03話
能力を得たあの日から、二月ほどが経過した。
情報収集に関して、進展といっていいか悩む程度ではあるが一応進展があった。
中二病連中に混じって、ちょっと毛色が違う人達が現れ始めたのだ。
その人達は総じて、こんな凄い能力を得たと言う。
しかし、何かが足りず発動できないとも言う。
確かにその人達が言う能力は凄いものばかりだ。
俺とは格が違うといっていいだろう。
気になるのはその後、『何かが足りず発動できない』の部分だ。
これを俺の場合に当てはめて考えてみると、凄い能力を得たがMP的なものが足りずに発動に失敗している、と考えられないだろうか。
余りに弱い俺の能力でもあの様だ。
それだけの能力なら、相応に消費も多いのではないだろうか。
まるで昔やったゲームに出てきた、メギ〇ラオンを使おうとしてMPが足らず、発動に失敗するピ〇シーのようではないか。
そう考えると、一概に嘘と言えないかもしれない。
詳しく話を聞きたいところだが、その人達は大抵ホラ吹き扱いされ、すぐに怒って去ってしまう。
連絡手段もなく、2度と戻ってこないのでどうしようもない。
他には、ちょっと前から幾つかの新聞や雑誌にも手を出し始めたが、此方はさっぱりだった。
オカルト雑誌などには気になることが書かれる事もあるが、元が元だけに嘘か本当か、関係あるのかないのか全くわからない。
ただ一つ言える事は、俺のようにはっきりと能力を使える人が表に出てきていないということだ。
隠しているのか使えないのか、もしかすると本当に俺だけが特別なのかもしれない。
もしそうであるなら優越感を感じるところだろうが、違和感しか感じない。
俺はそんなに思い上がれるような性格じゃない。
それ以外には、これといって関係しそうなニュースは見当たらない。
見落としてるだけかもしれないが。
能力の強化に関しては、とても大きな成果が出ている。
少し前のある日、いつも通り空気洗浄をしていた時に、急に力が漲ってきたのだ。
更に言うと、目から鱗が落ちたようなとでも言えばいいのか、視力自体は変わっていないが、妙にクリアに見える感覚を覚えた。
これはと思い、急いで膜を使うと明らかに強化されていた。
強化というか、最早別物といってもいいのではなかろうか。
先ず、直ぐにわかるだけでも膜の面積がk㎡単位に、射程も数km先まで届いているようだった。
面積を拡げていく途中、このサイズだと見える人がいると隠しようがないな、とか考えていると見えなくなった。
しかし自分には在るのが感じられる。隠蔽能力まで付いたのだろうか。
次に、他の事も順次確認していくと、今までのは一体なんだったのだろうかというほど強化されていた。
膜を5枚同時に展開できるようになった。
膜を出し続けてもそれほど消耗しない。
膜内の謎空間の容量も増えている。増えすぎててちょっと確認が難しいほどだ。
膜の強度も上がっている。それでも所詮膜だが。
そして最後に、待望のーー
生物への干渉 が可能になった。
尤も、可能になったといっても虫や植物ぐらいで、小動物にすら干渉できないままだったが。
例外として、自分自身には干渉できるようだ。
これは朗報である。
なにせこれで大抵の病気にならず、老化すら抑えられるからだ。
俺ももう40前だ、老いを感じることもある。
しかしこれからは、膜を使い病気の元を取り除くことも、老化の原因と言われているものの一つ、さびを取り除くことも出来るだろう。
そして実際自分に使ってみる。
選別対象は、『健康を害するもの及び老化の原因』だ。
相変わらずそんな曖昧な設定でいいのかと悩むが、何故かちゃんと作用する。
効果はよくわからなかった。
考えてみれば当然である。
今は別に病気じゃないし、老化を感じることがあるとは言ったが、今は力が漲っている。
明らかにタイミングが悪い。
ただ、『健康を害するもの及び老化の原因』で何かどろっとしたものと多分タールが抜き取られていた。
コレステロールとかだろうか、よくわからないが気持ち悪いのでトイレに流す。
それと喫煙者でもないのに、タールと思しき物が抜き取られていることが微妙な気分にさせる。
吸うなとは言わないが、分煙はしっかりしてほしいものである。
ともあれ、能力の大幅な強化により、別物と言ってもいいほどの変化を遂げた。
運用方法も変えていくべきだろう。
何が出来るようになったのか、考えながら試していこう。
確定しているのは、今まで通りの空気洗浄だろう。
ただし、出したままでも余り苦ではなくなっているので、常時体表を覆うような形で展開し、定期的に交換する。
自分でも見えなくなっているから大丈夫だとは思うが、これなら見える人に見られても気付かれないだろう。
さて、どんなことが出来るか、正に夢が広がるね。