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68話

 昼食後、余裕をもって早めに屋敷に戻っておいた。

 そして呼ばれたので向かうと、屋外でのお茶会だった。

 しかも何故か既に全員揃っているように見えるのだが・・・。




 終わってみるとそう厳しくもなかった。

 昔の感覚で言えば、この短時間で8人の顔と名前を覚えるのは相当きついし、覚えたつもりでもすぽっと抜けてしまうなどという事はよくある筈だった。

 しかしいざ意識して覚えようとすると、するっと頭に入ってきてしかもさっと出てくるし、お茶会中一度も抜け落ちたりもしなかった。

 数時間後とか数日後とかに忘れてしまっているとかはあるかもしれないが。

 これもレベルが上がったお陰なのだろう、多分。

 他に理由も思い付かないし。

 お陰でお茶会自体に余裕をもって対応する事ができた。

 そしてそのお茶会は、想定通り先ず参加者の紹介から始まった。

 ステュアート婦人が貴婦人と幼女を順番に俺に紹介していき、紹介された貴婦人と幼女が笑顔と共に自己紹介をしていく流れだ。

 俺以外は全員顔見知りだろうから、まぁそうなるだろう。

 そして最後に私と息子の命の恩人であり、当家に客人として滞在されていると称して俺が紹介された。

 身分が一番低い俺が最後に紹介されるのも妥当だろう。

 ただそんな事より俺が気になったのは、貴婦人たちの余りに自然な笑顔である。

 数が少ない『白龍堂』の和菓子を出すお茶会に最初に呼ばれたような人たちだ、当然ステュアート婦人と仲がよく、予めある程度は説明されているであろうが、それを考慮に入れても()()()()()()()()

 端的に言って俺は不審者だ。

 恩を受けた当人たちならまだ分かるが、友人だからといって、いや友人だからこそ俺のような不審者にその様な自然な笑顔を向ける事自体が不自然だ。

 友人だからこそ、その様な不審者に疑惑の目を向けるべきではないだろうか。

 しかし、俺の『目』で見ても不自然さはない。

 何か裏があるとしか考えられなかった。

 また一つ、懸念事項が増えてしまったが、嘆いていても始まらないので頭を切り替える。

 無難に自己紹介を終えると、ステュアート婦人に促されるままに収納から和菓子を取り出し、すすっと音もなく隣に来たマリエルに渡す。

 メイドたちが準備をする最中、ステュアート婦人かクロードかのどちらかから聞いているのであろう、子供たちが期待に胸を躍らせてそわそわしているのが微笑ましい。

 そして表面上は平静を保っているように見せてはいるが、貴婦人たちも内心では子供たちと大差ないのが俺には一目瞭然なのだが、それはそれで微笑ましく感じる。

 余り数がないからだろう、メイドたちによって小皿に盛られた和菓子が各自に配られる。

 もっとあれば大皿なりに盛られて、自分で・・・は取らないか、メイドに取らせて思い思いに食べるのだろうが、そこは諦めてもらうしかない。

 配り終わったのを確認したステュアート婦人が、では頂きましょうと言うと子供たちはもう待ちきれないと言わんばかりに食べ始めた。

 言われるまで我慢していた事も、今正に食べている最中の様子などもこれくらいの子供からは考えられないくらいの行儀の良さだと思う。

 だが俺は、婦人の頂きましょうの頂き位で既に動き始めている子供たちをはっきり確認している。

 礼儀作法を教えている教師が見たら叱りかねない場面だが、俺は子供なのだからそれ位は当然で、寧ろよく我慢していたと褒めたいくらいだ。

 まぁ、実際に褒めたりはしないが。

 いらぬ差し出口をたたく気はないし、この子達が生きていく世界の常識で言えば、俺の方が異常なのだ。

 ここで俺がいらぬ事を言って、この子達が将来恥をかいたらどうするというのか。

 獅子は我が子を千尋の谷に突き落として岩を放り込むという。

 可愛いからこそ厳しく接するのが親の愛情というものだろう。

 断言しよう、過保護は寧ろ悪である。

 まぁ俺は親でもなければそこまでの情もないが。

 等と考えている内に俺以外は全員食べ終わったようだ。

 全員もくもくと食べていたので、お茶会らしからぬ実に静かな時間だった。

 そして俺の手元に集まる視線。

 正確には、手をつけていない俺の小皿にだが。

 俺とて食べたくはあるが、この空気の中で平然と食べられるほど神経が図太くはない。

 が、かと言って皆に分けられるほどの数もない。

 やっていいものかと悩んだ結果、分からないから聞くことにした。

 つまりステュアート婦人に、俺の分を子供たちだけにでも分けてあげるのは大丈夫ですか?と

 その瞬間子供たちの眼が期待に輝いたのがありありと分かった。

 そして貴婦人たちが内心残念がりつつも諦めた事も分かった。

 ステュアート婦人は少し悩み、本当はいいことではないのですがと前置きをした上で、メイドに指示を出して俺の前の小皿の和菓子を切り分けさせ、メイドが幼女たちの前にそれを置いた。

 そう、幼女たちの前にである。

 つまりクロードはなし。

 訳されなかったので内容は分からなかったが、恐らく貴方は前も食べているのだから今日は譲りなさいとでも諭されたのであろう会話の後、幼女の前にだけ小皿が置かれた。

 これには流石のクロードも涙目である。

 実際目の端が僅かに潤んでいる。

 仕方がないとは言え5歳児には酷だろう。

 後でフォローでもしておこう。

 『白龍堂』のでなければ、もう少しストックはあるのだから。


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