63話
代理の追及に、仕方なく詳細を説明した。
しかし俺の説明では納得してもらえず、マリエルの説明で一応矛を収めてくれたようだ。
ただ気になるのは、二人とも俺を魔法使い扱いしている事だが、これでも一応剣士のつもりなのだが・・・。
「確かに本人の口から魔法による飛行が可能と聞いているし、最近二人が空を飛んで移動していると報告も受けている。我が妻子を救助した際にも飛んでいたらしいしな。これだけでも信じ難いことではあるが、だからこそそれ程の援護を行えるという話にも信憑性が出てくる。これは益々・・・」
代理がボソボソ小声で言っているが、魔法で声を拾っている俺には丸聞こえなのだが・・・。
これは貴族にあるまじき失態、ではなかろうか。
それ程に動揺しているという事なのか?
まぁ、俺じゃなければ聞こえなかったかもしれない程の小声ではあるし、途中からは俺でも聞こえなくなっていたから、普段であれば問題にならないのだろうが。
いや、今回も問題にはならないか。
俺は敵対も利用も考えていないし、寧ろ援助を考えているくらいだ。
代理には今のままの力を保持してもらいたいし、関係も良好な状態を維持したい。
それこそが俺にとって最も好都合なのだ。
「話は分かった。この事はここだけのものとし、緘口令を敷くものとする。何か聞かれた時は、ギルドマスターに答えた内容を押し通すように。貴殿にしてみれば自分の功績を明かすなという事になるが、自らそう公表しているくらいなのだ、然程不満はあるまい」
何とか気を持ち直したのであろう代理が、そんな事を言い出した。
「確かに俺としましては公爵閣下相手だからこそお話しただけであり、緘口令自体に異存はありませんが、マリエルが言うには分かる者には分かってしまっているだろうという事ですが、それはよろしいので?」
「勿論よくはない。が、表向きはそうではないし、だからこその緘口令なのだ。公的に認められており、本人も認めているのであれば、外野がどう騒いだ所で大した問題にはならないし、させるつもりもない」
微妙に怖い事を言うな。
それでも騒いだ場合どんな目に遭うのやら。
「承りました。では、以後誰に聞かれようともギルドマスターに話した内容に留め、口外しない事に致します」
「そうしてくれ。無論ただでとは言わぬ、何か望みがあれば聞こう」
元より明かすつもりなどなかった事を明かさないだけなのだから、別に対価などいらないのだが・・・。
とは言え、何も求めないのも逆に信用されない場合があるし、代理の顔を潰す可能性もあるか。
さてどうしたものかな。
「はて、俺はギルドマスターに報告した内容を公爵閣下にも報告しただけの事。改まって褒美をいただくような事ではございません」
これでどうだ?
「ほぉ・・・なるほど、そうかもしれんな。では、褒美は不要なのだな?」
「勿論です。件のゴブリン討伐の報酬ならギルドから貰える事になっておりますし、その際にギルドマスターにした報告を領主代理であられる公爵閣下にもしただけの事で、両方から報酬を貰っては報酬の二重取りになってしまいます」
「そういう見方もあるか。欲のない事だ」
「いえいえ、公爵閣下には十分以上に良くして頂いております。それでもそう見えるのは、持つ者と持たざる者の差でございましょう。持つ者にとっては僅かな物でも持たざる者にとってはそうではないという事です」
「そういうものか」
納得してもらえた、かな?
猜疑心が強い者相手なら口止め料を受け取らないのは喋る気があると受け取られかねないし、それ以上の物を積まれれば喋るという見方もある。
しかしそうでない者がある程度以上信頼している者に払うと言っている口止め料を断った上で喋らないと言うのであれば、それは幾ら金や物を積まれても喋らないという事である。
誰にでも使える手段ではないが、条件さえ満たせば口止め料を受け取るよりも余程信頼してもらえるのだ。
そしてそれこそが俺の望むものである。
しかし本来信頼とは僅かな期間で築けるようなものではなく、長期的に、それこそ何年何十年と掛けて築くようなものなのだ。
そうでありながら可能な限り早く、ある程度以上信頼されたいのであれば少々の無茶は致し方ないというものだ。
今回のこれは無茶とは少し違うが。
そして築く以上に大事な事が壊さない事である。
築くだけならそれこそ時間を掛ければ難しい事ではないが、それでいて壊れるときは一瞬で壊れ、もう二度と元には戻らないのが信頼というものである。
これまででもそれなりには信頼されている筈だが折角の機会だ、より磐石にするべく有効に活用するべきだろう。
これで代理からの信頼も更に増すだろうから、後はそれを裏切らないように注意して行動をすればいい。
それだけで異世界という縁もゆかりもない場所に信頼されている貴族が治める街という拠点を確保できるのだ、安いものだろう。