13話
モンスターが溢れ出る現象をスタンピードと呼称するらしい。
馴染みがあってわかり易い。
あの発表の後、各国の軍は銃器ではなく刃物や鈍器、弓やクロスボウ等様々な武器を使用して、実験的にダンジョン内のモンスター駆除を始めた。
その結果であろうか、確かにスタンピードは激減した。
ただ、奥に行けば行くほどモンスターが強くなるらしく、遅々として進んでいないらしい。
死傷者も少なからず出ているようである。
それでもスタンピード自体は激減しているので、続行するようであるが。
代わりに退役者が続出しているらしい。
各国共に大規模な募集を掛けているが、中々集まらないと報道されている。
それは日本も同様であった。
寧ろもっと酷いかもしれない。
自衛隊のみならず、警察も動員されている。
その所為で、自衛官や警察官が次々に辞めていくとか。
まぁ、今時の人間が言葉通りの意味で命を掛けて国を護れとか言われても嫌がるだろう。
募集に乗ろうかと思わなくもなかったが問題があった。
年齢制限である。
年寄りはお呼びではないらしい、まぁ当然か。
スタンピードの対処法は判明したが、根本的な問題ダンジョンそのものは未だ謎に包まれたままだった。
アメリカ・ロシア・中国といった初期にダンジョンが現れた国は、既に大量のダンジョンが出来ていて、今も増え続けているらしい。
スタンピードが外に向かわないようにするので手一杯となり、全てのダンジョンの駆除が十分出来ないようである。
他の国も、そこまでいかないまでも少しずつ増えているとか。
それは日本も同様で、連日国会で議論が交わされている。
条件を緩和して自衛官警察官を大量に募集すればいい・駐日アメリカ軍にやらせればいい・一般市民から募集してモンスター駆除の資格を与えればいい等々大体実現不可能・問題そのものを理解していない話ばかりである。
そんな中、また新たな発表があった。
銃器を使わない駆除を提案した例の学者からである。
曰く、ダンジョンのモンスターの肉などを食すことで、モンスターを殺したときのような効果が得られるというものであった。
更には、その肉などは家畜の肉などと比較しても十分美味しい物であり、アンチエイジング効果も確認された、というものであった。
これにより世論が動いた。
自衛官・警察官の応募もいくらか増えたが、ダンジョンの一般開放を求める声が大きくなったのだ。
尤も政府もダンジョンの危険性・モンスター肉の安全性等を理由に許可を下ろそうとせず、主に畜産関係を支持母体とする政治家が強く反発した。
しかしそれも日本でスタンピードが起こるまでであった。
そう、日本でスタンピードが起こったのである。
それにより地方都市が一つ壊滅した。
スタンピードを起こした地方都市近くのダンジョンも駆除は行われていたが、結果としてスタンピードが起こった。
駆除が足りなかったということなのだろう。
その地方都市は、ダンジョンが近くにあるのは周知されていたが、駆除が行われているので避難を推奨されるに止まっていたのだ。
それにより数万人の死傷者を出す大惨事となった。
それを受けて尚一般開放に反発できる政治家はいなかった。
当然である。
実際にスタンピードが起こっているということは、駆除が足りていないということになる。
可及的速やかに増員が必要であるというのに、それに反発するということは、次にスタンピードが起こった時の責任を押し付けられるということである。
この痛ましい事件により、即座に増員案及び暫定法案が提出・可決された。
普段の国会から考えると有り得ない速度で可決された暫定法案により、認可制のダンジョン内モンスター駆除業者・通称探宮者の試験運用が始まった。
先ずは国の指定する講習を受ける、受講料は10万もするらしい。
ただし、これは遊びで受ける人を弾く目的であり、年に一定回数駆除を行ったことが確認できれば、9割が返還されるようだ。
その研修を受けると資格の免許証が発行され、晴れて探宮者となれる。
資格の有効期間は1年、毎年更新が必要である。
探宮者には銃刀法が緩和されており、制限はあるものの帯剣許可が下りていた。
ただし免許証の携帯義務もあり、警察官等に求められれば提示しなければならない。
各ダンジョン近くには国営の直営店が設置され、免許証を提示することで利用できる。
その直営店では、ダンジョンで利用するための道具が販売されており、無税で購入可能となっていた。
またダンジョン内で発見・回収したものもここでのみ買取が可能となっており、ここでの収入に関しては所得税の対象外とされる。
暫定なので今後変わり得るが、これが当初の大まかな内容であった。
モンスター駆除は命懸けであり、それでも尚やってもらうために様々な緩和優遇策が取られていた。
俺は勿論すぐさま受講し、探宮者となった。
これでやっと堂々とダンジョンに入れる。