02話
魔法の濾過膜
名前だけでも大体わかるであろう、名は体を表す様な能力だ。
それでも効果を説明するなら、選別になるだろうか。
使い方はこうだ。
先ず薄い膜をイメージする。
これはイメージで大きさが変わるが厚さは変わらない、膜だし。
イメージした膜は基本正方形で、ある程度形を変えられる。
ただし効果範囲というか、面積に上限がある。
1㎡位だろうか、それ以上は拡げようとしても拡げられない。
また射程もあり、膜を体から1m程も離すと、壁に当たっているかのように動かせなくなるのだ。
後は表裏があり、片面のみとか両面で別々のものを選別するとかも出来る。
何も設定しなければ、すべてを通す膜というより枠だが、このような膜を選別させたいものと重なるように通過させる。
すると選ばなかったものはそのままに、選んだものだけが膜に抜き取られるのだ。
しかも、選び抜き取ったものは膜内の謎空間に入っていって、通過させるときに引っかかる事もなく、膜を解除したらその場に現れるという仕様。
何故か入っていく感覚もある、つまりない場合はないとわかるのだ。
ただ、謎空間にも容量があるようで、ある程度入れ続けると、もう選び取れなくなる。
というか、感覚でわかる、もう入らないと。
更には、重い物は選び取れず、無理に選び取ろうとすると霧散する。
きっと破れるのだろう、膜だし。
他には、この膜出したままに出来ない。
そもそも、使用にMP的なものを消費していると思われるが、出したら消費ではなく、出したままでいると消費し続けるようだ。
しかも、時間の経過で消費量が跳ね上がる鬼仕様。
初日にぶっ倒れたのは、多分これが原因である。
使い続けると、最初は全く気にならない程度でしかないが、どんどん力が抜けるような感覚が強くなり、ほんの数分ほどでこれ以上はやばいなって感じるのだが、ハイテンションの余りそれに気付かず使い続けてしまったのだろう。
この鬼仕様のせいで、大きなものを選別するときは、一度出したら終わるまで使うより、小まめに区切って出し直す方が疲れない。
最後に最大の問題点、生物に干渉できない。
微生物、カビとか細菌とかそういうものは問題なく選び取れるようなのだが、生物にはそれが虫でも植物でも干渉できない。
とはいえ、厳密には生物の内部に干渉できないであって、外部には干渉できる。
つまりやり様がないわけではないということだ。
この能力を得て、最初にやった事といえば、勿論掃除だ。
そもそも切欠がそうだし。
訳がわからないながらも、散々妄想していた能力を得たのだ。
それはもう浮かれた。
控え目に言って、他人に見られていたら切腹ものだな、と思い返して後悔する程度には浮かれた。
それくらい浮かれながら能力を使用し、部屋を有り得ないレベルで綺麗にし、そして倒れた。
倒れたといってもいきなり気絶したわけではなく、朦朧としつつもベットに寝転がれただけまだマシだっただろう。
場所や季節次第では、そのまま死んでいてもおかしくない。
それを考えれば幸運だったのだろう、素直には喜べないが。
そのような経験を経て、基本方針を定め、誰にも悟られることなく日常生活を送りながら、主にネットで情報を集める日々。
今までならアニメなりゲームなりに使っていた時間、しかし今はほとんど手を出していない。
何故か、それは勿論アニメやゲームをするより楽しいからだ。
考えてみてほしい、自身が妄想する能力を得た後の日々を。
超常の能力を得て、それを行使する自分の姿を。
正にアニメ・ゲームの登場人物の様ではないか。
例え今はろくに使えない、人目に触れさせられない等の事情があろうとも、そんなもの些細なことである。
何故なら既に手に入れているのだから。
そんな日々に変化を感じたのは、2週間ほどが経過してからだ。
情報収集に関しては芳しくない。
同類のような話は探せばいくらでもあった。
問題は、ただの中二病かどうかの判断がつかなかったことだ。
傍から見ると、俺はこの年で中二病かと軽く鬱が入りながらも一つ一つ読んでいくが、やはりわからない。
この方法では無理があるかと悩みつつ、かといって身バレしない方法での情報収集など思い付かない。
結局、これを続けるしかないと諦め作業を再開する。
しかし情報収集はさておき、別方面では成果も出ていた。
しかも、それこそ最も望むものである。つまりーー
魔法の濾過膜 の強化
これである。
最初は気のせいかと思った。
その程度のわずかな変化であった。
しかし日を重ねるにつれ、やはり拡く長くなっている気がする。
2週間が経過する頃には、流石に気のせいではないと気付けるほどになっていた。
つまり、何が原因かは特定できないが、成長し得るということである。
特定は出来なくても仮定は出来る、元よりそれを期待して毎日毎日能力を使っていたのだから。
十中八九それが原因だろうが、決め付けられる要素はない。
色々試行錯誤すれば判明するだろうが、その為には最低でも能力を使わずにおいて、成長しないことを確認しなければならない。
後々の事を考えればそれもありとは思うが、今は少しでも強化したい。
その欲求を抑えられない。
なにせ弱いのだ、俺の能力は。
拡く長くなった以上、それ以外の部分の強化もないとは言えない。
寧ろ強化してくれ。
そんな訳で条件判明は後回しにして、今まで通り無理し過ぎない程度に使っていこう。
いつか、妄想していた通りの能力に成長する日を期待しながら。
そうして能力を使いつつ過ごす日々、どのように能力を使っているのか。
基本は二つ、空気洗浄と虫歯予防である。
先ず一つ目、空気洗浄は選別対象を『空気中の汚れ及び人体に悪影響があるもの』として数秒ほどだけ膜を出し、それを体の周りで動かすのだ。
正直これでちゃんと作用するのが不思議だが、そもそも存在からして不思議な能力を通常の理屈で考えるだけ無駄なのだろう。
納得し辛いが納得するしかない。
次に二つ目、虫歯予防は選別対象を『歯垢と歯石及び口内菌全て』として口を開けて膜を通すのだ。
因みに、口を閉じていると効果がない。
それにしても「俺の特殊能力は、空気洗浄と虫歯予防だ」とか泣けてくる。
しかし思い付く中で一番有効で、使用頻度を増やす意味があるのがこれなのだから仕方ない。
無設定で膜だけ出すのもありといえばありだが、どうせなら有効に使いたい。
その結果が空気洗浄と虫歯予防である。
能力の強化を切実に望むのも致し方ないだろう。
何か手段はないだろうか・・・。