64話
代理の追及は逃れられたが、代わりに事の真相に対する緘口令を敷かれてしまった。
その代価として望みを聞かれたが、その段階からすっとぼける事で報酬を断ることにした。
報酬よりも信頼を得られるように行動した訳だな。
あれから二日が過ぎた。
今の所ギルドから連絡はない。
俺自身ギルドには顔を出していないし。
今日までこれといって何事もなく過ぎていった。
フラグなど信じてはいないが、どうにもアクシデントが多いようなので屋敷で静かに過ごしていたのだ。
やる事もある訳だしな。
さっさとこちらの言語を覚えて、ソロ活動に支障のないようにしたいのだ。
とは言え、別にマリエルとのPTが嫌という訳でもない。
ないが、ずっとソロだったし隠し事が多い身としては、ソロの気軽さが恋しいとも思ってしまうのだ。
そんなマリエルと、今日は一日付き合う事になっていた。
何故過去形かと言うと、断りにくい所からお誘いを受けてしまったからだ。
まぁ、代理の妻であるベアトリス婦人・・・ステュアート婦人というべきなのか? にお茶会のお誘いを受けただけだが。
と言ってもお誘いはついでで、本来の目的は俺が預かったままになっている『白龍堂』の和菓子をお茶会で出すだけなのだが。
勿論ついで等とは言われていないが、言われなくてもわかる。
マリエルとの先約もあるのでお茶会への参加は断ろうとしたのだが、マリエルに大慌てで止めさせられた。
曰く「私との約束を守ってくれるのは有難いのですが、奥様のお誘いを断るなんて大それた事はしなくていいです。寧ろしないで下さい。私に付き合うのもお茶会の間は抜きでという事にしますから」と言われてしまったので、素直に参加する事になった。
婦人には、お茶会自体は昼二の鐘の後からだが、準備もあるので鐘が鳴る前くらいには来ていてほしいと言われている。
なので、それくらいに一旦中止して戻り、お茶会が終わってから再開する予定になっている。
今は朝食も終わり、自室でマリエルが来るのを待っている所だ。
女性の身支度は時間がかかるもの。
世界は違うがきっとそうだろうと思われるので、気楽に絵本で復習しながら待っている。
別れる前のマリエルは、それはもう楽しそうだったので俺も少々期待している。
・・・・嘘です、かなり期待しています。
だってあんな可愛い娘とデートだぞ、期待するに決まっているじゃないか!!
まぁ、向こうはデートと思ってないだろうけど。
知り合いとちょっと遊びに出かけてくる、くらいの認識じゃないかなぁ。
それがわかっていても期待してしまうのが男のサガだろうが。
などと考えているとノックがされ、返事をするとマリエルが入ってきた。
「お待たせしました、ルイ様・・・その、いかがでしょうか」
そう言って俺の前でくるっと一回転して見せるマリエル。
正直服の事などよくわからないが、服そのものは余りぱっとした物ではないと思う。
強いて言うならTHE街娘といった所だろうか。
実際似た感じの服を着た娘を街中でよく見かけるし。
だがそれが、マリエルのような可愛い娘が着ると途端に素晴らしい服に見えるから不思議だ。
美人さんは何を着ても似合うというのは本当だなぁ。
まぁ、その美人さんばかりなのだがな、この街は。
それでも尚可愛く見えるのは、俺の贔屓目だろう。
だがそれがどうした。
比較など無意味。
俺には可愛く見える、それで十分だ。
だからこそ俺は、躊躇いもなくこう答える。
「よく似合っているよ。私服姿は初めて見るが、何時もにも増して可愛いよ」
そんな俺の言葉に、はにかみながらも嬉しそうに微笑むマリエル。
ぐっ、中々の破壊力。
そんな表情を見せられては、勘違いしてしまいそうになるではないか。
「そうですか、よかった」
俺にどう思われても大した意味はないと思うが、悪く思われるより良く思われたいのは当然だろう。
そういう事にしておく。
しかし、一応マリエルは勤務中ということになると思うのだが、私服で遊びに出掛けて大丈夫なのだろうか?
そう思い聞いてみると
「ルイ様、これから私たちは遊びに行くわけではありません。ルイ様にこの街を案内して回るだけです。確かに今は勤務中でありそういう意味ではメイド服を着ておくべきかもしれませんが、メイド服では不必要に目立ってしまいます。今日の目的からすると目立つのは余り好ましくはありませんので、これはあくまで目的に沿った違和感のない衣装を選んだだけです。遊びに行くからおめかししたとかそういうことではありません・・・・・・本当ですよ」
などと目を逸らしながら言い、最後の一言だけはこちらを見て言ったが顔は真っ赤だった。
それなら最初にギルドに行った時とかに、メイド服のままだったのはどうなのだとか問い詰めてみたくはなったが止めておいた。
それはそれで楽しそうではあるがせっかく二人で出歩くのだ、いきなり機嫌を損ねるような事をするものではないだろう。
そもそも元を正せばマリエルのご機嫌取りなのだ。
真反対の事をやってどうする。
「さぁ、そんな事より行きましょう、ルイ様」
そう言い、俺の手を取ってバルコニーに誘うマリエル。
あからさまな反応にしか見えないが、ここは流されておこうか。
そしてバルコニーでマリエルを抱えてから
「じゃあ目的地まで誘導してくれるか」
「はい。先ずは・・・あちらの方に向かってください」
と指差されたので、そちらに向かって飛び出す。
今日はどんな所に案内してもらえるのだろうか。