15話
リターンを習得してから、5年ほど経過した。
相変わらずの修行三昧、いい加減慣れた。
それどころか、今では楽しみすらある。
何がかというと、毎日のティータイムだ。
前までは、普通にテーブルに向かい合ってお菓子を楽しみつつお茶を飲んでいたのだが、ちょっと前から様変わりした。
きっかけはほんの出来心で言っただけの冗談だった。
ただそれをサクヤが冗談と受け取らず、しかも承諾してしまった事だった。
具体的には、サクヤのティータイム中に俺は膝枕をしてもらって休むというものだ。
しかも手ずからお菓子を食べさせてもらうというサービス付き。
俺が言ったのは膝枕だけだったのだが、寝ているとサクヤが食べさせてくれるようになったのだ。
今ではこの時の為に修行を頑張っている気さえする。
修行は順調だ。
もうそろそろダンジョンの外に出ようかと考えている。
寧ろまだ出てなかったのかという声が聞こえてきそうなほどではあるが。
言い訳をすると、修行なんて切りがないものだ。
今回のように時間に制限がない場合、何処までやれば満足するのか、それに尽きる。
なので俺は十分な準備をと考えた。
今までの自分の常識が通じない場所に行くのだ。
特に一般的な強さなどの情報はサクヤからも得られない。
ないとは思うが強さが足りない場合でも、一朝一夕に強くなどなれない。
それで死んでしまえばお終いなのだ。
時間はあったのに準備が不十分でした、では笑い話にもならない。
なので入念に準備という名の修行をしていたのだ。
お陰で随分強くなった。
魔法は勿論そうだし、それを組み込んだ戦闘にも慣れた。
今なら魔法の濾過膜なしでも、その辺の雑魚にも勝てる。
・・・・本当に強くなったのか微妙な表現だな。
まぁいい、異世界に行けば地球のしがらみはない。
なので今までほどには隠さないつもりだが、それでも全力など出す気はない。
魔法の濾過膜などは存在すら教える気はないし、レベルも随分下に見せるつもりだ。
だが隠してばかりでは異世界生活を楽しめないので、それなりには見せる。
具体的にどの程度かは、実際行ってみないと判断できないが。
なのでどうしても魔法の濾過膜なしの戦闘技術を上げておきたかったのだ。
だがそれももうそろそろ終わりだ。
後はどうやってサクヤに切り出すかだな・・・。
その数日後、意を決してサクヤに話をする。
「そろそろ異世界側のダンジョンの外に出ようと思うんだ」
「・・・そうか」
途端に悲しげな顔をするサクヤ。
最近ではそんな顔は全然見せなくなっていたのだが、そんな表情を自分がさせていると思うと取り消したくなるが、今更引くに引けない。
「そうは言ってもちょくちょく帰ってくるつもりだがな。俺の家はここにあるのだから」
「そうか・・・そうだな」
そういって少し嬉し気に笑う。
やはり帰ってこなくなる事を心配しているのか。
「では餞別にこれをやろう」
そう言って棒状のものを2本収納から出すサクヤ。
「これはタツヤが使っている小太刀を模して作ったものだ」
受け取ってみると、確かに俺の使う小太刀とよく似ている。
「これは我の牙から削り出して作った小太刀でな、中々の出来だと思うぞ」
席を立ち抜刀して軽く振り確かめてみるが、殆ど同じ感覚で扱える。
「これほどのものを何時の間に・・・」
「何、タツヤが修行中にな」
「いつか出て行ってしまうのはわかっていたのだ。ならば何か形に残るものを受け取って欲しくてな」
まるで最後の別れのような事を言い出す。
「さっきも言ったが、今となっては俺の帰る場所はここだからな」
「わかっておる。あくまで作り始めたときの心境はという話だ」
「それならいいが・・・。ともあれ、これはあり難く頂くよ」
「後はこれらも持っていけ」
そう言って更に色々取り出すサクヤ。
「回復薬にその他色々か、これもあり難く頂くよ」
「うむ、タツヤの好きなように使ってくれ。薬はまた作り置きをしておくから、減ったら言うのだぞ」
「サクヤの薬は冗談みたいによく効くからな。助かるよ」
「うむ、手慰みに上げただけであったが、『錬金術』スキルも大いに役立っていたな」
「全くだな。あれのお陰で随分修行の効率が上がった」
地獄度もうなぎ登りだったがな。
「・・・じゃあそろそろ行くよ。今回は最初だからどれくらいで戻って来られるかわからないが、長くても2~3ヶ月で一回戻る」
「そうか、タツヤを害せるものなど早々いないであろうが、気をつけるのだぞ」
「あぁ、わかっている。土産話を楽しみにしていてくれ」
「・・・行ってらっしゃい」
少し寂しげな笑顔でそう言うサクヤ。
「行ってきます」
毎回思うが、美人に見送られるのはいいな。
これで寂しげでなければもっと良かったが、それは俺の所為でもあるから致し方なし。
この頃は寂しげに見送られる事もなくなっていたのだが、今回はやはり気にしているんだろうな。
長くても2~3ヶ月とは言ったが、極力早く帰ってこよう。
そう心に決めて、『隠密』を使ってから『烈風魔法』で空気の屈折率を変えて透明化する。
いわゆる光学迷彩という奴だ。
そこまでした上で、リターンを発動させる。
転移した先は、いつもの陥没したかのような地の底の魔方陣の上。
人がいても大丈夫なようにしてあるが、丁度誰もいなかったのでそのまま坂を上っていく。
ここはアメリカとかと同じように陥没部分を高い壁が覆っていた。
上った先には壁で通路が出来ていたが、何故か曲がっている。
180度くらい曲がっただろうか、ゆっくりとしたカーブでちょっとした距離がある。
その先の壁の切れ目に、守衛と思しき人影が二人分。
えらく重装備だった。
そんな重装備を着込んで門番とか、体力は大丈夫なのだろうか?
兜で顔は見えないが、周囲に気を配っているのはわかる。
大丈夫であろうが、更に気配を殺してこっそり抜ける。
抜けた先には平野が、左右にはかなり距離があるが森が見えた。
姿は隠したまま『烈風魔法』で体を上空に浮かべる。
視界には、かなりの広さの平野とその先の何処までも続く広大な森が見えた。
そうして俺は、遂に異世界に降り立ったのだ。
第二章 完




