の大きさ・形・色にばらつきがある。
何が違うのかわからないが、水晶のまま現れたものは似通った普通の透明なものばかりで、靄が水晶になったものに形や色のばらつきがあったような気がする。
とっさのことでよくわからなかったが。
ならば確認すればいいだけである。
媒体を一旦全てポケットに入れ、再度膜で媒体を集める。
よく見たお陰で判別できた。
確かに水晶のまま出てきたものは、さっきの物と似通ったものばかりだったが、靄が水晶になったものにはばらつきがある。
少し大きいだろうか?
形と色は多彩だ、一つとして同じものがない。
ここまでやってふと気が付いた、長時間店のトイレを占拠しては迷惑だ。
一旦出よう。
ポケットに入れていた分も纏めてハンカチに包んでカバンに入れ、トイレを出てそのまま店も出る。
続きは帰ってからじっくりしよう。
そわそわしながらやっと帰宅。
道中気になって仕方なかったのだ。
早速取り出して確認してみる。
合計で30数個ほど、内10個弱が色付きだ。
普通に考えれば、色付きがレア透明がコモンだろう。
透明なものを手に取りじっくり観察する。
ふむ、全くわからない。
当然だ、俺は専門家などではないのだ。
しかしどうしたものか。
手には入ったが使い方がわからない、やはり飲むしかないのか・・・。
覚悟を決めて飲み込もうとする。
止めた、やはり水晶に見えるものを飲み込むには躊躇いが強い、覚悟は決まってなどいなかった。
考え方を変えよう、こういった能力を取り込むパターンで飲み込む以外はなかっただろうか?
・・・砕く、というのはどうだろうか。
頭には、アニメとかで見た砕いたアイテムが光の粒になって舞い、体に吸収されるシーンが思い浮かんでいた。
試してみる価値はある。
数はそれなりにあるわけだし、何より飲み込むより精神的に楽だ。
透明な方を手のひらに載せ、親指で押してみる。
さっき試したときの感触だと、この程度でも壊せると思う。
そして少しずつ力を入れると壊れた。
すると水晶は跡形もなく消え、何かが体に入っていくような妙な感じがした。
その直後、急に力が漲ってくる。
かつて1度味わったことがある、能力が大幅に強化されたときの感覚だ。
前回同様、視界がクリアになったような感覚もある。
急ぎ膜を出してみると、今日やっと11枚展開できるようになったばかりだったはずなのに、12枚展開出来るようになっていた。
驚きである。
喜び勇んで透明な方を全て砕き、次に色付きに手を出そうとして止まった。
レアっぽいこれは別に確認したほうがいいのではないか?
そういう考えが思い浮かんだのだ。
少し落ち着こう、先ず今の段階での状態を確認するべきだ。
時間を空け、落ち着くために風呂に入った。
気になって気になって、洗い方が雑になったが偶にはいいだろう。
風呂に入りながら、展開枚数を確認した。
なんと驚きの32枚、3倍近くに増えている。
ここまでくるともう多すぎて関係ないなとは思ったが、展開枚数を見るのが一番手っ取り早い確認方法なので、それでいいかと思っておくことにした。
後はもう一度自分に『危険がない範囲での特殊能力の媒体』で膜を重ねてみる。
やはり即座に強烈な危機感を感じる。
最初の人は胸の辺りで媒体を抜き取ったはずだが、これはどういうことだろうか。
考えてみたが結論は出ない。
というか、残りの水晶が気になって集中できない。
媒体自体は抜き取れたのだし、自分の媒体を抜き取ることなど有り得ないのだから、どうでもいいか。
風呂から上がり、残りの水晶を見る。
色や形はばらばらで、気持ち透明なものより大きい気がするそれらを順番に砕いていく。
感覚だけでいえば、透明なものの時とそれほど変わらないのだが、全て砕き終わってから確認すると、展開枚数43枚、色付きの方がいくらか割がいいようだった。
実に美味しい強化方法を見つけたものである。
能力を奪うのではなく糧にしたって感じだが、弱い能力を多く持つより、強い能力を一つ持つほうがいいと相場は決まっている。
言うなれば、スペシャリストである。
そもそも、俺の能力は元々弱いが応用が利く。
他に手を出すより強化した方が都合がいいだろう、結果論だが。
しかし、濾過のスペシャリストか。
間違ってはいないのだが、これは・・・。
罪悪感がないわけではない。
自分があれほど狂喜乱舞した特殊能力を、人から奪って自分のものにしているのだ。
だが見も知らぬ他人を自分より優先するほど人間できてはいないし、何より思い浮かぶのは、ネットの発動できない同類と思しき連中である。
全てがあの連中と同じなわけがないのは承知しているが、それでもあれを見た後にあの連中を尊重しようなどとは思わない。
何より発動できていないのだ。
そしてその見込みすらもない、と思う。
某邪『神』的宇宙人も「ばれなきゃ犯罪じゃないんですよ」と仰っている事だし。
きっと大丈夫、セーフだ。