72話
お茶会も終わり、街の案内を再開してもらった。
そこで武器屋に連れてきてもらったが、余り出来がいいものがなさそうだった。
ただ、その中でも質のいい武器に使われている、魔鉄なる素材には興味を持った。
しばらくすると挨拶が終わったのか、店番をしていた老人を伴ってマリエルが戻ってきた。
「ルイ様、こちらはこの店の先代でディーノさんです。ディーノさん、こちらが先程お話したルイ様ですが、如何でしょう?」
何が如何なのだ?
「ふむ・・・見た所話に聞くほどには見えんが・・・武器が欲しいのならともかく、鞘が欲しいだけなら受けてやろう。鞘のない魔剣を放っておくなど武器職人として看過できんしな」
よくわからないが作ってくれるようだ。
微妙に上から目線でイラっとしなくもないが、見るからに頑固職人っぽいのできっとこれが通常なのだろう。
「で、その魔剣はどこにあるのだ? 実物を見んことには作りようはないぞ」
「これがその魔剣だ」
収納から取り出し渡す。
「収納持ちか! それでいて鞘を欲しがるとは、分かってるじゃないか」
なにやら急に機嫌が良くなった。
そして剣を受け取り、まじまじと観察をし始める。
魔剣はそのサイズもあってかなりの重量になると思うが、特に苦にした様子もなく持っている。
年齢といい先代と紹介された事といい、既に隠居した身であると思われるのだが衰えているという訳ではないようだ。
「しかもこの魔剣、相当の業物だな。儂が見てきた中でも上位だ。お前さんのような者が持つには過ぎた代物だが・・・流石に人の持ち物に口出しは出来んが、剣が泣くような醜態は晒すなよ」
そう言って凄んでくる。
「善処するよ。で、時間と費用はどれくらいで出来る?」
「時間は1~2日あれば出来る、丁度いい素材があるからな。それで作るなら・・・32万マカで作ってやろう。他の素材で作るなら在庫次第だが、変に特殊な素材でなければ時間は変わらず、金額は安くはなるな」
「だがこれだけの魔剣の鞘だ。下手な素材で作ったら剣が泣くぞ」
行ってる事は分かるが、それでも高くないか?
「因みに、そのいい素材とやらは何だ?」
「おぉ、それを言ってなかったな。実は少し前にエルダートレントの亜種の木材が手に入ってな、これはという剣の鞘用に取っておいたんだ。贅沢な使い方ではあるが、やはり一流の剣には一流の鞘でないとな」
「知っていると思うがエルダートレントの木材には魔力が宿っていて、一般的には魔法使いの杖などに使われるが、魔剣の鞘としても実に有用だ。更にこれは亜種の木材なので・・・・」
長話が始まってしまった。
知らない内容なので有益ではあるのだが、それはそれとして面倒くさい。
「どう思う?」
話すのに夢中になっているので、マリエルに小声で相談する。
「金額そのものを置いておけばいい買い物かと。言っている事も私がわかる範囲ではおかしな事ではないですし、そもそもここの先代はそういう事をするような人でもないですし」
見るからに頑固な職人だからなぁ。
そんな性質の悪い商人のような事は毛嫌いしていそうではある。
「マリエルは賛成、と」
「金額そのものを置いておけば、ですよ。物の良し悪し以前に鞘にそんなお金を出せるのは、大金を持ったよっほどの酔狂な人か貴族位ではないでしょうか」
つまり俺はよっぽどの酔狂な人という事か。
否定できないな。
「先代と言っていたが、既に隠居で腕が衰えているとかは大丈夫なのか?」
一応これも確認しておこう。
「大丈夫だと思います。隠居したのもわりと最近らしいですし、隠居と言っても店を任せただけで自分は今まで以上に精力的に鍛冶に取り組んでいるという事でしたので。先程も生涯現役だと言われていましたよ」
「そうか・・・いや、まて。それ以前に鍛冶師に木製の鞘を作ってもらうってどうなのだ?」
「それも大丈夫かと。今までも鞘以外も含めて全て自分でやっていたそうですから」
「そうか、それなら大丈夫、かな?」
「はい、自分が認めたものにしか自分の打った武器を売らないへんk・・・頑固な人ではありますが腕は確かで、街一番の鍛冶師と言われているくらいなんですよ」
今何て言おうとした?
「この店舗、手前と奥の二部屋に武器を展示しているのですが、今いる部屋にあるのはお弟子さん作の物か失敗作や実験作ばかりで、認めた者しか入れない奥の部屋に先代や当代作のものが置いてあるんです。ルイ様も認められなかったようですので、私の連れということで入れるかもしれませんが基本入れてもらえないと思います」
最初のはそういうことか。
まぁ、基本的に能力は隠しているし、一番行動を共にしているマリエルが魔法使いであると誤認しているくらいだから、初対面の人に見破られる訳もない。
さっきの魔鉄といい、どんな武器や素材を使った物があるのか興味はあるが、冷やかししかしないような気もするのでその内入れればいいかなくらいの気持ちだ。
「・・・・・という訳だ。どうする?」
おっと、語りに満足したようでこっちに話を振ってきた。
「実に有意義な話だった。ここに来るまでは取りあえず鞘が欲しいとしか思っていなかったが、話を聞いてこれしかないとすら思うようになった。是非この剣の鞘を作って欲しい」
結構聞き流していたが、そんな事は噯にも出さずにそう答えた。
「お前・・・若い割には分かっているじゃないか。気に入った、お前になら奥のも売ってやろう。見ていけ」
そう言って上機嫌で背中をバンバン叩く先代。
微妙に罪悪感があるが・・・気分を害する話じゃないからいいことにしよう。
それにしても・・・ちょろい人多くない?
いや・・・俺が、と言うか現代人が捻くれているだけかもしれないな。