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88話

 マリエルに魔剣の検証を手伝ってもらう。

 その為の獲物を探すと、兎以外にも蚯蚓(ミミズ)が見付かった。

 だが蚯蚓は超雑魚、実質兎だけだな。




 俺たちに気が付いた兎がこちらに向かって一斉に駆け出す。

 魔剣の検証には蚯蚓がいるが、別のモンスターで違いがあるかも確認しておいた方がいいかと思い、後ろの方の兎を一匹風の手で拘束する。

 残り兎3。

 さっさと検証作業に入るために全て俺が対処する。

 「全て俺がやる。マリエルは待機」

 そう言い残して兎にゆっくり向かう。

 俺が前に出たことで兎たちの標的が俺になったのを感じる。

 そして残り数メートル位の位置で跳ねる兎たち。

 その瞬間、一気に詰め寄り空中で無防備になった兎たちの首に魔剣を突き刺し首を落とす。

 都合三度、刹那の三段突きにより首を落とされた兎たちが、跳ねた勢いのまま後ろに転がっていく。

 前方には蚯蚓と拘束された兎が見える。

 それらはとりあえず置いておいて、俺は兎を回収するべく後ろを振り向く。

 だがその直後、後方で魔力反応を感知し、何かが高速で飛んできた。

 一瞬溶解液か?とも思ったがまだそこまで蚯蚓には近付いていない筈だし、予備動作も見受けられなかったし、このレベルの蚯蚓の射出速度ではない。

 何より魔力反応があった以上、魔法が使われた筈だ。

 慌てて振り返り確認すると、それは石だった。

 握り拳ほどもあるだろうか、速度と合わせて考えれば当たり所次第では即死もありえるサイズだ。

 勿論俺ではなく、ここを普段攻略しているであろう冒険者であれば、だが。

 その高速で飛んでくる、あくまで一般的には高速と言える速度で飛んでくる石を風の手で難なく受け止め、攻撃してきた相手を探す。

 だが、いない。

 前方には、先程までと同じように兎と蚯蚓しかいない。

 まさかこんな低階層に俺が感知できないような敵がいるのか、と心底驚く。

 だが普段感知出来なくても、魔法を使う瞬間は魔力反応が出る以上そこから辿れる。

 熟達するとその魔力反応も分かり難くできるが、先程それをしていないなら出来ない筈だ。

 そう思わせて魔法以外で攻撃してくる可能性もあるので、神経を研ぎ澄ませ攻撃に備える。

 そうして待つ事数秒、魔力反応を感知。

 場所は・・・蚯蚓?

 え? 蚯蚓の攻撃なのか、今のは?

 そんな俺の混乱を他所に、蚯蚓の前に先程と同程度の石が発生しこちらに向かって飛んでくる。

 風の手で難なくキャッチ。

 少し待つと、また魔力反応と供に石が発生し射出。

 風の手でキャッチ。

 また少しm(ry

 風のt(ry

 そんな事を十数度ほども繰り返しただろうか、蚯蚓は撃つほどに弱っていき、最後にはクテッと地面に横たわってしまった。

 ただ死んだ訳ではなくMPが切れかけているだけなのだろう、微妙にうねうねとはしている。

 状況から考えて、あの魔法攻撃、勝手に名前を付けるとするならば石弾(ストーンブレット)を撃ってきたのは蚯蚓で間違いないだろう。

 だが地球側には魔法がなく、それ故に地球側の蚯蚓は魔法が使えなかった。

 魔法が使えない蚯蚓を見た俺は蚯蚓とはそういうモンスターであると勘違いをし、その勘違いのまま異世界側の蚯蚓もそういうものであると思い込んでしまった。

 その思い込みから無警戒に背を向け、背後から思わぬ魔法攻撃を受けて慌て、無駄に警戒してしまったということなのだろう。

 結果的に言えば、早い段階でこの勘違いに気付いたのは僥倖だ。 

 流石にそのせいで死ぬなどというほど深い階層まで気付かないということもないだろうが、気付くのが遅れれば遅れるほど要らぬ手傷を負う可能性が増すのだから。

 それを思えば、こんな不意打ちを食らっても無傷でやり過ごせるほどに浅い階層で気付けたのだから、僥倖と言わずに何と言うべきか。

 だが今の俺にとってそんな事は些細な事だ。

 これがソロでの事なら気にもしなかった。

 だが今、俺の後ろにはマリエルがいる。

 そしてマリエルなら俺が無警戒に蚯蚓に背を剥け不意打ちを食らい、それによって不自然なほどの緊張を以って蚯蚓に向かい、それが蚯蚓の攻撃であると分かって緊張を解いていく様の一部始終を正確に理解するだろう。

 端的に言って、恥ずかしい。

 傍目には油断しまくって不意打ちを食らい、それに大慌てで対応するも、本来慌てる必要など全くない程度のものに大仰な対応をした粗忽者と映るだろう。

 そしてそれに対して反論する事もできない。

 何故なら地球側の蚯蚓だからこそ魔法が使えず、それを見ていたから勘違いしたなど、素性を隠したまま説明出来る筈がないからである。

 これで振り返った時にマリエルに笑われでもしようものなら、俺の精神が多大なダメージを負うのは必至である。

 正直、このまま何事もなかったかのように、この場を立ち去りたいがそういうわけにもいかない。

 意を決し後ろを振り向くと、先程首を落とした三匹の兎を一箇所に集めているマリエルの姿が見えた。

 そんなマリエルがこちらの視線に気が付くと

 「流石です、ルイ様。ワームが出てきた時は、ワームは倒してアルミラージで試されるのかと思いましたが、まさか魔法を撃たせてMP切れを狙うとは。魔法を使うモンスターは優先して倒すのが常道ですのに、あえて撃たせるなど中々出来ない事です」

 と、明らかな尊敬の眼差しを向けてくる。

 あれ? 気付いていない?

 ・・・・・・セーーーフ!!

 ふぅ、危機は去った。

 ・・・とは言え、見て見ぬ振りをしてくれているだけの可能性もあるので、後で和菓子でも食べさせてあげる事にしよう。

 その場合、それはあくまでお礼であり、口止め料などではない。

 何故なら口止めは敢えてする必要がないことになっているからである。


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