86話
21階層に進み、ブラッディフェスタの試し斬りを行う。
そこに現れたのは大剣で戦うには相性が悪いモンスターだったが、レベル差があるので全く問題にならなかった。
寧ろ問題は、倒した瞬間に発生した。
色々確認したい事はあるが、先ずはマリエルだ。
そう思いマリエルの方を見るが、全く問題なかった。
基本的には俺と同じ避けて攻撃しているのだが、俺ほど力がないので一撃では決められないようだった。
ただそれでも数回ほども斬り付ければ倒せるようで、危なげなく倒していた。
「これも収納お願いします」
そして自分で倒した兎を持ってきた。
それを収納し、忘れていた自分が倒した兎も収納する。
「どうかしましたか?」
俺の様子がおかしい事に気が付いたのであろうマリエルが心配そうにそう言ってきた。
隠しても仕方がないので分かっている事だけを説明する。
「今初めて実際にこの魔剣でモンスターを倒したわけだが、これが間違いなく魔剣であるということが判明してな」
「? それは最初から分かっていた事では?」
「思っていた魔剣とは意味が違ったのだ」
「意味が? どういうことでしょう?」
「それを確認するためにもっとモンスターを狩る必要がある。説明はその後にするから、今はモンスター狩りを優先する」
「よく分かりませんが分かりました。つまり予定通りということですね」
「あ~、確かにそうだな」
マリエルの落ち着きっぷりを見て、俺も落ち着いてきた。
そうだな、予想外のことではあったし問題もあるが、だからどうにかなるというほどの問題でもなし、気楽にいこう。
そしてブラッディフェスタに目をやる。
そこには妖しいオーラを発している大剣の姿がある。
勿論さっきまではそんなものは発してなどいない。
幾つも付いている特殊効果の内俺が特に気にしているものが三つあるが、その内の二つのどちらか或いは両方のせいだろう。
効果は剣自体の強化だと思う。
何故なら俺が自分で気や魔力などを纏わせた時に似ているからだ。
その場合はこんな妖しい感じにはならないが。
まぁ取り敢えずはモンスターを狩ろうか。
そうして奥を目指しながら、マリエルと協力してモンスターを狩っている。
何度もモンスターを狩る過程で、この魔剣のことも少しは分かってきた。
最初は声を上げそうになったあれも、来ると分かっていれば十分対処可能だ。
何の事かと言うと、だ。
モンスターを斬り付けた瞬間、剣から暖かいものが伝わって俺に流れてくるような感覚があるのだが、それが気持ちいいのだ、思わず声が出そうなほどに。
恐らくこれが気にしている特殊効果の内の一つ、生命強奪ではないかと思う。
意図的にHPとMPを削っておいてからモンスターを斬り付けると、僅かだがHPだけ回復するので間違ってはいないと思う。
また、斬り付けた所をよく見るとモンスターからオーラの様なものが2色剣を伝って流れていくのが確認できた。
内一色がそのまま柄を伝わって俺に流れてきているので、これが生命力なのだろう。
残りの一色は柄の宝石っぽいものに吸い込まれていっているようであった。
恐らくこれが気にしている特殊効果の二つ目である魔力喰いであり、妖しいオーラを発して剣を強化している原因だと思われる。
最後の一つは戦闘に直接関係する特殊効果ではないが、言葉通りなら非常に便利なので期待している自動修復という効果だ。
これに関しては壊して直るか確認するなどという事ができる筈もないので、どの程度までなら直せてどれくらいの時間がかかるのかなど確認したい事はあるのだが確認出来ず仕舞いである。
このように実際に試して確認しているのだが、『鑑定』は勿論しているのだ。
ただその結果が
『生命強奪』が『生命力を奪う』
『魔力喰い』が『魔力を喰らう』
『自動修復』が『自動で修復する』
である。
役に立たねぇ!!
『鑑定』は基本的には大いに役立っているのだが、偶にこのような説明になっていない説明しかしてくれない時がある。
なので期待しすぎるのは危険である。
ここまででもしかすると何が問題なのかわからない人もいるかもしれない。
俺の杞憂かもしれない。
だがそれでも問題視しているのは、『斬り付けると気持ちがいいこと』だ。
元々その気がある人や意志が弱い人などが持てば、快楽殺人者の出来上がりになってしまうのではないかという心配があるのだ。
つまり、俺はこの剣を『魔法の剣』で魔剣ではなく、『魔性の剣』で魔剣だと思っているのだ。
これがマリエルとの会話で言った『意味が違う』である。
ただ幸いなのが、魔性の剣としての性質の悪さはそこまでではないという点だろう。
所持者を乗っ取るとか問答無用で周囲に斬りかかるとかではない分は。
所詮比較の問題なだけかもしれないが。
しかしこれではいざとなったら売って換金しようと思っていたのに出来なくなってしまったではないか。
『魔性の剣』が売れるかどうかがそもそも問題だし、売れたとしても買い叩かれるであろう事は想像に難くない。
更にはちゃんと伝えた上で売っても、購入者が快楽殺人者にでもなろうものならそんな物を売った俺が悪い、などと言う輩が出ないとも限らない。
気にし過ぎかもしれないが、少なくとも日本でなら出るだろう。
等々を考えれば、不要になったとしても売らずに死蔵するしかないだろう。
勿体無いが致し方ない。