80話
10層のボスを撃破し、その奥にある魔方陣に登録した。
そして少し早いがその広間で昼休憩を取ることにした。
そこで昼食としてハンバーガーを渡したが、マリエルの口に合うだろうか。
ハンバーガーにかぶりつくマリエルと、それを見詰める俺。
女性が食べる様を見詰めるとかデリカシーに欠ける行いだろうが、評価が気になることと冒険者が何を今更というのとで気にしないことにする。
そんなマリエルだがかぶりついた瞬間硬直したが直ぐに再度食べ始める。
ゆっくり味わって食べているように見えるが、意識がハンバーガーに集中しているのが端からでも分かる。
これなら大丈夫そうだと判断して、俺も残りを味わって食べる事にする。
そうして咀嚼音だけが聞こえる時間が経過していき、プシュッと空気の抜ける音に反応したマリエルがこっちを見てくる。
「ドリンクを飲みながら食べた方がいいぞ。喉に詰まらせる可能性がないとも限らないし、その方が味を楽しめる」
「あ、はい、分かりました。・・・これ、前回のものと違いますよね?」
「前回は確かミックスジュースだったかな、今回のはオレンジジュースだから確かに違うな」
「つまり蜜柑ですか」
蜜柑もあるらしい。
そのうち市場にでも行って、どんな物があるか見て回るのもいいかもしれないな。
「ゴクッ、んんっ・・・これ本当に蜜柑ですか?!」
「オレンジジュースと銘打っている以上そうだろう、俺も飲んだ事は当然あるが普通に蜜柑の味がしたが?」
「だってこんな甘い・・・私の知っている蜜柑とは別物です・・・・あ、でも蜜柑っぽさはあるから、単に物凄く美味しいだけ?」
「こちらで蜜柑を食べた事がないのでどうとも言えないな。だが、不味いならともかく美味しいならそれでいいじゃないか」
「それもそうですね。ゴクゴクッ、おいしー」
俺の言葉に笑顔であっさり納得して、食事を再開するマリエル。
マリエルはあっさり納得したが、俺なら入手手段が限られる美味しいものの情報とか今あるからそれでいいと納得できないのだが、その辺は性格かねぇ。
まぁいいか、俺もさっさと食べよう。
食事も終わり雑談をしながら食休みをしているが、そろそろ再開してもいいかな?
そう考え、会話の切れ目にそう切り出してみる。
「さてマリエル、そろそろ再開しようかと思うのだが、マリエルの調子はどうだ?」
「はい、問題ありません。元々余り疲れてもいませんでしたし、食事も取らせてもらって万全です」
そう言って両手でガッツポーズを取ってみせるマリエル。
正直力強いというより可愛いといった感じだが、本人のやる気は伝わってくる。
「そうか。では探索を再開する事にしよう」
そう言って立ち上がり、11階層への扉に向かう。
そうして11階層に突入した訳だが、風景は今までと何ら変わりがない。
幾分広くなったかな? といった程度の差ならあるが。
まだブラッディフェスタを振り回すには狭く感じるので先送りだな。
そう考え、マリエルの先導にそのままついていく。
そして直ぐにこの階層のモンスターを確認した。
したのだが・・・直接確認するために手は出さないでおいた。
「マリエル、もう少ししたらモンスターと接触するが、少し確認したいことがあるので手は出していない。マリエルが一人で戦ってみてくれないか?」
「? 何体でしょう?」
「一体だな」
「これくらいの階層で一体でしたら一人でも問題ありませんが・・・わかりました。ルイ様には遠く及びませんが私の戦い振りを見ていてください」
そう言って妙に気合が入っているマリエルが剣を抜き放ち戦闘に備える。
レベル的にも経験的にも全く問題ないだろうに、何故こんなに気合が入っているのだろうか?
疑問には思うが、今はモンスターが先だ。
程なくモンスターが泳いできた。
そう、泳いできたのだ。
当然だがここは水中ではないし、目の前には川も池もない。
何もない空中を水の中を進むかのように泳いでいるのだ、このモンスターは。
さっきも『鑑定』したが再度確認のために『鑑定』する。
種族ランドフィッシュ名無し、レベル12。
陸魚って所だろうか?
横から見ると正三角形っぽいシルエットをした、一抱えほどもある黒っぽい魚だ。
陸の魚なら地面を這えよ、それじゃあスカイフィッシュだろうが!! と思わなくもないが、文句を言っても仕方がない。
きっともっと上空を泳ぐスカイフィッシュがいるのだろうということにしておく。
見た所、魔力を纏っている様なのでそうやって泳いでいるのだろうが・・・。
そんな事を考えている間に、戦闘はあっさり終わってしまった。
口を大きく開き水球を発生させ打ち出してきたランドフィッシュに対して、マリエルは水球を避けつつ一気に接近して剣で一突き。
僅かな間身悶えていたが、特に反撃などすることもなくそのまま死んでしまった。
正に瞬殺、いつも自分でしておいて言うのもなんだが、見ていて面白味に欠けるな、これ。
別に見せる為にやっている訳ではないからいいのだが、そういう場合に瞬殺はだめだな。
観客も盛り上がり様がないというものだろう。
まぁ俺の場合は寧ろ実力を隠そうとしているくらいなので、観客の前で戦いを披露するなどということもまずないだろうが。
そんな感想を頭の中でだけ抱いていると、マリエルが嬉しそうに近寄ってきた。
「どうでしたか、ルイ様。見苦しかったりはしなかったでしょうか?」
「いやいや、見苦しいなどとんでもない。鮮やかな一撃で勝負を決めているのにそんな事を言う奴がいるのであれば、そいつの目は節穴であるとしかいい様がないな」
「だが強いて問題点というか課題を挙げるとするならば、今回は敵が一体だったから突きを放ったのだろうが、複数だった場合突きでは動きが止まってしまい後に続かない。そうならないように突き以外でも倒せる手段を確保するようにすればいいのではないかな?」
「うっ、流石ルイ様。痛い所を指摘されますね・・・自分でも分かってはいるのですが、攻撃力不足はなかなか改善されなくて・・・」
「分かっているのなら問題ないだろう。そもそも一朝一夕で何とかなるような問題ではないしな」
まぁ、レベルアップして能力値を上げれば手っ取り早いのだが・・・それが出来れば苦労はしないって所だな。