11話
アビリティを得たあの日から、1年ほどが過ぎた。
まだ日本一周は終わっていない。
何故か?
寒くて北上を止めたからだ。
暖かくなってからでいいかと思い帰宅、家でだらだらしていた。
熱狂していたとはいえ、働きすぎた。
働き? うん、働きでいいだろう、働きすぎていたからだ。
一旦気を抜くと一気にだれた。
お陰でこの様である。
まぁ、情報収集はしていたが。
ネット上に集まっていた同類はいなくなった。
あの後何人も能力が消えたと騒いでその後来なくなり、寂れていって最後は誰も来なくなった。
全員消えたわけではないだろうが、人が来ないと来る意味ないからな。
ただ、世界中でちらほら能力持ちと思われる人の話が上がり始めているようである。
大体胡散臭い話として取り上げられているが、全部とは言わないが幾つかは本当だろう。
ここでも想定外の朗報があった。
『鑑定』を使うと、外国語の文章が訳されて表示されるのだ。
これのお陰でネット上の情報収集の場が世界に広がった。
先ほどの話もそのお陰で得られたものだ。
文章が読めるだけで聞けも話せもしないが、実に有用だ。
しかし一番気になる話は別にある。
アメリカでダンジョンが発見された等という胡散臭い話だ。
モンスターもいたらしい。
詳細は伝わってこないが、周囲の土地を買い集め、シャットアウトしてるらしい。
ダンジョンである。
実に興味深い。
入れるものなら入ってみたいものである。
普通に考えたら何か人目を避けなければならない類のことをやっているだけだろう、犯罪とかに限らず。
そういう設定の映画制作というのが有力かな。
しかしその一見オカルトじみた話も、自分の身に起こったことを考えれば一概に否定できない。
というか、したくない。
現代日本で金を既に持ってる身としては、使い道がないから取っていないスキルを取れば、ダンジョンにも通用するのではないか、という考えもある。
そうでなくとも、バカみたいに高くなっている能力値と、何より魔法の濾過膜があれば何とかなりそうではあるが。
ダンジョンの真偽は兎も角、水晶集めを再開する切欠としては十分だろう。
そう考え、準備をしていく。
先ずは日本、次にアメリカ。
ダンジョンの情報を現地で集め、入ることが出来ないか試してみよう。
無理ならそのまま世界一周水晶砕きの旅だな。
半年ほどが経過した。
現在世界一周水晶砕きの旅、オーストラリア編である。
気が向くままに目的地を定め、ざっと世界の3分の1くらい回っただろうか。
結構笊だが。
あの後日本一周をやり直し、アメリカに渡って調べてみたが、どうにもならなかった。
かなりのレベルで警戒されているようで、現地とは思えないほど何も聞けなかった。
仕方がないのでそのまま水晶砕きの旅に移行したが、実に残念である。
レベルも随分上がったが、スキルは余り増やしていない。
いざ要るときに必要なスキルを取るために、ポイントを貯めているのだ。
貯めすぎかもしれないほど貯まっているが。
因みに、英会話が出来なかったから、最初は通訳を雇った。
その後少しずつ覚えて、今では日常会話くらいは何とかなっている。
それでも無理なときには、紙に書いてもらっているが。
昔は英語全然だったのだが、歳を取ってからの方が早く覚えている気すらする。
日常的に英語に触れているからだろう、だから留学するんだなと感心する。
そんなある日、ダンジョン第二報である。
なんと今度は、ロシアと中国だ。
同時ということはないだろうが、偶然か意図してか同じ日に話が上がっていた。
ただ、どちらも確認したとしか情報がない。
またシャットアウトである。
こちらは場所すらわからない。
広い国土を当てもなく探すわけにもいかない。
残念だが諦める。
まぁ、世界一周もまだだし、そちらをやりつつ情報が出てくるのを待とう。
そうこうしている内に、遂にレベル1000に到達した。
到達してしまった。
最初にやったのは『ステータス』の確認である。
予想はしていたが、また種族が変わっていた。
今度は 天仙 らしい。
『鑑定』によると、『人を超え、不老不死を得た中位の仙人。仙術を操り、空間を操作する。』と出た。
人類の夢を適えたな・・・、全く意図せずにだが。
というか、上位ではなく中位とか。
まだ上があるのか。
次は1万だろうか?
