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75話

 ダンジョン探索を魔方陣登録目的でソロで行おうとしたらマリエルに猛反対された。

 その際に反論しようのない正論も言われた。

 だが、そんな事よりそのあざとい仕草が一番きつい。




 「耳が痛いな。反論のしようがないほどの正論だ。ただし普通であれば、だが」

 「どういうことでしょうか?」

 「マリエル自身もそう言っているが、当然根拠があるからだ」

 「根拠、ですか?」

 「端的に言ってしまえば、俺は今までずっとソロで、PTなど組んだ事がない」

 「・・・・え?」

 「なので、ここでマリエルとPTを組んだのが初めてだな」

 「・・・・・・えぇ?!」

 非常に驚いている・・・そのせいか微妙に顔が赤くなった、ような?

 「つまり、俺にとってダンジョンとはソロで潜るものなので、今マリエルが挙げた問題点はおおむね克服済みなのだ」

 「で、でも・・・それでも一人は・・・」

 不利を悟りつつ、なおも食い下がろうとするマリエル。

 「そもそも俺はこの地に一人で来た訳だしな。道なき道を長い時間を掛けて、な」

 「・・・・・」

 説得は不可能と諦めたのか暗い表情で俯くマリエル。

 「という訳で、実際の所何の問題もなく30階層突破程度可能なのだ」

 「・・・・・・・・」

 暗く今にも泣きそうなマリエルに、いじめている訳でもないのにそんな気分になってしまう。

 「と、普段なら言う所だが、やっぱりマリエルには一緒に行ってもらおうかな」

 「・・・・本当ですか?」

 直ぐには理解できなかったのか、少し間を置いてからそう聞き返してきた。

 「あぁ、故郷の方では故あってソロを通してきたが、ここではその必要も余りないしな」

 「私、ついて行ってもいいのですか?」

 「あぁ、そう言っている」

 「そう、ですか・・・・・・そうですか!」

 やっと飲み込めたのだろうか、物凄くいい笑顔を見せてくれる。

 「そうと決まれば早く行きましょう。さぁさぁ」

 そう言って俺を腕を取り、ぐいぐい引っ張るマリエル。

 間を置いて意見を翻されてはたまらないとでも思っているのだろうか?

 今更やっぱりだめとか言わないのだが。

 しかし、だ。

 嬉しいものだな、あそこまで本気で心配してもらえるというのは。

 嬉しさの余りつい許可を出してしまったが、まぁいいだろう。

 問題なんてダンジョンの攻略が多少遅くなる程度のことで、元より死蔵している素材を売り切るまで攻略を進めないつもりだったのだ。

 その様な瑣末な問題などより、今はこの気持ちに従おう。




 マリエルに急かされるままに、ダンジョンを目指した。 

 俺は何時も通りマリエルを抱えて飛んでいるが、普通は門を出て直ぐの辺りで乗合馬車に乗って移動するものらしい。

 偶に運賃を惜しんで歩いて移動するPTもいるらしいが、駄目なPTの見本なので注意するように言われた。

 想像はつくが詳しく聞いてみると、ダンジョンまではそんなに離れているわけではないので歩いてもそこまで疲れるわけではないのだが、それでも余分に疲れるし時間もかかる。

 だというのに僅かな、ダンジョン探索の許可を得られるランクであれば僅かな運賃を惜しんで徒歩で移動するようなPTでは、順当な或いは真っ当な判断が出来ていないと言わざるを得ず、その様なPTではどんな問題行動を起こすか分かったものではないと思われるようだ。

 実際問題、ちゃんと稼げるPTならそんな事に時間を使うより、より多くモンスターを狩った方が効率がいいので、そうしないのは何か問題があると思われても仕方ないだろう。

 その程度の手持ちもないほど緊迫しているとか必要な物に金をかけられない程のケチであるとか。

 ぱっと思い付くのはこの程度だが、どちらであっても一緒にPTを組みたいとは思わないだろう。

 まぁ、俺の場合基本がソロなので、野良PTを組むことはきっとないが。


 雑談をしながらだったので、城壁まではあっという間だった。

 そして見えてきた城壁に幾つかの覚えのない建物が見える。

 初めて来た時には城壁が邪魔で見落としていたのだろう。

 マリエルに聞いてみると

 「あちらの小屋は冒険者ギルドの出張所ですね、主に買取をしてくれます。ただ、足元を見られますから先程の乗合馬車の利用客などの荷物が余り持てない層が利用しています。そちらの小屋はダンジョンの監視をされている兵士の詰め所、だった筈です。最後に壁際にある長い建物は馬車の預け所ですね。自前の馬車を持っているPTなどが探索中に預ける所です。管理は国が行っていて、馬の世話なども兵士がやってくれるそうですよ。割高ですけどね」

 「自前の馬車持ちは預け所に金がかかるが好きなように移動できるし素材を街に持って帰って売ることも出来るが、それ以外は乗合馬車で運賃がかかるし余り持って帰れないから足元を見られてもここで売るしかないということか」

 「はい。とは言え、どちらも飛んで移動でき、収納に入れて持ち運べられるルイ様には縁がありませんね」

 「そうだな」

 いい事なのだが、何かそんな話が多いなぁ。

 損をしているわけではないのに損をしている気分になる。

 「しかし一々街まで帰らずに、ここで泊まっていく用の宿屋とかはないのだな」

 「ありませんね。攻略目的であれば寝泊りは言うまでもなくダンジョン内ですし、外まで出てくるのであれば街に帰った方が安全です。一応ここは壁に囲まれていない街の外ですから」

 「それにこんな所で宿屋を営もうと考える命知らずもいないでしょう。それでもやるというなら護衛などを雇わないといけなくなるでしょうし、それなら街に帰ったほうが安くつくでしょうね」

 「偶に最後の乗合馬車に乗り遅れたPTがどうせ間に合わないからと野宿をしているらしいですが、これも先程の徒歩移動をするPTと同じで余りいいPTではありませんね」

 「乗り遅れぐらいならそこまででもない気がするが?」

 「元々最終便はそれなりに遅い時間になっていて、日帰り予定なら乗り遅れる事は普通ありません。それでも乗り遅れたということは、慣れていないか計画性がないか・・・ダンジョンに潜る許可が下りるランクとしてはお粗末と言わざるを得ないでしょう。仮にも自分たちの命がかかっているのですから」

 確かに慎重さに欠ける行動ではあるな。

 ある程度の安全マージンはとっているはずだが、それでも命の危険があるのがダンジョンだ。

 だというのに予定の時間に間に合わないような探索をする或いはしてしまうようでは何時か何かやらかしてしまうだろう。

 冒険者は勇者ではないのだ。

 臆病なくらいで丁度いい。


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