84話
魚と淫獣を狩りつつ20階層へ。
そして沸かせたボスが素材としてよさ気だったので、極力傷付けないように倒した。
のだが、そのえげつない手段をマリエルに咎められ、次からはもう少し考えるように言われてしまう。
ともあれボスは倒したのだから、魔方陣の登録を行っておこう。
ボス部屋を出て魔方陣のある広間に進み、さっさと登録を済ませる。
さて、問題はこの後どうするか、だ。
進むには遅いし戻るには早い。
無論、俺一人でなら今からでも余裕だが、ここでマリエルを置いていくのは酷過ぎるだろう、帰れるとはいえ。
かと言ってこのまま帰るのもなぁ。
折角来ているのだからぎりぎりまでとは言わないが、それなりにはやっていきたいところだが・・・まぁ、程よい時間で戻ってこれる位の階層までモンスター狩りをしてから帰ればいいか。
方針が決まれば先ずは休憩だな。
前回休んだのだから、今回休まない理由もない。
マリエルも多少は疲れて・・・なさそうだな。
戦闘した分さっきよりは疲れていると思ったのだが、寧ろさっきより平然としている。
・・・・まぁいいか、前回と同じ理由で今回も休もう。
そしてただ休むだけでは味気ないので、何か摘む物でも・・・これにするか。
そして取り出したのは、天津甘栗。
袋に入ったまま魔法の濾過膜で皮と汚れを取り除いた、何時でも気軽に手を汚さずに食べられるようにしてあるやつである。
因みに天津甘栗は大好物なので、自分の口に合うものを店でも開く気かって程買い集めてある。
そして今後も買い集める気である。
消費量より購入量の方が桁違いに多いが、まだまだ買い集める気である。
何故なら大好物だから。
そんな大好物の天津甘栗なのだが、量が少なければ出し惜しみもするかもしれないが、現実には溢れるほどに確保してあるので気兼ねなく振舞う事ができる。
そんな天津甘栗を更に取り出した木皿に盛って床に置く。
自分も床に胡坐をかきつつ
「マリエルも座ったらどうだ? 少し休憩しよう」
と声をかける。
「よろしいのでしょうか? 階層こそ進んでいますが、頻繁に休ませてもらうほど働いていないのですが・・・」
と遠慮がちに床に横座りするマリエル。
「よろしいさ、ちゃんと結果は出してるのだからな。それに休める時に休むのも仕事の内って言うだろ」
「確かにそう言いますが、結果を出しているのはルイ様であって私ではないのですが・・・」
「同じPTなのだから、俺が出してもマリエルが出しても同じ事だ、変に遠慮する必要などない。それよりこれを食べてみて、感想を聞かせて欲しいな」
そう言ってペットボトルのお茶を二つ取り出し、一つをマリエルに渡す。
「これは、甘栗ですね。いただきます」
栗もある、と。
「うん、美味しいです。既に剥いてあるのがいいですね、食べやすくて」
和菓子と違って大絶賛とはいかないか、既にあったようだから仕方ないが。
「こっちの方にもあるようだが、それと比べてどうかな?」
「そうですね・・・はっきりと味を覚えているほど食べた事はないのですが、今食べているこちらの方が幾分美味しい気がします」
ふむ、お世辞を言っているようにも見えない、な。
であれば、少なくともマリエルが口にしたものに劣るという事はないだろう。
マリエルの身分上、それ程高級なものを口に出来ているとは思えないから、もっと美味しい甘栗もあるかもしれないが。
それも気にはなるが、今は栗を食べよう。
「それは良かった。天津甘栗は俺の大好物の一つだからな、喜んでもらえて嬉しいよ」
「そうなのですか? ルイ様でしたらもっと良い物を口にする機会が幾らでもありそうなものですが、和菓子ですとか」
「良い物なら何でも好物になるという訳でもないしな。それ以前に、向こうでは色々隠していたから、そんなに良い物を口にしてはいないぞ」
寧ろ良くない物ばかり食べてたくらいで。
「その割にはルイ様から頂いた物は、物凄く美味しいものばかりでしたが」
「それは人に変な物を渡せないからな。ある程度自信がある物に限っているから、そう感じるのだろう。後はお国柄だろうな、食べ物の為なら手間隙を惜しまない傾向が強かったから、あの国」
「それはさぞ豊かな国なのでしょうね」
「豊かは豊かだな。経済大国とか言われてたし」
「経済大国? は分かりませんが、大国と呼ばれるだけの力があるのは凄いです。この国も大国と言われていますが、ルイ様から頂いた物ほど美味しいものは食べた事がありませんし」
「こちらほどダンジョン攻略が進んでいないから、素材はこちらの方が上だと思うがな。それを生かす技術だの何だのはあちらの方が上だろうが」
「そうなのですか。それ程の国なら行ってみたいですが、無理ですよねぇ。私はこの国すら出た事がありませんし」
「難しいな。俺の転移は個人用だし、踏破するには、な」
「私程度では全くレベルが足りていませんか。かと言ってルイ様クラスのレベルとか無茶にも程がありますしね」
行けたとしても連れて行くわけにはいかないがな。
「まぁ、俺の故国は無理としても、近隣の外国になら行けるんじゃないのか?」
「冒険者時代になら行けたでしょうが、今はお勤めもありますから無理ですね。とは言え住んでいる街から出たことがない人も多いくらいですから、それに比べたらあちこち依頼で行った事がある分見て回った事がある方なのでしょうけど」
城壁の外には文字通り命の危険があるわけだから、地球のように観光や遊び目的で気軽に旅行とは行かないのだろうな。
近場くらいならそうでもないけど、少し遠出しようと思ったら護衛が必要になるであろう土地だし。