不老不死らしいから、何事もなければ到達してしまいそうだが、随分先の話になるな。
気にするだけ無駄だから、気にしないことにする。
主に精神衛生の為に。
各能力値も1万を超えている。
最早人間じゃないな・・・・・そういえば人間じゃないな。
魔法の濾過膜のレベルは1378だ。
大分差が縮まってきたがそれでもまだ300以上離れている。
展開枚数は14枚だ。
その他はもう確認しようともしていない。
スキルはあれから『睡眠耐性』を10に上げた後、『看破』『毒耐性』『病気耐性』を10にしたくらいだ。
『睡眠耐性』は10にすると眠らなくてもよくあった、寝ようと思えば寝られるけど。
『看破』は『隠されたものを見破る。』らしい。
予想通り『看破』を10にしても『偽装』は見破れなかった。
毒と病気はそのままで、それぞれに耐性を得るらしい。
後はポイントを貯めている。
種族も変わったし、何か増えているかなとリストを見る。
ぱっと見でわかるものだと『アビリティ強化Ⅱ(魔法の濾過膜)』『魔眼』が増えていた。
『魔眼』を鑑定すると、『魔眼を得る。』と出る。
意味なし。
悩んだが両方取ることにした。
決して、「くっ、魔眼が疼く・・・」とかやってみたいわけではない。
純粋に知的好奇心である。
何が出来るようになるのかを確認することが目的である。
それ以外にはない。
先ずは『アビリティ強化Ⅱ(魔法の濾過膜)』を取る。
展開枚数は今回も増えない。
そしてそれ以外は以下略。
次は『魔眼』の番だ。
・・・・・何か見えてはいけないものが見えている気がする。
あの宙に浮いているものは、きっと目の錯覚だろう。
後自分の体から、様々な色が見える。
軽く光って見えるから、結構うっとおしい。
なんとかならないだろうか。
そもそもこれは何なのか?
『鑑定』してみると、それぞれ『生命力。なくなると死亡する。』『魔力。なくなると昏倒する。』『霊力。なくなると消滅する。』と出た。
説明文からすると、それぞれHP・MP・SPの様である。
他の人を見てみると、全員うっすらと見える。
俺と比べると随分控え目である。
これ、見えてる人がいたら一目瞭然じゃないか?
なんとかする必要があるだろう、うっとおしいのとは別に。
そこで必要ないだろうと手を出さなかったスキルを思い出す。
『気操作』『魔操作』『霊操作』である。
『鑑定』すると、それぞれ『〇〇を操作する。』と出る。
参考にならない。
しかし他に有効そうなものがないので、先ず『気操作』を取ってみる。
途端に体が何かに包まれているような感覚を覚える。
これが気だろうか。
抑えようと集中する。
「鎮まれ、俺の気よ」とか思っていない。
あくまで集中しているだけである。
最初はよくわからなかったが、時間をかけると何とか抑えられるようになった。
さっきより色が減っている。
大丈夫そうなので、残りの二つも取って抑えようと試みる。
何とかなったが、今度は抑えすぎているようで、全く見えなくなった。
これはこれで何かあるとばらしているようなものなので、他の人を参考にして微妙に出ているくらいに抑えた。
完全に抑えるより気を使うが、これも訓練だと諦める。
リストには新たに『気闘法』『魔闘法』『霊闘法』というものが増えていた。
『鑑定』では、それぞれ『〇〇を操り、闘いに利用する。』とある。
少し悩んだが全部取ることにする。
すると更に操作が楽になった。
もう殆ど思いのままだ。
新たに発覚した問題も解決してすっきりである。
リストには更に『合力操作』『神力操作』というものが増えていた。
『鑑定』すると、『合力操作』が『生命力と魔力を掛け合わせた力を操作する。』、『神力操作』が『生命力と魔力と霊力を掛け合わせた力を操作する。』と出た。
これ等は最初の必要ポイントが2から始まっていた。
かなり悩んだが、止めておいた。
まだまだポイントはあるが、それでもかなり使用した。
差し当たって必要ないものに振るのは控えておこうと考えたからだ。
今回は覚えて終わりではなさそうなスキルを取ったことだし、旅を続けながら訓練でもするか。