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03話

 馬車から降りていた貴人に、頭を下げながら偽名を名乗る。

 世界が繋がっているのだ。

 もしかしたら神隠し的手段でこっちに来ている地球人がいるかもしれないし、今はいなくても今後は来るかもしれない。

 そう考えると、本名をそのまま名乗るのは無用心だろう。

 因みに苗字は風の神から取った。

 俺が唯一使える基本魔法が風だからな、それ繋がりだ。


 俺の挨拶に対し、何やら言っているが全く理解できない。

 しかし、こんな事もあろうかと準備しているものがある。

 ただのメモ帳だけどね、後ボールペン。

 それを収納から取り出し、相手に差し出しながら説明する。

 「俺は『言霊』持ちなのでこちらの言葉は通じていると思いますが、残念ながらそちらの言葉は理解できません。ですが『鑑定』を使えば意思疎通は可能ですので、これに伝えたい言葉を書いていただけますか」

 それを受け、貴婦人が後ろに控えているメイドに指示を出し、そのメイドが前に出てきてメモ帳とボールペンを受け取る。

 早速何やら喋る貴婦人と、それを書き出すメイド。

 すぐさまメイドが驚きの声をあげて貴婦人に何かを言っているが、貴婦人に窘められて直ぐに書き出しし直す。

 書き終わったメモを、こちらが見えるように見せるメイド。

 『鑑定』すると、『危ない所を助けていただき有り難う御座います。私はベアトリス・ド・ステュアート。この先のテスタントの街の領主代理の妻です。この子はクロード、私の長男です。』とあった。

 馬車は今来た方を向いている。

 つまり、さっき見た街がテスタントで、そこの領主代理の夫人と長男が襲撃を受けていた、と。

 大問題じゃないか!

 となると、この監視者二人の重要性が大きく上がる事になるな。

 「ステュアート夫人とクロード様ですね。こちらの二名が離れて襲撃を窺っていた者たちでございます」

 そう言って、風の手で掴んでいた二人を前に持ってくる。

 すると驚きの声が、後ろに控えていた騎士らしき者たちから上がる。

 何やら慌てて夫人に報告しているようだが、理解できない俺は反応しようがない。

 仕方がないのでメモ待ちをしていると、夫人の言葉をメイドが書き始める。

 それには『この者たちは指名手配されている、テスタントの前代官と闇ギルドのギルドマスターの側近だと護衛の騎士が申しております。捕まえていただき有り難う御座いました。彼らの身柄はこちらで預からせていただきますが、後ほど先ほどのお礼とは別に報奨金をお支払いさせて頂きます』とあった。

 読み終わると、メイドの何か言いた気な視線に気が付く。

 「読み終わったよ」

 と答えると、またメモに書き始める。

 あぁ、長くて書ききれなかったんだな。

 少し待つと書き終わったのか、またメモ帳を掲げてくるので読む。

 『貴方がこの二人を捕まえに行っておられる間に、護衛の者を一人街へ使者として送りました。遠からず夫である領主が兵を送ってくれるはずですが、護衛の騎士も減り不安がありますので、その間護衛として雇われては頂けないでしょうか。勿論報酬は別に準備させて頂きます』とある。

 これ、実質選択の余地ないよね。

 ダンジョンの最寄の街の領主代理の妻の護衛依頼、断ろうものなら最悪街にいられなくなる。

 尤も、断る気はないから関係ないが。

 既に十分恩を売っているとは思うが相手が相手だ、売れるだけ売っておいて損はない。

 もっと言えばこの夫人、綺麗なのだ。

 外見の事ではない。

 いや、外見もかなり綺麗だけどね。

 さっきの襲撃者たちと比べても随分綺麗な人だ。

 でも今言っているのは外見の話ではなく、『魔眼』で見た気などの話だ。

 サクヤほどではないが、それでもそうそう滅多に見ないレベルで綺麗なのだ。

 こういう人は、接していて気持ちがいい。

 そんな人物から、こちらにも利のある話を持ちかけられたのだ、断る理由などない。

 「承りました。微力を尽くしましょう」

 と言って、頭を下げる。

 「さしあたって、生け捕りにした襲撃者たちはどういたしましょうか?主犯格と思しきこちらの二名を捕まえた以上、余り重要性は高くないと思われますが」

 後ろで護衛の何人かが、せっせと気絶している襲撃者たちを縛っていっているのが見える。

 ただ、その表情は憎々しげだ。

 世界観から想像するに、襲撃があった場合護衛が全滅か襲撃者が逃げ出すか、どちらかになるまで戦闘が続いていただろう。

 そして護衛が明らかに劣勢だった。

 つまり、俺が加勢しなかったら、護衛たちは皆殺しにされていた可能性が高い。

 更に言えば、同僚が数人殺されているのだ。

 にも拘らず、生きたまま捕らえられている襲撃者たち。

 それを思えば、あの表情も当然の事だろう。

 しこりが残るかもしれないし、それが俺に向かってきても困る。

 何かしら対応が必要かもしれない。

 例えば・・・酒の差し入れとか?

 などと考えている間に、メイドがメモを書き終わるので読む。

 『盗賊などの犯罪者の身柄は、捕まえたものの所有となります。一般的には生け捕りなどしませんが、奴隷商に売って金銭を得るか衛兵に引き渡して報奨金を得るかになると思います。そして、この狼藉者たちは貴方が倒されたもの。貴方に所有権があります。』とあった。

 なるほど、奴隷商とかいるのか。

 選択肢としては、奴隷として売って金を得るか、衛兵に引き渡して金は減るが恩を売るかって所だろうか。

 それなら悩むまでもないな。

 「そういうことでしたら、その者たちの身柄はお渡しいたします。後は貴女様や護衛の方たちで、好きなように扱ってください」

 そう、正に対策を考えていた所に良い案が出てきたのだ、当然乗るだろう。

 この世界で使える金の持ち合わせはないが、報酬としてそれなり以上の金は手に入るだろうし、当面の資金さえあれば、後はダンジョンで稼ぐなり、死蔵している素材を売るなりどうとでもなる。

 そんな事より、領主代理の妻の護衛を任されている騎士たちの不満が、こちらに向かないようにすることの方が遥かに重要だ。

 変に逆恨みでもされようものなら、今後の街での生活に支障をきたす可能性すらある。

 その可能性を回避できるのなら、この程度安い出費というものだ。



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