04話
あれから更に二月が経った。
情報収集に関して、ネットでちょっとひどい事になっている。
発動できないだけの同類ではないかと思しき連中が、某所に集まりだしているのだ。
そこは自身の能力を晒し合い、試行錯誤を重ね、どうにかして能力を使おうとしている連中の溜り場だった。
はっきり言ってドン引きである。
余りにガチ過ぎる。
その必死すぎる様は、事情を知っている(あくまで予想通りならだが)俺をして、第一声が「うわぁ・・・」だったことから察してほしい。
いっそ助言の一つも伝えようかと思ったが止めた。
最初から使えた俺が、使えない連中にどんな助言を与えるというのか。
使い続けろとか? そもそも使えないのに? 助言ではなく喧嘩を売っているだけである。
仕方がないのでただ生暖かく見守るだけである、それしか出来ないし。
ただ、ここでのログからかつて予想した、MP的なものが足らず発動しないだけで能力自体は得ている可能性が増したと思っている。
何故なら、それはもう凄いのだ、連中の語る自身の能力が。
そんなこと出来たら最早神とかじゃないのか、と言いたくなるような凄まじい能力ばかりである。
お前ら欲張りすぎだろう!
俺なんて空気洗浄機だぞ!
神と空気洗浄機、余りに余りな格差である。
そう考えると同情する心もなくなっていく。
連中は放置でいいだろう。
経験から考えるに、能力が使えるようになる日が来ることはないだろうし。
ただ、堂々と試行錯誤の結果を晒してくれているから、それなりに有効なので今後も覗きにいこうと思う。
勿論頭からは信じず、自分で確認するまで信用はしないが。
その他の情報源は相変わらずさっぱりである。
どうしても身バレを避けるためには大きく動けない。
焦燥感を感じなくもないが、もう一つのお陰でそれほどでもない。
そのもう一つ、能力強化に関しては、順調の一言である。
最たるものは、小動物くらいの生物にも干渉できるようになったことだろう。
ただ、これ自体は特に有益ではなかった。
動物病院でもやっていれば、話は違ったのだろうが。
それは別にしても、膜の展開枚数は9枚に増えているし、面積・射程・容量・強度の全てが強化されていっている。
ただ、新しい有効な運用方法は思い付かなかった。
正確には、思い付くだけなら色々思い付いているのだが、どれもが何かしら問題あるのだ。
とはいえ、このまま順調に強化されていけば、そう遠くない将来、問題は解決して運用可能になっているだろう程度の問題だ。
今から実に楽しみである。
そんなある日、俺は問題があるけど活用できなくはない、ある運用方法を試すため、有給を使って3連休を作り、車で遠出をしている。
傍目にはただ走り回っているだけにしか見えないだろうが、勿論能力を使いながらの移動である。
では何を選別しているのか『所有者或いは占有者が特定できない貨幣』である。
簡単に言えば、落ちている金を拾っているのだ。
出来ること自体は既に確認済みであったが、普段移動できる程度の範囲では、狭くて余り有効ではなかったのだ。
しかし今回は3連休、思う存分回収しまくるつもりだ。
とは言え、引っかかるのはほぼ全て小銭、1円10円ばかりである。
わかっていたことだが。
行く先々の銀行で、貯めていた小銭を預けに来ました的雰囲気を出しながら、しれっと集めた金を預ける。
でないと邪魔過ぎるからね、数だけはあるから。
しかも、調べられてもわかり難いように、予め作っておいた幾つかの銀行の口座を利用する手の入れ様。
そこまでやる意味あるのかと自分でも思わなくもないが、この程度の手間を惜しんでバレようものなら、それこそ馬鹿らしい。
そうこうしている内に3日目も終わった。
数だけはあっても大半は所詮小銭、それだけなら大した額にはなっていないはずだが、それなりの金額になった。
多分忘れ去られたへそくりとかが引っかかったからだろう。
旧貨幣とかあったし。
この運用方法の問題点とは、射程の短さである。
短いと言っても数km近くはあると思うけど、土地で考えると数kmなんてそこからそこだ。
面積分を伸ばしても高低差を考えると精々数倍程度、大変わりしない。
大きな目の笊で掬っても、殆どが零れ落ちてしまう。
つまり、それがこの運用方法の問題点だ。
だがまぁ、運が良かっただけだがそれなりの収穫もあった。
今日はこれで豪勢な晩飯でも食べよう。