13話
風呂場の確認が終わった後、またテーブルに戻ってきた。
「色々注文まで付けて、悪かったな」
「気にするな、それでタツヤが喜んでくれるなら我も嬉しい」
「物凄く喜んでいるよ。そうそう、これを食べてみてもらえるかな」
そう言って取り出すのは、『白龍堂』の和菓子だ。
「おぉ、言っていた新しいお菓子か」
そう言って手を伸ばすサクヤの前に、お茶のペットボトルを置く。
サクヤの食べっぷりを見るに、気に入ってもらえたようである。
わざわざ会社から作った甲斐があるというものだ。
相変わらずいい勢いでなくなっていくので、新しい別の和菓子を出す。
そして自分でも一つ摘んでみる。
・・・・美味いな、これ。
ちょっと呆然としてしまった。
流石職人、既製品とは訳が違うな。
ちょっとした味見以外では初めてちゃんと食べたが、驚きの美味しさだ。
一つのつもりだったがもう一つ摘む。
目の前には物欲しそうなサクヤ。
最初からそのつもりだったので、箱ごと目の前に押し出す。
嬉しげな笑顔を見せて、また食べ始めるサクヤ。
そんなサクヤを見ながら残りを食べる俺。
幸福すら感じる一時である。
暫くして、食べ終わったサクヤに感想聞くと
「実に美味しかったぞ。前まで食べていたものに勝るとも劣らない美味しさだった」
と、いい笑顔で答えてくれた。
だが俺としては、肩透かしを食らった気分だった。
もっと喜んでもらえるとばかり思っていたが、まさかの既製品と同列評価。
自分でも食べたがこの和菓子、既製品などとは段違いに美味しい。
もしかして味音痴か?
そうも思ったが、別の可能性も思い浮かんだ。
思い入れだ。
初めて食べた、そして数ヶ月それを食べ続けた事で、あの味に対して思い入れができてしまっている可能性だ。
それはそれで嬉しいが、会社まで作って作らせた甲斐が・・・。
いや、喜んでくれているからいいんだけどね。
金も死蔵させているよりは、遥かにマシな使い方だし。
俺も美味しいお菓子が食べられるし。
・・・・・もっと発破をかけて、美味しいお菓子を作らせなければ。
その後、先ほどのお菓子は和菓子という俺の国のお菓子で、この為に会社を作って作らせたものである事を伝えた。
そして会社への指示や回収する為に、週に1度くらいは顔を出さなければならない事も伝えた。
そう伝えると悲しげな顔は見せたものの、直ぐに納得してくれた。
そんな顔をさせたくはないが、こればっかりは仕方がない。
文明世界を捨ててここに住み着く気でもなければ、最低でも定期的に活動しなければ戸籍が消える。
どちらかしか選べないなら兎も角、片方だけを選ぶ必要はない。
・・・・言い訳だな。
結局の所、どちらかだけを選べないから先延ばしにしているだけだ。
サクヤを悲しませたくないから、自分の世界を捨てる。
若しくは自分の世界だけで生き、もうサクヤには会わない。
そのどちらも選べない半端者。
そんな極端な選択をできるものはそうそういないだろうが、サクヤのあんな表情を見てしまってはそんなことも考えてしまう。
サクヤをここから連れ出せる手段があればいいのだが・・・。
そこからはサクヤ先生による、厳しい厳しい魔法の修行が再開された。
今まで通りの風系統の魔法の修行と、俺の提案による『空間魔法』のダンジョン脱出魔法の習得である。
何故そのような魔法の習得を考えたのか?
それは俺がダンジョン外に行く為には、通常一度攻略をしなければならない為だ。
本来ダンジョンとは入り口から奥を目指すものだ。
だがこのダンジョンに限っては、俺は逆に奥から入り口を目指そうとしている。
つまり入り口で魔方陣に登録していないので、転移で入り口に戻れないのである。
ではどうするのか。
勿論ただ歩いて踏破するのである、通常であれば。
だがそこで一つ問題がある。
ボス部屋がなく、ボスが常駐しているタイプの階層のボスは、時間の経過で強くなっていくのだ。
勿論全てがではないだろうが、少なくともサクヤがそうだし、深層のボスならそういうタイプも少なからずいるであろう。
とはいえ、ただ倒すだけなら問題はない、筈である。
問題は倒した後、再度ボスが湧く時には結果的にボスの弱体化が起こるであろう事だ。
既に倒してしまっている地球側のボスはどうしようもないが、強いボスは倒さず残しておく方がサクヤの、そしてコアの安全が増すというものである。
というか、地球側のボスは倒さないと奥に進めなかったから仕方がないわけだが。
サクヤの存在も知らなかったし、『空間魔法』の習得条件も満たしてはいなかったし。
以上の理由により、長く存在することで強くなっている深層のボスを倒さずに入り口に辿り着きたい。
本来は無茶な話だが、俺には『空間魔法』がある。
ワープと違って、登録されていないだけの道が繋がっている魔方陣間の移動をするだけなので、十分可能だろうと考えたわけだ。
そしてそれは実際に可能だった。
ただ、そこでサクヤ先生の出番です。
彼女はそれだけでは使い捨てになるからと更に改良を加えて、魔方陣間だけではなくダンジョン内なら何処からでも入り口の魔方陣に転移できる魔法の開発を行ってしまった。
しまったのだ。
結果、修行が激化した。
前回のワープの時ほどではなかったが、それでも十分過ぎるほどに厳しい修行の日々だった。
1週間かからなかったけど。
因みに、今回の魔法も自分専用である。
ソロでしかダンジョン探索する気がないので必要ないからだ。
そうして俺はダンジョン外に出る手段を手に入れたのだった。
修行が終わっていないから、実際に出るのはまだ先になるけどね。




