16話
時間はかかったが街の方まで戻り、激しく動いても大丈夫そうな場所を借りられないか探す。
幸い直ぐに見付かった。
普段は体操とかに使っている場所らしい。
今からという訳にもいかないので、明日の予定を聞くと空いてる時間があったので予約を入れる。
また宿に戻るのは面倒なので、宿に連絡を入れ今晩は戻らない旨を伝え、近くのホテルに泊まる。
道中も確認したがステータス画面を見る限り、やはり異常は見受けられない。
次に気分的なものでしかないが座禅を組み、精神状態を自分で確認する。
平静そのものである。
過去の楽しかったことや悲しかったこと、腹が立ったことなどを順番に思い出してみるが普通に感情が沸き起こる。
何時も通りのことに安心する。
次にさっきのダンジョンでの戦闘を思い出す。
切り殺した瞬間のこと、振り帰りグロい死体を目にしたときのことを。
特に何も感じなかった。
それこそ日常の1コマとでもいう様に何も感じなかった。
愕然とした。
だが安堵もした。
感情がなくなったとか麻痺してるだけで後からぶり返す訳ではなさそうである。
理由は全くわからない。
いや、もしかすると種族が天仙になった影響だろうか。
仙人とか感情を荒げるイメージないし。
確認のしようもないが。
まぁいい、恐怖で戦えなくなるとか後からトラウマが発症するとかなさそうなのは良い事だろう。
良い事ということにしておく。
他にはあの襲われた直後に感じた、ゆっくりになる感覚か。
意識的にこれから戦闘をするのだと思い込もうとする。
時間はかかるがあの感覚が蘇る。
そのまま動いてみるが自分は普通に動ける。
ただし周りはゆっくりしている、窓の外とか。
まるでゼ〇の領域か神速だな。
戦闘だから神速か、小太刀だし。
そう考えると何故得ているかは別にして、これ自体はおかしなことではないのか。
寧ろ喜ぶべきだろう、仮にも奥義を得たのだから。
最後に小太刀を取り出し確認する。
勿論ネズミを切り殺した方である。
血は膜で取り除いてある。
刃毀れ一つない。
骨ごと一刀両断したとはとても思えない状態の良さである。
これも謎だな。後、体が勝手に動いたことも。
『剣術Ⅱ』のお陰なのだろうか?
あるいは『運動Ⅲ』?
考えてわかるものでもないので考えないことにした。
明日確認すればいいのだ。
今日は精神的に疲れた、寝なくて済むけど寝てしまおう。
次の日、探し物を買い予約した場所に向かう。
小太刀を一振りだけ持ち、荷物を端に置く。
そして中央くらいに立ち、目を瞑る。
膜を使い、監視カメラ等がないか確認する。
どうやるのか、『監視カメラ等の埃』を確認した後『監視カメラ等』で引っかからないかを見るのだ。
変なことをやっていないかの確認用のカメラがないとも限らないから念の為である。
見られるだけでも問題だが、映像が残ると事だ。
ないことを確認した後、戦闘を意識し神速を発動させる。
昨日よりは早い。
そのまま少し動いてみるが、明らかに素人の動きではない。
適当に動いただけなのに、まるで演舞か何かのようである。
その後何度か発動と解除を繰り返す。
即座にとは言い難いが、思っている通りになる。
次に発動させないまま、小太刀を振る。
色々な型っぽいことをやってみるが、やはり素人とは思えない。
達人すら生温いほどであるかもしれない。
『剣術Ⅱ』の効果と考えるしかないだろう。
今度は小太刀を荷物のところに置き、素手で格闘の真似事をやってみる。
・・・・・芸術的といっても良いであろう動きだ。
自分のやった動きとはとても信じられない。
流石『格闘Ⅲ』、Ⅱとは違うのだな。
最後に荷物からメリケンサックを取り出す。
確認用に今日買ってきたのだ。
それをはめ、再度格闘の真似事を行う。
先ほどと同様に芸術的な動きである。
格闘の説明文に、無手でとあったが少なくともメリケンサック程度なら無手の範疇のようだ。
まぁ、これは戦闘中に武器を落としたり奪われたりなどした時用の保険くらいつもりだから、ダメならダメで素手でのみ使うだけだが。
というかだ。
何故今になって確認しているのだろうか、俺は。
この場で確認したこと全て、ダンジョンに潜る前にやっておくべきことだろうに。
思っていた以上に緊張していたのだろうか。
そんなだからあのような醜態を晒す羽目になるのだ。
不老不死を得て時間はいくらでもあるが、死なないわけではないのだ。
死んだら終わり、臆病なくらいで丁度いい。
改めてそう考え、慎重にダンジョン探索を行うよう心に決める。
先ずは時間の許す限り自分の性能確認だな。
そして明日からダンジョン探索を再開しよう。