08話
遠い、お互いに存在を認識すらしていないほど遠い国から来た俺が、何故この場にいるのかを説明をした。
正直苦しいかなと思わなくもないが、意外に納得しているようであった。
『なるほど、国風が合わなかったのだな。そして柵のない場所を求めて、この地に辿り付いたと。』
それなりに長い説明を、3行で纏められた。
少し悲しくなった。
だが正確に伝わっているようで何よりではある。
俺の説明を聞いて、何やら考え込んでいる代理。
無言で反応を待つ俺。
そして、やっと反応があったと思うと『それでは、俺に仕えてみないか。悪いようにはしないぞ。』などと言い出した。
流石に想定外だった。
評価してもらっているのはあり難いが、受けるわけにはいかない。
サクヤと会う時間が減るではないか。
「申し出はあり難く思いますが、申し訳ありませんがお受けする事はできません」
と断るも、気を悪くした風もない。
ダメ元だったのだろう。
『そうか。貴殿ほどの者を召抱えられれば、さぞ役に立ってもらえたであろうが、出奔の理由が理由だ。致し方ないのであろう。』
出奔した気は全くないのだが、そう思われているようだ。
まぁ、普通はそうなるか。
とはいえ、ごり押しされなくてよかった。
平民ですらない、他国からの流れ者が相手だ。
断ろうものなら、何をされるかわかったものではない。
尤も、命の恩人に無茶振りはしないと思いたい所ではあったが、大丈夫なようで一安心である。
因みに大丈夫ではなかった場合は、他国のダンジョン近くの街に移動するつもりだった。
どうせダンジョンさえあればワープで移動できるのだ、ここである必要性はない。
「今後は身分証目的を兼ねて冒険者ギルドに所属し、依頼をこなして生活費を稼ぎながら、見聞を広めていきたいと考えております」
『そうか。では今後何か依頼をするかもしれないが、その時は頼んだぞ。』
「俺に可能な事であれば」
貴族が相手だ、不用意に同意はしない。
その後も歓談は続く。
何でも、二人の子供はもう一人娘がいて、今年から王都にある学院に通い始めたのだとか。
この国の貴族は、10歳から5年間その学院で学ぶのが習いとなっているらしい。
そして各貴族家で程度は違うが、学院で恥をかかない為に予め学んでおくのだそうだ。
既に通い始めた娘と男の子は公爵家の子となるので、学院で学ぶ事は全て学んでから通う事になるらしい。
学院の存在意義が危ぶまれる話である。
俺が同席の許可を得た、男の子の教育が正にそれなのだとか。
というか、公爵?
その事について聞くと、とんでもないことを言われた。
この領主代理、王弟らしい。
ただし、既に臣籍に下り王位継承権も放棄しているので、元王族との事。
ただ、子供たちには王位継承権があるらしいが、未成人なのでまだ順位はないとか。
元王族の公爵が何故代理なのだろうか気にはなったが、余り深入りするのも危ないかと思って聞かずにおいた。
日も翳り始めた頃、ようやく街に着いた。
領主代理が乗る馬車だ、勿論素通り。
そのまま街の中心のほうへ向かう。
門を通過する事4度、一番中側の区画に入った。
恐らく貴族の為の区画なのだろう、途端に静かに、そして整然とした雰囲気となる。
なおも中心に向かう馬車がようやく止まったのは、街のほぼ中心にある一際大きな敷地内の屋敷だった。
因みに、街並みなどは直接見たわけではない。
あくまで、『風魔法』による探査で調べていただけである。
先触れでも出ていたのであろう、馬車を降りるとずらっと出迎えている使用人の列。
おぉ、こんなもの初めて見た。
少し感動する。
夫人は代理がエスコートしていたので、男の子は俺が下ろしてあげる。
にこにこしていて、実に楽しそうである。
そしてふと気が付く。
俺の年齢だと、子供どころか孫くらい歳が離れているのだ、と。
地味にショックだ。
まぁ、不老不死を得た身として、今更な話ではあるが。
そして夫人と共に、堂々とその列の中を進んでいく代理。
気品すら感じる。
流石元王族だと感心する。
きっと幼い頃から、立ち居振る舞いを厳しく躾けられているのだろう。
そう考えると、貴族というのも大変だな。
安易に羨ましがる類のものではないのかもしれない。
勝手な推測だが、大間違いではあるまい。
扉の前で待っていた、いかにも執事然とした老人が頭を下げる。
それに返事をしつつ中に入り、指示を出しているのだろう何かを話している代理。
それを受け、更に傍のメイドへ指示を出す推定執事。
彼らを置いて奥に進む代理、俺はどうすればいいのだろうかな。
すると、振り向きこちらに何か言っている。
メイドが近くに寄ってきてメモを見せる。
『執務室で話をするので、ついて来る様に。』
早速か、こちらとしては構わないが。
代理についていくと、ある部屋に入っていくのでその後に続く。
落ち着いた雰囲気の部屋だった。
奥に立派な机があり、手前には応接用のテーブルとソファー。
促されたので、ソファーに座る。
後について来ていたメイドも、代理の後ろに控えている。
この場にはこの3人限り。
あ、話すのはいいけど極力聞かれたくないのだが、その場合通訳はどうすればいいのだろうか。
元王族の代理に書かせる訳にもいかないだろうし。
何も考えていなかったな。




