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69話

 ステュアート婦人主催のお茶会に出席した。

 そこでも期待通り『白龍堂』の和菓子は大人気だった。

 だが、そこでクロードが割を食ってしまったので、後でフォローでもしておこう。




 幼女たちが再度配られた和菓子をもくもくと食べている。

 そしてそれを優しい眼差しで見詰める母親である貴婦人たち。

 実に絵になる光景である。

 涙目で羨ましそうにしているクロードさえ見なければ。

 だが今すぐフォローすることは出来ない。

 何故なら今でこの調子なら伝えれば必ず嬉しがり、下手をすると察せられてしまうからだ。

 ばれたらまずいと言うほどのものではないが、子供に甘くそこにつけいる隙があるとか思われたら面倒だ。 

 何が面倒かってあながち間違っていないから面倒なのだ。

 強面の男に脅されたり妖艶な美女に強請(ねだ)られたりするのなら普通に断れるのだが、年端も行かない幼子に無邪気にお願いされたら必ず断れるとは言い切れない。

 こう庇護欲を駆り立てられると言うか何と言うか、非常に断り辛いのだ。

 それを下手に知られて親などに悪用されるとか御免蒙る。

 今この場にいるような面子なら大丈夫かもしれないが、それが大丈夫ではない誰かの耳に入っては面白くない。

 それに仮にも貴族の妻だ、折角手に入れたチャンスを利用せずに我慢出来る者ばかりとは限るまい。

 それなら最初から知られないようにするのが無難である。

 そう判断して極力見ないようにする。

 そうして幾ばくかの時間が経過すると、メイドがワゴンを押してやってきた。

 そして今ある皿などを片付け、クッキーやら小さなケーキやらが乗った皿を準備していく。

 それを見ながら、あぁ、これからが本当のお茶会で、さっきまでのは試食会的なものかと納得した。

 そしてそれは間違っていなかったようで、ステュアート婦人が話し始めたのを皮切りにそこここで雑談が始まる。

 だがここで問題が一つ。

 多対多の会話ではマリエルの通訳の限界を超えていて、誰が何を話しているのか分からない。

 仕方がないのでお茶を飲みながら静観する。

 だって仕方ないよね、何言ってるか分からないのだから。

 決して女性同士の会話に割り込む事に気後れしているわけではない。

 女3人寄れば(かしま)しいなどと言うが、この場にはその3倍の女性がいるのだ。

 幼女込み、メイド除く。

 貴婦人らしく余り姦しさはないが、それでも実に賑やかできおkじゃない、何を言っているか分からないので会話に混ざれない。

 まぁ、その内ホステスとしてステュアート婦人が何か話を振ってくれるだろうさ。

 そんな暢気な事を考えていられたのも、直ぐ後のステュアート婦人の台詞を聞くまでだった。

 「所でヴァーユ様に良い人はおられるのかしら?」

 いきなりこんな事を聞かれて、取り乱さなかった自分を褒めてやりたい。

 そして静かになった会場と自分に集まる視線。

 「良い人、ですか。妻という意味でならいませんね」

 「まぁ、それでしたらうちの娘などいかがですか? 少し年は離れておりますが、自慢の娘でしてよ」

 そう言った瞬間、別の婦人にとんでもない事を言われた。

 いやいや、自慢の娘をどこの馬の骨とも知れない男に送り出そうとするなよ。

 後、非常に重要な事だが、年の差は少しじゃない。

 見た目こそ比較的若く見えるだろうが、実際は爺と言われても否定しにくい年代だ。

 親子どころか祖父と孫ほどの年の差がある、分かってないだろうが。

 そしてそれ以前の問題として、結婚相手として幼女を薦めないで欲しい。

 俺はロリコンではないのだから。

 いや、でもこの場合は正確には婚約なのだろうか?

 婚約なら幼女が相手でも分からなくはないが・・・いやいやどちらにしろ俺にはサクヤがいるから遠慮する。

 とは言え態々話の種(ねんりょう)を投下する気はないが。

 そしてそこから始まる勧誘合戦。

 いや、おかしいだろ。

 何で平民の不審者に貴族が自分の娘を勧誘してるんだよ、しかも複数。

 と言うか、全員だな。

 つまり4組の縁談を持ち掛けられているという事だ。

 助けを求めてステュアート婦人を見るも

 「あらあらまぁまぁ」

 とか言って助けてくれない。

 どうしてこうなった。

 和菓子か? 甘味の魔力で狂ってしまったか?

 いや、流石にそれはないだろう。

 甘味で娘を売るとか有り得ない。

 こんな男を押し付けられては娘さんも嫌がりますよとか言いたいが、見る限り4人とも嫌がっていない。

 寧ろまたさっきの和菓子が食べられるかもと喜んですらいるように見える。

 この状況でその発言は寧ろ悪手だ。

 逆に自分の首を絞めることになるだろう。

 何とか、何とかしなければ・・・。




 疲れた・・・。

 あれやこれやと言葉を重ね、やっとの事で矛を収めてくれた。

 とは言え俺の言い分が通ったというより、このまま強弁しても悪印象を与えると判断されただけなように見えるが。

 つまり、全く諦めていない。

 貴族的に見て、俺にそこまでの価値などあるのか?

 得ているであろう情報と言えば、和菓子と・・・武力か。

 和菓子は流石にないだろうから、武力欲しさの勧誘という事になるのだろう。

 そう考えると納得いかなくもないか。

 単独の武力でしかないが恐らく今まで見せた分だけでもずば抜けているだろう。

 それを敵に渡さないという意味でも十分価値はあるだろうし、味方に取り込められればさぞや心強い事だろう。

 ましてやここはモンスターが蔓延る世界なのだから、その重要性は地球の比ではないだろう。

 その為に貴族が娘を差し出すまでするのかという疑問は残るが、婚姻外交と思えば有り得る話だろう。

 だがこの話には一つ前提条件がある。

 貴族が自分の娘を差し出すという判断を下せるほどに確度の高い情報を得ているという事だ。

 俺がこの街に来てまだ数日ほどだ。

 既に色々やっちゃっているので知っている人は知っているかもしれないが、それでもその判断をするには早すぎる。

 ギルドからはないだろう。

 国や貴族とギルドの間にそこまでの親密さはないだろうし、どちらかと言えば奪い合う関係になるだろう。

 今現在国に所属せずギルドにのみ所属しているのに、ギルド側からそんな情報を流すとは考えにくい。

 であれば、答えは一つだろう。

 正確には二つだが、同じ陣営だから一つと考える。

 つまり、婦人とクロードを襲っていた襲撃者を撃退したのを目撃した騎士か、報告を受けた代理か。

 代理からは俺を取り込みたい意思を感じているので、代理の線が濃厚か。

 代理はそこまでする人には見えなかったが、それでも元王族だ。

 必要であればそういう判断も出来るだろう。

 まだそうであると決まったわけではない。

 決まったわけではないが、その可能性が現状一番高いように思える。

 であれば、その可能性も考慮した上で今後行動しなければならないだろう。


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