67話
マリエルに街を案内して貰っている。
ギルドにも寄ったりしたが、大体は冒険者活動に関係がないところで、それがデートっぽくて寧ろよかった。
そして昼食を取ったのだが、そこで晩餐の料理の微妙さの理由を知るのだった。
遅めの昼食を取り、その後も雑談をしていたのでそろそろ帰ってもいい時間になったと思う。
「そろそろ帰ったほうがいい時間かな?」
「そうですね、まだ少し早いと思いますが、遅れるよりはいいです」
との事なので、一旦屋敷に戻ることにした。
因みにこの世界、1日が24時間ではない。
正確に知る必要性を感じなかったので調べていないが、確実に1時間以上長い。
何故必要性を感じなかったかといえば、態々調べて正確な時間を知ったところで、それを知っているのは俺だけであり、周りの世界は今まで通りの時間で活動するからだ。
具体的に言えば、何時何分に何処何処でと約束しようとしても、相手は今まで通りの鐘を基準とした曖昧な時間に生きているから通用しないのだ。
また時計もろくに役に立たない。
何せ毎日何時間もずれるのだ、その上で時報もないから正確に合わせられない。
そもそも24時間で計算されている時計で対処しようとするのが間違いなのだ。
かといって専用の時計を準備するとかいろいろな意味で怪しい。
もっと言うと、毎日が決まった時間かどうかも定かではない。
何せ異世界なのだから。
等々の理由により、早々に時計による時間の管理は諦めている。
まぁ、時間に支配されたとも言える慌しい毎日とは無縁ということだ、この世界は。
かといって慌しくないのかと言えば、別にそういう訳でもないが。
そんな訳で屋敷に帰ってきたがやはり少し早かったようで、部屋で待っているように言われた。
仕方がないので、また言語の勉強をすることにした。
マリエル先生の異世界言語教室の始まりである。
いやまぁ冗談だが。
流石にマリエルも人に教えられるほどに詳しくないし。
なんとなく女教師マリエルといった単語が思い浮かんだので言ってみただけだ。
実年齢は知らないが外見は若いから、教師というより教育実習生くらいにしか見えないが。
俺の内心はさておき、真面目に教えてくれるマリエルに申し訳ないので、勉強自体は真面目にやっている。
こっちでやっていくには避けては通れない道だしな。
多分1時間も経っていないであろう勉強の最中にドアがノックされ、マリエルが応対する。
戻ってきたマリエルに
「準備が出来たそうなのでご案内致します」
と言われたので後をついて行った。
こっちの方は行った事がなかったなと思いつつ後についていくとそのまま外に出て行った。
どうやら庭でのお茶会らしい。
更に進むと木陰に設置されたテーブルが見えてくるが、どうやら参加者は既に揃っているようであった。
呼ばれたから来ただけだが、こういうのって一番身分が低い俺は最初に来てないと不味いんじゃないか?
お茶会だからその辺緩いのか?
と言うか、準備がどうとかで早めにとか言ってた気がするが、あれは先に来て和菓子を渡せという意味じゃなかったのか?
考えても仕方がないので臨機応変に対応しよう。
行き当たりばったりとも言う。
「ようこそいらっしゃいました、どうぞお掛けくださいな」
席を立ち、そう言ってきたのはこのお茶会の主催者、ステュアート婦人である。
「お招き頂きありがとうございます。無作法者故不躾な言動を取る事もあるかと思いますが、平にご容赦願います」
そう言いながら頭を下げ、唯一空いていた椅子に座る。
「まぁ、その様に固く考えなさらなくてもよろしいのですよ。殿方が取り仕切られる公的な場ではないのですから」
そう言ってころころ笑う婦人。
額面通りに受け取るべきではないのは承知しているが、その言葉自体は有難い。
参加人数が少ないという事は何かあったときに目立つという事だし、会話などほぼない晩餐と違ってお喋りが目的だろうから礼儀なども勿論そうだが、下手な言質など取られないように気をつけなければならない。
そして俺にとって最大の問題、参加者の顔と名前を覚えなければならない。
顔を覚えるのは比較的得意なのだが、名前はなかなか頭に入らないんだよね、昔から。
これから先ず間違いなく自己紹介があるし、一度紹介された人物を忘れるとか失礼にも程があるというものだ。
それが貴族相手だったりしようものなら、その後どうなるかは想像したくもない。
そして今回の参加者は10人、俺は除く。
内二人はステュアート婦人とクロード。
他の参加者は身形や椅子の位置から想像するに、婦人と仲がいい貴婦人4人とその子供が一人ずつ。
見た目が若いから姉の可能性もあるが、それにしては年が離れているようにも見えるので母親だろう。
全員落ち着いた感じのドレス姿である。
子供たちは全員可愛らしい、ひらひらだったりふりふりだったりするドレスを着た幼女。
幼女は言い過ぎかもしれないが、小学生低学年くらいだろう、多分。
この8人をお茶会に参加しながら覚えなければならない。
俺にとって一度に8人は多いが、顔を見ながら心の中で名前を何度も復唱して覚えるしかないだろう。
厳しい戦いになりそうだ。